Dreamf-15 明かされし嘘(B)
4
今、少し不安がある。
友里は一体、今の自分をどう見ているのかという。
「ハアッ!
デアァッ!! ――――」
だからと、もう引き下がる気はない。
友里を守る。その決意で、里桜は引き下がる道を塞いだ。
鈴果は銃を使った霊装での戦いを仕掛けてきている。故に接近戦に持ち込んでいけば有利に戦いを持ち運べる。
「チッ……」
鈴果に銃口をむけさせる暇を与えない。
里桜の突きや拳をかわさせ、反撃を許さない。
「うっとうしいな……!」
大きく飛び下がり、
「させないって!」
すぐさま、里桜は鈴果を追いかけて地を蹴る。
トリガーを引かれる前に――
と、言うところで、鈴果は銃を上空に放り投げ、
「なっ!?」
「ハッ!!」
あろうことか、鈴果も里桜と同じ土俵に乗り込んできた。
鈴果が打ち出してくる掌底。
呆気を取られて、防ぐ体勢に入れなかった。
その一撃を体で受け止める事になった里桜。
「あぅっ、グッ――」
「――ッ!」
もろに攻撃を受けて動きをとれなくなり、
さらに追撃――
少し距離が空いたところ、一歩踏み出し軸足に、
鈴果は後ろ蹴りを里桜の首下の溝を突き飛ばし、
「……ッ、ハッ!」
すぐさま里桜の首根を掴んで思いっきり突き飛ばした。
とてつもない衝撃音の中に、里桜の悲鳴。
瞬間、巻き上がった土埃とともに里桜が奥の岩盤へと吹っ飛ばされていった。
スピリットの里桜自身ですらいつの間にと思えるほど、刹那よりも速い間であった。
「うぁ……っ、」
一気に形成を逆転され、
それ以上に危険な立場に立たされた。
立ち上がって、態勢を立て直さなければ押し切られる。
殺される。
地に手を着いて立ち上がろうとする里桜に、
先ほど放り投げ、落ちてきた銃を手に取り、
「……ッ!」
里桜の額に銃口を当てる鈴果。
「まさか君が、八人目だったなんてね」
「クッ……!」
「けど、霊装も使わず僕を倒そうなんて、出来るわけないだろ。そんな舐めた戦い方をするから、君は今、ここで死ぬんだ。いや、それともスピリットを相手にするのは初めてだから、使うのをためらったのかな? まるで、円みたいな事をするじゃないか。でもま、そのおかげで君というイレギュラーがあっても思った通りに事が運んだけどね」
完全にたたき伏せられた。
鈴果に、里桜を見逃すという意志は感じられない。
「ねえ! 円は……円は何で来ないの!?」
それは、鈴果の気をそらそうという意図があってか。もしくは時間稼ぎか。友里は鈴果に問いかけた。
確かに、ここまで派手な空間を作りだしておいて円たちが気づかない訳がない。
気づいたら、やってくる。
「ああ、気づかれないように念入りに細工したからね。それに例え気づいたところで、やっては来ない」
「え……?」
「だって、強化体のビーストが出たら、円が戦わないといけないだろ?」
「…………ッ!?」
5
轟く甲高い咆哮。
そこは、住民たちの避難所にほど近い、住宅地であった。
「――ッ、ハアッ!!」
一突きにしか見えないほどの高速な連撃。
だが、効いていない。
全身が剣山のような見た目をしており、頭からは巨大な角を生やしている、巨大な二足歩行のは虫類のような見た目をしているビースト――『リサイブド』。その、ファントムヘッダーによる強化体。
怯む事すらもないリサイブドは、腕から生やしている剣で円を切り裂こうとしてくる。
「クッ――ソッ!」
ノーブルモードならば反応しやすい。
振り下ろそうとする直前、リサイブドのその腕をのトンファーで弾き、
「ハッ!!」
リサイブドの顎下に一撃――
「オリャァアッ!!」
最後に両手での強い一撃を与え、
円はビーストと距離を取って構えをとる。
ダメージはあるようだが、中々にしぶとい。
もう一分も戦っている。
なのに地面に倒れる素振りさえもない。
すかさず、腕の剣を一振り、
刃は空を裂き、斬撃が飛んできた――
「ナッ!?――くッ!!」
とっさに、両腕のトンファーをX字に組んで受け止める。
重い――
「――、ラアッ!!」
受け止めきる事は出来ない。
すぐさま、
両腕のトンファーを横にそらすことで真空波の軌道を逸らし、
地面に叩きつける。
こうも攻撃が通りづらい上にパワーも強い相手に、ノーブルモードは向いていない。
「チッ……」
すると、ノーブルドライバーが光を発し形を変え、二本の短い警棒へ。
円はそれら二つをつなぎ合わせてサイズを小さく、
腰から下げている小さなホルスターへと仕舞った。
沙希が円の為に作ってくれたツール。
そして円が周囲の物体を武器に帰ることができる能力を持っている事を以て、昨日の記録の話を参考に、あらゆる形状に変化させる事ができる警棒を作ってくれたのだ。
これでストレンジモード以外のモードチェンジを発現させたとしてもすぐに対応ができる。
「――ッ、ハアッ!!」
そしてコロナリングを出現させ、
触れ、
赤い光を纏う。
一か八か――
円は両手を広げて陽光のごとき多量の光をため込む。
――ストレンジブレイズウェーブの態勢。
それはさせない、と、
リサイブドは腕の剣を構え、薙いだ、
その瞬間多数の火花が散り、リサイブドの動きを止めた。
円、両手を突き出し、
出現させた小さな太陽にプロミネンスが一杯にため込まれ、
大きく身を引いて力をため込んで。
「ハァアアッ!!!」
大きく踏み出し両手を広げるように突き出し、
球体を爆発させた。
瞬間、内にたまっていたプロミネンスが太陽フレアのように噴き出し、リサイブドの方へと一直線に向かう。
直撃は刹那、
空間がゆがんで見えるほどに強烈な衝撃。いつものビーストならば、ほとんどの場合この時点で勝負を決められる。
が、やはりそうはいかず。
悲鳴をあげるもリサイブドはその場で踏みとどまる。
最後は爆発に吹っ飛ばされて仰向けに身を倒す。
「今のは?」
「マドカ!!」
誰がフォローしてくれたのか、
その答えはすぐ。
「ケイスさん!」
「どうやらやられてはいなかったようだな」
チーム・エイトの四人であった。
本木を先頭に四人、円と肩をならべてアサルトライフルの銃口をリサイブドへと向ける。
全員、SSCの戦闘服と兵装を装備。
普段着とほとんど変わらない円と比べて圧倒的に重装に見える。
「他のチームは?」
「いや、今は避難活動の援護に入った。俺達だけだ」
「なっ!? …………」
普通ならば、ファントムヘッダーの強化体が相手であるとならばSSCの戦力ならば三チーム全て出さないと相手にならないはずだが、ふと考えてみれば今ここに円自身がいるので、チームの方は戦闘援護に回る役回りなのかと理解した。
「それよりも天ヶ瀬」
「何です?」
「桐谷恵里衣と一緒じゃないのか?」
「え、何で?」
「ここに来る直前、あいつのエネルギーが探知された。ビーストと戦ってなのかと思っていたが」
「……?」
なにを言っているのかさっぱり分からない。
意識がビーストに向けられている分、そういった思考に頭を回しづらい。
その時、リサイブドが腕の剣を薙ぎ払った――
「ハッ!!」
撃ち出された斬撃波、
円、一歩踏み出し平手で受け止め、
「オリャアッ!!」
そのまま弾き飛ばした。
だが、その次波を撃ち放たんと、
腕を引き込む初動――
「――ッ」
本木の指示など必要ない。
四人一斉にトリガーを引き、リサイブドの動きをけん制した。
普通の銃弾ならばビースト相手には痒みすらならないが、
込められているのはスピリットたちの放つエネルギーのそれと同じ力で撃ち出され、
それと同じ力を纏っている銃弾である。
確実にダメージを与えることが出来る。
――それも、普通のビーストならば。
ファントムヘッダーによる強化体であるのならば牽制程度にしかならない。
「話はまた後だ。こいつを片付けるぞ!」
「はい!!」
五人、構える。
リサイブドの咆哮が響き、
「ハア――ッ!!」
散開し、
「ゼアッ!!」
円とリサイブドが衝突しあった。
6
「そんな、なんて……」
「まあ、これですべて予定通り」
その指はためらわず、トリガーに触れ、引かれ、
黒弾が撃たれ、
その銃声、銃弾は里桜の額を砕く――
その前、
その瞬間、赤い斬撃が鈴果の、
銃を持つその手、腕を、断ち切った。
「――――ッ!?」」
突然、自分の身に起こったことに驚愕の表情を浮かべた鈴果。
すぐに事を察したようで、すぐさま大きく引き下がりーー
「ハアッ!!」
さらに鈴果を斜め一閃に裂く赤い斬撃、
それとともに、赤い光を放つ少女――桐谷恵里衣が降り立った。
7
「あっ――」
くちゃっと肉が裂ける音、
鈴果の身が真っ二つに――
「「――ッ!?」」
友里も里桜も絶句し、固まり、
目の前の光景から目が外すことが出来なくなってしまった。
ドサッと、二つ割れた鈴果の体は地面に崩れ落ち、黒い影と共に消滅した。
終わったのかーー。
「いつもいつもよくもやってくれるじゃないか」
「…………」
そのとき、またいつぞやと同じように、
今までその場にずっといたかのように鈴果が姿を現した。
先ほど切断された腕も元に戻っている、どころか、里桜が与えていたはずの傷も無くなっていた。
友里も、もちろん里桜も戸惑いの表情を浮かべている。
対して恵里衣ただ一人は「やっぱりか」と、黙して鈴果を真っ直ぐと見据えている。
「首をへし折り、体を斬りつけて、今度はバラバラ。痛いのは変わらないんだから加減してくれないのかな」
「…………」
今までは鈴果の呆れ口に軽口で返していたはずの恵里衣だが、今度は完全に黙っている。
そんな恵里衣の姿を見て、口元を歪ませる笑みを浮かべる鈴果。
「そうか、今度は本気か」
「ええ」
「うん、いいね。ならいつぞやの問題に答えようか」
「……」
「君の刀か、僕の引き金。どっちが早いか――ッ」
「――――ッ!」
恵里衣が地を蹴り、赤い残光が空を走る、
鈴果が銃口を向け、黒弾が込められ、
恵里衣の姿が視認できるその瞬間の前に、
黒弾が撃ち放たれた。
「ハッ!」
だが黒弾が恵里衣を穿つ事はなかった。
むしろ、恵里衣はそれを呼んでいたかのように、黒弾を斬る。
そして一歩、
「――ッ!!」
跳び、鈴果へ間合いを詰め寄る。
詰め寄れば弾は怖くない。
斬撃、赤い剣閃――
鈴果の持つ銃に黒い光が宿り、
赤と黒の光が爆音と共に飛び散った。




