Dreamf-13 海と水着と古代の贈り物(C)
10
海岸際の林道まで来たようで、円を置いてビーストが出現するであろう地点から大分離れてきた。
ビーストは、もう出現しているのだろうか。いつもならばビーストが出現する直前に、世界が反転するような感覚に襲われるのだが、それが起きていない。
もしかしたらさっき研究施設の方から聞こえた警報は誤報でビーストは実は出現しなかったという物なのだろうか。出来ればそうなって欲しい。
そう思った友里は前を走る恵里衣に向かって、
「ねえ、恵里衣ちゃん」
「何?」
「なんにも無いみたいだし、いいんじゃないかな? 逃げなくても」
と言う。だが、恵里衣はしばらく沈黙した後「だめよ」と一言。
「何で?」
「…………」
そして黙る。
つまり、そういうことである。
友里は立ち止まって、来た道を振り返る。
「友里? どうしたの?」
「ごめん里桜、私やっぱり戻る」
「何言ってんのさ!」
「円が心配だから――ッ!」
「――ちょッ!? 友里!!」
里桜が追いかけようとしたころには友里はもう翻して来た道を掛けている所であった。
それを追いかけようと足を踏み出した里桜――
「いい、私が行くから。アンタはなるべく遠くへ行ってて」
「あ……うん……」
彼女を制した恵里衣は、友里が走り去って行った方へ駆けて行った。
来た道を――円のいる方へと駆けて行く。
林道を抜ければもうすぐそこの筈。
円の所へ行って何が出来る。と――
(円……円……ッ!)
そんな思ってもみなかった事を、円の名前を胸中で何度も呼びながら振り払う。
――爆音、破砕音、衝撃音。
聞こえる。確かに、円が戦っている。今度は、今の――赤い色の円を直視できるだろうか。
曲がり角を抜けた先で、林道を抜ける――
「――ッ!」
――抜けられなかった。
走ってきた道は一本道で迷うはずもない。ただ来た道をたどって、曲がり角のすぐそこに林道へ抜けることが出来る出入り口があることをしっていたーーはずなのに。
「これって……ッ」
既視感。
それは、去年の12月の頃。初めてビーストに遭遇したときに体験した出来事であった。逃げられない。先程まで聞こえた音も、ぷつりと止まった。
曲がり角を抜けた先。まだ林道が続いているようであった。しかも、出口がない。円が言っていた。
ビーストが出現する直前、空間が強烈なゆがみが発生し、その周囲が人間では脱出不可能な異空間に変化する、と。その空間の名――
「境域……?」
「いや」
それを口にしたとき、少女の声がした。
「――ッ!」
林の物陰からその声の主が現れる。
黒いワンピースドレスを着て、ウェーブのかかった長いブロンドの髪と翡翠色の瞳をした、西洋の人形のような同じ年ぐらいの美少女であった。
「あなたは――ッ!?」
「やあ、友里。久しぶりだね」
少女――四人目のスピリットは、友里のたじろぐ姿を見て口元をつり上げた笑みを浮かべる。
(香々美……鈴果……)
彼女とは、一度しか会ったことがない。
が、その一度目、友里は鈴果に殺されるところであった。彼女の力なのか、友里の体の自由を奪い、
その手で友里の女として大事な部分を奪って、そして最後は友里自身の命を奪おうとしてきた。
思い出すだけで呼吸が荒くなる。何もされていないのに恐怖で体が金縛りにあって動くことすらも出来ない。
この少女は、危険なのだ。
「何で……っ、こんな所に?」
「何で? そうだね、あの日の続きをしに来た……」
「――ッ!?」
思い出す。鈴果の能力によって体を固められ、ベッドに押し倒され、
――今の君の全てを奪ったら、どんな顔をするのかなぁ、円……。
――君の心も、
体も……
その命も、全てを奪ったときの、円の顔……。
――見てみたいと思うだろ? 君も。
初めて鈴果と出会った時の事を。
思い出すだけで、恐怖で体が凍り付いてしまう。
「でも、いいんだけど……」
「え……?」
「それよりもここが面白そうだからじゃないかな? 君も、円も、そしてあろう事か恵里衣もいる。あの日に関係した全員がこんな形で揃うなんて、あると思うかい?」
「あの日……?」
「そうか、君はまだ聞いてなかったのか。いや、この分だと円も知らないか」
「なんの話……してるの?」
今、友里の中で、「ダメだ」と言葉が浮かんだ。
鈴果の話に耳を貸してはいけない、と。
だが聞いてしまったのだ。鈴果はそんな友里の問いに答えてやろうと、怪しい笑みを浮かべて、
「君ならいいか……」
「え?」
「いや、むしろ君のほうがいい」
「何を言って――ッ」
と、鈴果が何かを呟いているようで、それを聞き返そうとしたとき、鈴果は一歩、また一歩と近づいてきた。
逃げないといけない。
だが、逃げられない。体が動かせない。しかし今度は鈴果の能力ではないのと言うのはすぐわかった。恐怖で体が動かなくなっているのだ。
落ち着かせないといけない、と、友里は自分の胸を押さえて何とか鈴果から目――視線をそらせようとする。絶対耳を向けない、と。
だからなのだろう、鈴果は友里の方へと近づいてきているのだ。
「絶対に今からいう事を聞け」と――。
あと五歩、
――四歩、
後、三歩、
「鈴果ーッ!!」
の所で上空から鈴果の名を叫ぶ声――
瞬間、
「ハアッ!!」
「――ッ」
赤い剣閃が、鈴果を斬る。
だがそれを咄嗟に飛びのいて躱した鈴果。
道には斬撃の痕が残り、その痕と友里の間に、円の放つ太陽のような赤い光とは違った、炎のような赤い光を放ちながら、恵里衣が舞い降りた。
その手には、恵里衣自身の身の丈を超える刀身の刀が握られていた。
打たれたばかりであるかのようにほんのりと赤熱した刀身は、冷え込んだこの場の空気を熱くしている。
「恵里衣……ちゃん……?」
「大丈夫? 友里」
友里の方に振り向くこともなく、恵里衣はただ鈴果の方を見る。その当の鈴果本人は、小さく溜め息を吐きながら立ち上がる。
頬を掠めていたようで、その頬には切り傷――そこからは黒い光が漏れ出していた。それは一瞬で、傷はすぐに塞がった。
「さすがにガード無しにウリエルで斬られると、スピリットの肌も傷をつけられるか……」
「何なら、その首も斬り飛ばしてやるわよ」
「へし折った挙句、斬り飛ばすか。僕以上に残酷な事を口にするじゃないか」
「分かってるじゃない。冗談じゃないって事」
刀身が鏡となって鈴果が映り込む。赤熱した刀身に映っているとまるで、鈴果が炎の中焼き尽くされている様にも、見えなくも無い。
「まあ、いいか……」
「……何が」
「今回はちょっとドンパッチありそうだし――」
と、鈴果のすぐ傍に黒いゲートが出現。そのゲートに手を入れ、そこから長身の銃を取り出した。
「遊んであげるよ、恵里衣」
「今日はそういう気なわけね」
瞬間、恵里衣は跳び、
刹那、鈴果の銃身と恵里衣の刀身が交わられた。
11
「――ッ、
ハアッ!!」
円の両手には金色の装飾が施された青いトンファーが装備されていた。
無数の青い光の尾を引き、振るわれるトンファーがグローハンマーの体を殴打し、
間髪入れられずもう一撃が穿たれる。
穿たれるたび、青い光の波紋が出現している。
グローハンマーに一撃を入れる暇など無い。
たとえ、その連撃のなか入れよう物ならば――
「――ッ」
円はその一撃をトンファーでガードして受け流し、
「オォラアァッ!!」
体勢を整える前にで数十の連撃を加える。
青色の光、ノーブルモードは速攻型の形態。一撃一撃はストレンジモードには及ばない物の、その速さはグローハンマーに再生の暇を与えないほど。
さらにノーブルモードでのトンファー状の武器、ノーブルドライバーによって足りないパワーをカバー。
身を破壊されて、再生が始まる頃にはすでに円の攻撃の次波がやってきている。
「ッ――」
左での横払いでグローハンマーの動きを制し、右に持つトンファーのリーチをピストンの様に引っ込めて青い光を集約。
「ハアッ!!」
そして右のトンファーをグローハンマーに穿つ。
瞬間に飛び散る青い光。
そして引っ込められたリーチが押し出されるピストンによって伸び、
水面を連打するように波紋が出現。
その波紋一つ一つが、グローハンマーに与えられる衝撃。
故に、グローハンマーに一撃で十を超える攻撃を与えられた。
衝撃に圧されるようにグローハンマーは後ずさっていき、ふら付く。
「――ッ、
ハアァ……ッ!」
そしてもう一度、円は力を溜め込む。
今度は両手に持つトンファーのピストンが後ろに引っ込み、
先ほどよりも多くの光がトンファーに宿り、
「――ッ」
跳躍。その刹那に――
「ゼアアッ!!」
グローハンマーの懐に両腕のトンファーが穿たれる。
半歩引き下がり――
瞬間、引っ込んでいたピストンが勢いよく押し出されて、さらにもう一撃。
二つの殴打が穿たれた。
青い光の波紋が一〇〇近く――
その分だけグローハンマーの身を砕く衝撃が発生。
結果、無数の衝撃音が止んだ後のグローハンマーの体中はヒビと穿孔痕だらけになっていた。
さらに、再生が遅くなっている。
スタミナが削られたから――それだけではない。ノーブルドライバーには相手の特殊効果を弱める特性があるようで、それによってグローハンマーの再生能力を奪って言っていったのだ。それがようやく、表面に出ただけのこと。
人間で言う、うめき声のような鳴き声を漏らして、今にも崩れ落ちそうなグローハンマー。
円はノーブルドライバーを地面に捨て置き、赤い光を纏う。そして――
「ハァァアア……ッ」
両手を大きく広げて太陽が発するような光をため込む。
渦を巻くように園光は円の両手、体全体に集約され、
円が両手を突き出すと、それら全ての光が突き出された両手の間で太陽となった。
形は歪なな線と面で作られた球のようである。
だが窓から両手で楕円を描くように両手の位置を逆にすると、それに沿うように、太陽の形は球となった。
球の中には渦巻くプロミネンスが詰められている。
円は大きく身を引いて力をため込み、
「ゼェエアアッ!!」
大きく踏み出し、両手を広げるようにしながら球体に突き出し――
瞬間に球体は爆発。
刹那、
内にたまっていたプロミネンスが太陽フレアのように吹き出し、動けぬグローハンマーの方へと空を焼いて向かっていった。
光の速さで向かってくるフレアを、
なおかつ多量のダメージが蓄積している状態で防げるはずもない。
防ぐ暇さえ与えられない。
円の放ったフレア――ストレンジブレイズウェーブがグローハンマーに被弾した瞬間、
その強大な衝撃故、空間が歪んで見えた。
身を焼かれ、穿たれ、
そしてグローハンマーは氷塊が砕けるように、
ではなく、顔から足へ――手から手へと、
骨肉が破壊されるように爆散した。
もう再生の兆しは無い。
「――ッ!?」
そのとき、不意に見られていると感じた。
振り向く――
「気のせいか……?」
先ほどもだが、誰かに自分が見られているようだ。
だが、友里たちと一緒に居たときに感じた視線と、今とは少し違った。
先ほどのを「冷たくて不吉である」と例えると、今のは「強い威圧と存在感がある」と例えられる。
「まさか……」
そのとき、ふと、彼を思い浮かべた。
金色の光を放つ――皇を。
12
飛び交う黒弾、
空を斬る赤い剣閃。
鈴果の霊装、幻獣アルタイルのトリガーが引かれるたびに空中に黒弾がとどまり、
それは鈴果の任意のタイミングで恵里衣を追尾して発射される。
トリガーを引く瞬間が見えてしまう故、トリガーを引いた瞬間に発射される弾は意味がない。
それどころか、トリガーを引く寸前に注意が対象に集中してしまう分隙が一瞬生まれる。
スピリット同士の戦いではその一瞬が致命的。
ビーストのようにやたら目の前の物を破壊してしまうと言った衝動で戦っているのではなく、
綿密に策を練り、機会をうかがってくるのでその一瞬が最期となるやもしれない。
それをよくわかっているから、鈴果はトリガーで射出した黒弾を空間に留めているのだ。
むろん、恵里衣も黒弾が発射されたからと身構えて足を止めるような真似はしない。
手近にある黒弾は鈴果が発射するまえに斬り、
尚且つ、鈴果との接近を試みてその過程で黒弾の数を減らしてリスクを減らす。
(こう数が多いと鈴果を斬れない……!)
自分が被弾するリスクを斬る分、鈴果が少し遠くなっている。
接近して、例え斬撃を加えたとしても一発ではかわされ、では二発目となると黒弾が恵里衣を襲い来る。
そしてそれを捌いている内に体勢を整えられて三発目を鈴果に振るってもまた躱されて、距離を離されてまた戻る。
ならば、光弾、光刃ならば、と。
それでは黒弾をそちらに回されて相殺。
空間に留めている黒弾が切れることは無い。掻い潜ったとしても一気に出せる光弾や光刃は限られている恵里衣。
無数と言えども、スピリットが相手では躱されるか素手で弾かれるか。
鈴果はそれら全ての行動を起こす。
ある程度の光弾や光刃は黒弾で相殺。
そして余ったものは舞うように躱して、
最後の一、二発は体勢を整える際に弾き飛ばす。
「ははは……恵里衣、全然届いてないよ? そんな弾じゃなくて、僕を斬らないと」
「それを言うなら、鈴果も私に一発も当てれないわよ。こっちには切り札があるの、知ってるでしょ」
「そっか、じゃあ今使いなよ」
そして鈴果はアルタイルを横に振り払いながらトリガーを引いた。
瞬間、恵里衣の周囲に無数の黒弾とゲートが出現。
「チ……ッ!」
もっとも、これら全ての狙いが恵里衣のみに向けられている物とは思いづらい。
未だ鈴果と恵里衣の戦中、逃げ出すことも出来ない友里にいつ向けられるのか。
今回も友里を狙って姿を現したという所が見られるのだから。
だが、手が無いというわけではない。
自身の特性――
(空間操作なら……ッ)
自分の周囲の黒弾とゲートを別の次元へ、
そして恵里衣自身と鈴果の間の空間を斬る。そうすれば鈴果の攻撃を捌きつつ距離を詰めることができる。
(でもこれだけの奴全部、相手する空間操作なんてしたらエネルギーが……)
切れる。
「クッ……!!」
そう考えたところ、恵里衣はその邪念を噛み潰した。
「構うか!!」
ウリエルに赤い光、そして無を表すかのような黒い稲妻が宿り、
「ゼアアッ!!」
大きく振るわれ刀身は、空――空間を斬る。
そして出現した。
斬裂され、虚無の空間の入り口が。
虚無の空間は広がり、恵里衣のを取り囲む黒弾とゲート全てを飲み込む。
そして、鈴果と恵里衣の間を塞ぐ壁となり――
「――ッ!?」
故に、恵里衣の行動は鈴果から見えなかった。
ウリエルが振るわれている事さえも――
突然、目前に刀身の切っ先が出た時にようやく気付いた。
空間に不可視の亀裂がある、と。
「ハアア――ッ!!」
亀裂から恵里衣が飛び出してきた。
その身には、まるで危険信号を発しているかのように光の波紋が体全体を覆っていた。それが、スピリットのエネルギー限界を知らせるものである。
もはや大技は放てない――。
「クッ――!」
恵里衣のゼロ距離からの斬撃に今まで余裕の表情を浮かべていた鈴果だが、この恵里衣の決死ともいえる特攻相手では余裕を見せる素振りすら見えない。飛びのく。
だが、ウリエルのリーチは長い。
――逃げきれない。
鈴果の肩から腰に向けて斜めに入る斬撃。
刀身の芯が捉えた。
「――ッ!」
咄嗟に鈴果はアルタイルの銃身で食い止めて、軌道を流す。
「デアアッ!!」
「グアぅッ――」
流されてさえ、鈴果の体にウリエルの刀身は触れた。
鈴果の体を斬裂することは出来なかったものの、大きな傷を与えることは出来た。
それも、エネルギーを自身の回復に回さなければいけない程には。
「チッ……。よくもやってくれる」
鈴果は飛びのき、恵里衣と距離を大きく離す。自分の体に付けられた大きな傷を指でなぞる。
傷口からは溢れ出る血液のように光が漏れ出している。
「高いんだよ、このドレス」
そしてまた余裕を見せる鈴果。
瞬間、周囲の風景が黒い影に食われていく。
「な、何なの?」
背後で突然の変化に戸惑う友里。
黒い影に食われてゆく空間の、境、そこからは太陽の光が漏れ出してきた。
おそらく、鈴果が展開した空間が消滅する前兆だろう。
今、鈴果は自身のダメージを回復するのにほとんどのエネルギーを回している証拠だ。
数十秒して、空間は完全に消滅。
元々いた場所に帰ってきていた。
ぐじゅぐじゅと言う音と共に鈴果の体の傷が癒えていく。
「全く、ちょっと遊ぶ程度だと思ってたのに、酷いじゃないか、恵里衣」
「喧嘩吹っかけたのは、あんたでしょうが」
「僕はそこにいる友里にようがあったんだけどなぁ」
「何の用?」
「何の用って、そりゃ教えておきたいことがあってね」
「何を」
「君が知る必要はない」
「……ッ!」
「でも、君が一番分かってるんじゃないかな」
首を傾げ、不敵な笑みを浮かべる鈴果。対象に、それ以上口を開いたら殺すと言わんばかりの威圧的な眼光を向ける恵里衣。
瞬間、遠くのほうで爆音が鳴り響いてきた。
「――ッ!?」
「あ~あ……やられちゃったかぁ」
爆音が聞こえた方を見やりながら言う鈴果。それはビーストの事だろう。
鈴果が展開した空間が解かれた瞬間に感じたビーストの気配。それが爆音の中に消えていったのだから。
「やっぱりただのビーストじゃ手も足も出ないか……。次は考えないと」
「あんた、何言ってんの?」
「ふふはは……」
彼方を見詰めていた鈴果は口元を吊り上げる不敵さから不気味さを見せる笑みを見せる。ドロッとした気持ち悪い感じがする。
「はあ……。じゃあね、友里。気を付けなよ」
「……?」
「嘘つきは君たちのすぐそばにいるんだから」
瞬間、鈴果の体から影が――
異形の魔人のような姿をした影が現れ、魔女のような笑い声が聞こえ、
時間が奪い去られたかのように鈴果自身がフッと消えた。
「今の姿……まさか……」
そう、口にする恵里衣。
明らかに人の身では無かった。だが、ビーストとは違う。感じた気配、それはどちらかと言うと――。
「嘘つきは……すぐそば……?」
友里は、鈴果に言われた言葉をもう一度繰り返す。
そして、恵里衣の方を見てきて、
「どういうことなんだろ、恵里衣ちゃん」
「さあ……」
聞いてきたので、恵里衣は首を傾げた。
平静を――
平静を――
と、恵里衣は胸の内にため込まれている不安を押しとどめる。
友里にも、恵里衣自身でも気づかぬ間に握りこぶしを作っていた。
to be continued...




