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スピリットヘブン  作者: 嵩宮 シド
Infinite Hope(1st Season)Ⅲ
53/70

Dreamf-13 海と水着と古代の贈り物

 カッと地を照る太陽。

「来たな、オレたち」

「はい」

「海だ」

 海岸の浜は白い光を放ち、ザザァと波が浜を打つ音が聞こえる。

「最高の海日和だ」

 海岸に立つのは三人。

 一人――茶色が少しかかった黒い短髪に、細身のスポーツ体系、顔立ちは穏やかそうな風貌を持つ少年、天ヶ瀬円(あまがせまどか)。普段は灰色のパーカーとジーンズを着るのだが、今回はネイビーシャツにライトブルーのハーフパンツを着るスタイル。シャツはロールアップさせている。

 二人――逆立った金髪に、円と同等程の筋肉がついたスポーツ体系をしている青年、チーム・エイト副隊長。ケイス・レイリー。

 本場ハワイから取り寄せたというアロハシャツを着、さすがに日本の海岸の日差しは眩しすぎるのかサングラスをかけていた。

 三人――この中では一番大柄な体系をしている。オールバックの黒髪をしているのはチーム・エイト通信技術担当、雲川俊樹(くもかわとしき)。この三人の中では一番シンプルなホワイトTシャツにハーフパンツのスタイルである。

「しかし、さすがIA(International Agent)管轄の海岸だな。客がいない」

「この海丸ごと貸し切りってことですね」

 雲川の言う通り、今円たちがいる海岸は彼らの所属する部隊、SSC(Soul Saver Crews)――基、IAが所有する管轄地帯の一つである。曰く、プライベートビーチ。

 普段彼らは空中要塞である拠点基地、スカイベースにいる故、こうして地上に降りるのは任務以外にほとんどない。そしていまそのほとんどないという事例にある。

 半年に一回訪れる、長期休暇だ。

 スカイベースは半年に一度行われる大規模メンテナンスのために、地上に降りる。出動が出来なくなるのだ。その機会に、IAの隊員達はそのメンテナンス期間である二週間、休暇を得ることが出来る。

 その間は他の管轄のIAの防衛隊がその範囲も担う。

 6月初めごろは、東アジアを管轄とするSSCだが北アジアの防衛も担っていたため、その苦労分の清算であると考えれば、気は楽になる。

「さて、俺達が海に入るためには着替えないとな」

「そうですね」

「だとすれば! やる事は1つ!」

「やる事?」

「パンツ破りだ」

「…………ッ!?」

 雲川が何を言ったのか、すぐさま理解した円は胸の内を締め付ける程の緊張感を覚えた。雲川と円の間にのみが発する緊張感だが、ただひとり、ケイスだけが首を傾げていた。

「何だ? パンツ破りって」

「この技はですね、昔から現代の人たちまで受け継がれてきた、禁断の着替え方なんです。まずズボンを脱いでパンツの上から水着を穿く。そしてその上に海パンを穿いて下のパンツを脱ぐんです。これで一度も全裸になることなく、水着に着替えられるんです」

「……? それって禁断ってやつか?」

 ケイスは首を真っ直ぐにすることも出来ず、「Forbiddance?」とまた口から漏らした。そんなケイスに「説明しよう」と、雲川。

「いいか。この技の何がすごいかって全裸になる必要が無いってことだ。つまり、態々更衣室なんてもののお世話にならないってことだ」

「パン一に――」

「『パン一になる時点で更衣室』なんて事、言ってはいけない! 男はパンツ一丁でも生きていけるんだ!」

「なんか今日変だぞオマエ」

 円も思った。雲川俊樹と言う男は目立たない性分であったはずだ。なのに、今日は海にきたからと言う為か、少しはしゃいでいるように見える。

 円より一〇年以上も生きているというのに。

「パンツの上に海パンを穿き、海パンの下にあるパンツを脱ぐことで一度も全裸にならずにすむ」

「だから、それのどこが禁断なんだよ」

「いいか、この技は一聞にしては簡単そうに聞こえるが、パンツを脱ぐとき海パンの裾から下に穿いているパンツを引っ張って片足ずつ脱いでいくんだ。当然、そんなことすればパンツのゴムは限界以上に引っ張られ、ミチミチと悲鳴を上げ始める……!」

「なん……だと……ッ?」

 ケイスにもようやくこの技が禁断と言われる所以が見えたようだ。

「そう下手をすればゴムは引きちぎれ、最悪ーーッ」

「雲川さん、止めてください。出来なくなる」

「ああ、そうだな。俺としたことが、口にするだけおぞましい事を……」

 すべての事情を知っている円と雲川。そしてその中に入ったケイス。

「日本の海……。恐ろしいぜ」

 今が選択の時。

 行くか行かぬか。決めるのは自分自身だ――


「ちょっと何やってんのよそこの男三人」


 と、背後から女性の声。男三人とは間違いなく円と雲川とケイスの事だ。

 振り向くと、そこにいたのはチーム・ゴールド隊長である志吹恵美ーーその後ろには彼女率いるチーム・ゴールドの他のメンバー三人がいた。

 彼女たちは海岸の更衣室を使って水着に着替えてきたしい。

 さすが第一線で活躍するだけあって四人全員、余計な贅肉などなく、引き締まった体にほの僅かな筋肉が浮かび上がってきている。

 四人の女性の水着姿にほんの少し、円は時間を奪われたような感覚を味わった。

「円君、早く着替えないと、本命来ちゃうわよ?」

「な……ッ!」

 志吹にそう言われ、止まっていた時間が動き出した。

「ならやるしかない! 円、ケイス!」

「オウ!」「了解!」

 一番年上の雲川が何を言っているのか。今ここにいて理解しているのは円とケイスのみ。女性陣四人にはわからないようでーー

「奥義!」

「パンツ!」

「破り!」

 三人のかけ声と共に、技は放たれた。


 ビリッ


「ヒッ……!? きゃぁぁぁぁぁあああああッ!」

 チーム・ゴールドで一番年下である小緑舞彩(こみどりまい)の悲鳴がこだました。

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