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九十三話 釈然としない

「第二大隊構え」


 森での戦闘から早一時間余り、第二大隊とレンジャーは協同して防衛線を構築した。

 街道上で敵を待ち受ける第二大隊は横隊で広がり、その左右に二つに分けたレンジャーを配置する。

 左右のレンジャーからの狙撃は第二大隊の射程に入るまでの間、十字の射線を形成して敵を襲い、威力を殺された敵に対して更に第二大隊の斉射が襲う様になっている。

 第二大隊の前には、敵騎兵の動きを阻害するための妨害壕と柵、そして杭が設置されており、強力な敵の突撃を留める。

 比較的広々とした遮る物の無い平原では在ったが、そこは灯火管制を敷く事で敵からの発見を防ぎつつ正面に誘う寸法だ。


「月が無いのが幸いしましたな」


 ハンスの言葉に俺は無言で空を見上げて、雲に覆われた暗闇を見詰める。

 星すら無い完全な闇の中、夜目が慣れてきても尚、隣のハンスが朧気にしか見えないが、そんな状態でも確と敵を察知してくれるライカンは頼もしい存在だ。


「ライカンが敵で無くて良かったと切実に思う」


「確かに」


 俺の呟きにハンスが短く返し、それからは無言で暗闇を見詰めた。

 どれ程、そうして居たか分からなくなってきて、自分がこの世に独りだけ取り残されたかの様な錯覚に陥る頃、遠目にポツリポツリと揺らめく灯りが連なって動いた。


「来ましたね」


 ハンスの言葉に先程までの心細さが雲散し、自分には最強の戦友達が居るのだと思い至って、俺は街道を歩いて向かってくる敵の隊列に眼を凝らした。


「俺達が居ると分かって居ても進まない訳には行かないか・・・」


 敵の指揮官にも面子と言う物が在る。

 手と終え状況が不利であろうとも、数と戦力で勝っているにも関わらず撤退したとなれば、指揮官の責任追及もあり得るが、普通の神経をしている指揮官ならば、撤退するか夜明けを待つかするものだが、あえて強行してみせるのは余程、俺達の事を逃したくないのか、向こう見ずな性格なのだろう。


「夜の戦いと言うと、あの時を思い出しますな」


「ああ・・・丘陵のか・・・アレは、皇女に振り回された結果だろ」


「あの方には随分振り回されました」


「頼むから、ずっと帝国に引きこもって居て欲しいな・・・カリス殿に今度手紙でも書こうか・・・」


 コレから戦闘だと言うのに、俺もハンスにも、緊張感など全く無く、その雰囲気が波及したのか、暗闇の中の兵達からもリラックスした様な空気が流れてきた。

 戦場には似付かわしくない空気の中で、遂に左右のレンジャーから銃声が響いて来た。

 暗闇の中を流れ星の様な光が、松明の灯り目掛けて離れて行く。


「始まったな」


 敵から轟く馬の嘶く声と、撃たれた兵士の悲鳴が怒声と交わって俺の鼓膜を震わせると、その馬の情景がありありと思い浮かんだ。


「コレで引いてくれれば助かるんだがな」


「そういう訳にもいかんのでしょう」


 射撃が始まって暫くすると、敵の松明の灯りが速度を増しながら広がり始め、蹄を鳴らしながら疾走して、コチラに向かって来る。


「気概は買うが、無謀に過ぎるな」


「ですね・・・もしかして何かの罠とか?」


「俺もそれは考えたが、敢えて兵力を分散して混乱を招く様な事をするのも考えづらいな」


 そうして居る内に、敵の騎兵が第二大隊の射程内に入った。


「撃て」


 無情にも言い放たれたハンスの一言で、第二大隊の各員の持つ銃が火を噴き、無策な敵の突撃を粉砕する。

 続けざまに行われる銃撃が、一度事に敵の戦闘に立つ勇者を駆逐して屍と変え、辺りに鼻につく刺繍が蔓延し始めた。


「・・・中々、如何して粘るじゃ無いか」


 何の変わりも無いままに、6度目の斉射が行われるのだが、それでも敵は退こうとはしなかった。

 だからと言って戦法を変えるでも無く、ただ愚直に向かって来るだけだった。


「・・・もしかして、敵の指揮官は底なしの馬鹿なんじゃ無いか?」


「奇遇ですね・・・俺もそんな気がしてきました」


 好い加減何時まで続くのかと思っていた突撃は、在る時になっていきなり終わりを迎えたのだが、俺の予期していた物とは全く異なる終わり方だった。


「はああああ!!」


 ただ一騎の騎馬が、第二大隊の隊列を飛び越えて俺の目の前に降り立った。

 壕も杭も柵も越えて、射撃の嵐を突き抜けて、戦列さえも飛び越えて俺も前に現れた。


「カイル・メディシア!!」


 明らかな女性の物の声で俺の名を叫ぶ敵は、白刃を煌めかせて真っ直ぐに俺の方へと向かって来る。


「若!!」


「カイル団長!!」


 何時の間にここに来ていたのか、リゼ大尉が俺を案じて声を上げる。


「・・・」


 妙に豪奢な甲冑を纏う敵に対して、俺もサーベルを抜いて迎え撃つ体勢に入り、相手の振るった長剣に合わせてサーベルの鍔を突き出して受け止めた。


「っ!!」


 互いの乗る馬が身を擦り合わせ、額がぶつかり合う程の組み合いにもつれ込むと、俺は相手の

剣を握る右手の手首を掴んで相手の馬に飛び乗った。


「うらっ!!」


 そのまま相手ともつれたまま馬から飛び降りてマウントを取ると、容赦無しに顔面をサーベルのナックルガードで殴って気絶させた。


「俺は大丈夫だ!」


 周りに聞こえる様に宣言した俺は、銃声が治まっているのに気が付くと、近づいてきたハンスに起こされた。


「敵は如何した」


「逃げていきましたよ」


 何だか釈然としないまま終わった戦闘は、コチラの人的被害無しに対して、敵の多数の死傷と捕虜一名と言う結果に終わり、何の山も谷も無く粛々と撤退を開始した。


「てか、此奴如何すっかな・・・マジで如何してこうなった?」


 地面に倒れる捕虜を眺めながら俺は肩を落とした。

正直ネタが浮かびませんでした。

怒られても仕方ないけど、そもそも怒ってくれる人も居ないことに気が付いてしまうこの日この頃

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