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八十七話 役に立たない銃士隊

前話の最後を少し改変いたしました。

久し振りの5000文字越えです

 ペイズリー卿とハンスの二人と話した俺は、ハンスに連れられて、部隊の下へと向かう。

 ハンスは一応兵団長になった筈なのだが、そんな事は知らないとばかりに俺に指揮を執らせようとしてくる。

 しかし、俺としてはハンスには、もっと部隊の指揮や運営について学んで貰いたいと思っており、俺はハンスの兵団以外の銃士隊を指揮すると言う事で閣下の許可を得た。


「・・・何故、若様が指揮を執らないんだ」


 不満げにぼやくハンスに俺は、諫める様に言葉を掛ける。


「ハンス・・・好い加減に諦めろ。お前は一人の指揮官なんだからしゃんとしろ」


「・・・はあ」


「・・・所で、もう一つの方の銃士隊はどんな感じだ?」


 釈然としないと言った様子のハンスに、銃士隊の事を尋ねると、ハンスは少し考えてから言う。


「ん~・・・何か華やかな感じ・・・ですかね?」


「なんだそりゃ」


 そう話している内に俺とハンスは銃士隊の集まっている区画に到着したのだが、何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「・・・イヤな予感がする」


 そう呟きながら騒ぎの方へと近づいて行くと、リゼ大尉と見慣れない金髪の女性が凄まじい剣幕でにらみ合っている。

 金髪の女性は、やたらと装飾の多い白色の軍服を身に着けており、どうやら閣下の銃士隊の隊員の様だった。


「何をしているんだお前らは」


 俺が声を掛けるとリゼ大尉が直ぐに反応して俺の方に顔を向ける。

 金髪の女性も俺の方を向くと、上から下まで値踏みする様に見回すと、俺に話し掛けてきた。


「あら、貴方が悪名高い戦争卿で御座いますか?」


「戦争卿?」


 聞き覚えの無い呼び名に困惑する俺が首を傾げると、リゼ大尉が直ぐに女性に噛み付いた。


「貴様!!またしても私達の団長を愚弄するか!!」


 余り見ないタイプの大尉の怒り様に驚きながら、俺は大尉を宥める。


「落ち着け大尉」


「ですが!!」


「落ち着け」


「・・・っ!」


 食い下がろうとする大尉を視線で制した俺は、女性の方を向いて尋ねた。


「それで・・・貴女は何方かな?あ~・・・大尉?」


 肩の階級章を見ながら名前を尋ねる俺だったが、女性は鼻で笑って言葉を返してくる。


「あら、名乗る時は自分からと言うのもご存じ無いのですか?戦争卿殿は」


 随分あからさまな挑発をしてくる彼女に対して、面倒くさい女だと思いながら、俺は相応の態度で返した。


「・・・もう一度聞くぞ大尉。君は一体誰なのか言え」


「っ!?」


 俺よりも幾分か年上の様だったが、その程度で臆する訳も無く。

 僅かに殺気を織り交ぜた声色でゆっくりとなら見付けながら尋ねると、気圧された様に背筋を反らして、傍目から分かるほどに肌を粟立てながら答える。


「メアリー・・・スプルアンス・・・ですわ・・・」


「スプルアンス大尉か。士官学校を出てどれくらいだ」


「い、一年です・・・」


 典型的な貴族軍人の士官だった。

 大方、箔を付けるために士官学校を出て後方で暫く勤務して辞める積もりだったのだろうが、運悪くこの隊に組み込まれたのだろう。

 士官学校は性別関係無しに入学可能で、貴族ならば入学すれば何もしなくても卒業する事が可能で、卒業後は中尉として任官する。

 士官学校卒業と言えば、軍人系の貴族に受けが良いため、女性の士官学校入学者と言うのが一定数存在するのだ。


「スプルアンス大尉」


「は、はいっ!」


「それで・・・戦争卿とはどう言う意味だ?」


「そ、それは・・・」


 おれがスプルアンス大尉に尋ねると、彼女は途端に口籠もってしまい、俺が再度尋ねようと口を開いた瞬間、横から声が掛けられた。


「君の事だメディシア大佐。戦争に行ってばかりで、人を殺すのが大好きな貴族。だから戦争卿だ」


 そう、言葉を掛けてきたのは、切れ長の釣り目に長く蒼い髪が冷淡な印象を強める長身の美女だった。

 何処か見覚えのあると思った俺は、思わず言葉を掛ける。


「・・・何処かで会いましたか?」


「下手クソなナンパは止めてくれ大佐」


 辛辣な言葉で返事をする女性は、一つ溜息を吐いてから言葉を続けた。


「・・・君とは2年前の祝賀会で会っている。君にアダムスの事を尋ねた筈だ」


 そう言われて俺は、漸く彼女の事を思い出した。


「ライノ・チェスター殿・・・でしたかな」


「そうだ。ライノ中佐だ。大佐殿」


 アダムスの級友にして侯爵家の御令嬢が何故ここにと思うが、取り敢えず、俺は戦争卿に着いて聞いた。


「戦争卿と言うのに、もう少し詳しく教えてくれ無いか?中佐?」


「・・・っち」


 今の舌打ちを聞かない事にしつつ、俺は彼女からの言葉を待った。

 と言うか、何故こんなに嫌われているのか、幾らクラスメイトを殺した相手だからって流石に酷すぎやしないかと思わずには居られない。


「その名の通りだ。君は何時も戦争そしているからそう呼ばれているのだ」


「そんな、戦争ばっかしてるか?」


「テベリアの悲劇の事を考えれば妥当な呼び名だろう」


 別に好きで戦争してる訳じゃ無い筈なのだが、人の印象と言うのは恐ろしい物で、どうやら俺には冷酷で残虐な戦争狂いのイメージが着いてしまっている様だった。


「・・・一応、防衛戦しかしてないんだけどな・・・今回を除いては・・・」


「フンッ!・・・それで、ペイズリー閣下に言われたが、お前が私達の指揮をするのだそうだな」


「まあ・・・そう言う事だ」


「ひぃっ!!」


 一応上官の筈の俺に対する物とは思えないような物言いのライノ中佐の言葉に肯定すると、スプルアンス大尉から悲鳴が上がった。


「・・・そんなにイヤか?」


 流石に傷つくぞと思う俺だが言葉にはせず、その替わりにリゼ大尉から声が上がる。



「先程から聞いていれば、私達の団長に随分な物言いを!」


 リゼ大尉の怒気を交えた言葉に続いて、レンジャーやハンスの部隊からも怒りの声が上がる。

 随分な扱いを受けた後だからか、思わず目頭が熱くなりそうな事を言ってくれる連中に、俺は命令を飛ばした。


「全員静かにしろ!!」


「「「っ!!」」」


「第二大隊・・・もといハンス兵団は引き続きハンスが指揮、レンジャーはリゼ大尉が指揮を執れ!俺は、どうしようも無い役立たずを使い物にしなければならん!!気張れお前ら!!」


「「「応っ!!」」」


 半ば無理矢理に不満を押さえ付けて、俺はライノ中佐に向いて言った。


「軍人なら軍人らしく命令には従えよ中佐。現状で君達が役立たずなのは事実なのだから現実を受け止めろ」


「・・・言われなくても分かっている・・・」


「なら良い・・・さて、早速だが中佐、隊の現状を報告してくれ」


 ライノ中佐の報告によると、銃士隊の正式名称は王立第一銃士隊と言い、現在の兵力は522名、ペイズリー卿派閥の若年士官が集められているらしく、半数が士官なのだと言うから驚きである。

 使用する銃は俺達の物とは全く別で、全長が200cmもある馬鹿みたいに長い銃を使う。

 口径は60口径とやや小口径で威力に乏しく、銃剣も無いため戦列歩兵としては使えず、銃身が長いクセに精度が悪いため狙撃も出来ない。


「何だってこんな事になったんだ?」


「・・・倉庫に眠っていた銃だ」


「つまり骨董品か」


 道理で無駄に凝った装飾が多いと思った俺は、如何したら使えるか頭を悩ませた。


「正直に言えば、私も歩兵は完全に専門外でな・・・」


「どういう事だ?」


「私は騎士だ」


 詳しく聞けば、騎士団に所属していてライノ中佐は、陸軍騎兵の練度向上と騎士団との関係強化の為に軍に出向していたのだが、チェスター家とローゼン家の結びつきが強かった為に、第三王子の嫌がらせで組み込まれたそうだ。


「まあ、それだけでは無いのだろうがな・・・」


「何をやらかした」


「参謀を殴っただけだ・・・あの男・・・私の尻を揉み拉いてきたのだ」


 以前から言い寄ってきていた男が第三王子の手で参謀に就任して以降、強引に迫ってきていたらしく、適当にあしらっていたのを、どう勘違いしたのか気があると思って尻に手を伸ばしてきたらしく。

 直ぐさま顔面にガントレットを着けた手で殴ったと言う。


「全く・・・如何して男というのは馬鹿しかいないのだ」


「・・・俺に言われても困るがな・・・スプルアンス大尉」


「は、はい」


 アレ以降、スッカリ大人しくなってしまったスプルアンス大尉は、俺に声を掛けられると声を震わせながら返事をする。

 俺は、そんな大尉の様子など全く気にせずに言葉を続けた。


「取り敢えず隊の再編をする。この用紙の通りに移動させてくれ」


 俺の再編案は、大隊本部の下に本部管理中隊をおいて三個戦闘中隊を纏める、オーソドックスな物だった。

 その編制図を書いた用紙を渡すと、スプルアンス大尉は恐る恐る受け取って、直ぐに俺から離れて行った。


「・・・そんなに怖いか?」


「士官学校を出たと言ってもそれだけだ。強気な性格でも所詮は覚悟の決まらない女子でしか無い」


「あんなのばかりか?」


「・・・気丈な分、アレでマシな方だ」


 良く生き残れたと思えば、話しによると、銃士隊は元々1500人で構成されていたのだが、勇敢で経験豊富な下士官の殆どが死んでしまい、後に残ったのが若年の士官と兵卒だけに成ってしまった。


「士官ばかりでどうすっかね」


 若い士官ばかりと言うのが一番の問題なのだが、この他にも俺の頭を悩ませる問題が多々ある。

 まずもって一番の問題としては単純な練度不足だ。


「訓練期間はどれくらいだ?」


「出征前に2週間だけ銃の扱いの訓練があっただけだ」


「短すぎる・・・基本教練もやっていないのか」


 個人的に訓練で最も大事なのは方向転換や行進等の基本教練だと俺は思っている。

 銃の扱いなんて物は一日もあれば説明できるし、何なら移動中にでも教える事が出来る。

 しかし、基本教練は継続して訓練を続けなければ覚える処か忘れてしまう物で、いかなベテラン兵で在ろうとも基本教練だけは欠かすことは出来ないのだ。


「あの~良いっすか~」


 頭を抱えていた俺の下に、もう一つの悩みの種が現れた。


「・・・貴女は?」


 俺に呼び掛けてきたのは140cm在るか怪しい位の小さな少女は、全身を覆う黒いローブと身長以上の長さの杖を持っていた。


「リーゼで~す。魔術師の代表で来ました~」


「階級は?」


「ありませ~ん」


 銃士隊にはどう言う訳か魔術師が数人参加しているのだが、軍属でも無い彼女達には階級という物が無かった。

 では、何故軍属では無いのに銃士隊に組み込まれたのかと言えば、彼女達の出身地がペイズリー卿の所領だった為だそうだ。


「え~・・・リーゼ・・・ちゃん?」


 どう呼べば良いのか分からずに呼び掛けると、本人から驚くべき言葉が返って来る。


「あ~私、貴方の倍以上の年齢なんで、ちゃん付けはちょっと・・・」


 御年38歳、妹よりも年下に見える少女は、母よりも年上だった。


「・・・失礼した・・・では、リーゼ女史」


「なんすか?」


「君達はどの程度の事が出来る?」


 魔術師の最大の利点は一度の戦争を左右するほどの強大な火力であるが、その反面、大きな欠点も在る。

 それは魔術の威力が個人の魔力に依存する為に安定して数を揃えられず、また火力の均一化が困難で、持続して戦闘を行うことも出来ないのだ。

 とどのつまり、彼女達はウルバン砲なのだ。


「あ~私は研究が本職なんで・・・まあ、大型の船一隻を一撃で沈める程度ですかね~」


 他にいる5人の魔術師は彼女よりも弱く、全員合わせて運用しても一個連隊消滅させる程度が関の山だろう。

 一撃で連隊を撃破出来るのなら強力に思えるかもしれないのだが、逆に言えばその一撃を使えば後は暫くは戦えなく成るのだ。

 その程度では戦いを終わらせる事は不可能だ。


「全く・・・第三王子の顔面にお見舞いしてやりたく成ってくる・・・」


「あ~それ良いッスね」


「不敬な言葉は慎め」


 俺の言葉に二人が対照的な反応を返してくれるが、ライノ中佐の表情を見れば内心では同意している事が窺えた。


「取り敢えずリーゼ女史は中尉待遇で、魔術師は全員で小隊って言う事にする」


「りょ~か~い」


「魔術小隊は銃士大隊の本管中隊に組み込みだ」


 戦闘中隊は五個小隊150名、本管中隊は中隊付き小隊と魔術小隊、観測伝令小隊、衛生小隊、それと大隊本部を組み込んだ72名、これで銃士大隊を編制した。


「取り敢えず今夜中には大隊の編制を終わらせてくれ、明日の朝になれば直ぐに移動になる」


「コレから如何するのだ?」


「東へ行く。レンジャーから斥候を出しておいて分かった事だが、東に居た敵の戦力に動きが在った」


 現在、敵の戦力は三カ所に存在しており、西に敵の本隊約25000が居り、コレが昼間の戦闘の敵だ。

 更に北に20000程度が控えているのだが、東側の15000と連携してコチラを包囲していた。

 三方から攻撃すれば簡単にコチラを潰せる筈なのだが、西の敵本隊は後退して東側の敵が動き出したと言うのが現在の状況だ。


「恐らく砲兵を多く失ったのと砲弾の補給が受けられなかった事で一時後退したのだろう」


「何故、砲撃に固執するのだ?数で上回っているのなら平押しで勝てるだろうに」


 ライノ中佐の言った事は俺も同感だった。

 砲兵部隊を切り離して追撃すれば今夜中に決着を付けられたと思うのだが、敵の指揮官はそれをしなかった。


「一つ、仮説を立てて見たが、もしかすると敵は経験が少ないのかも知れない」


「どう言う事だ?」


「恐らく敵の歩兵はそれ程練度の高い物では無いんじゃ無いかと思う。それと敵の指揮官も指揮経験は豊富な方では無いだろう」


 経験不足に起因する慎重さ故に、火力を欠いた状態での歩兵の投入を躊躇ったと俺は考える。

 昼間の敵歩兵の前進速度や竜騎兵の様子を察するに、練度不足なのは間違ってはいない筈だ。

 だからこそ、俺とレンジャーの出現に対しても行動が遅く、懸念事項を抱えた状態での無闇な攻撃を嫌ったのだろう。


「なるほど・・・」


「だが、いずれにせよ劣勢な事に変わりは無い。実際に明日の昼前には東からの敵軍とぶつかる事になる。コッチも夜間行動は取れない以上、覚悟を決めて行くしか無い」


「作戦は?」


 ライノ中佐の問い掛けに対して、俺は悩みながら考えを口にした。


「・・・ここから東に2kmの地点に狭い平野が在る。両側を山に挟まれた平野だ。コチラはソコに布陣する」


「成る程」


 俺の説明に納得した様にライノ中佐は頷いた。

 狭い場所での戦いなら兵力の差を埋めやすく、また敵の騎兵に機動の余地を与えないと言う利点も在る。

 特にコチラのパイク兵は練度自体は高いのだから余計に山間の平野での戦いで力を出せるはずだ。


「さあ、明日は早い。今の内に良く休息を取っておいた方が良い」


 そう言って俺は、ライノ中佐に休息を取る様にに促した。

 それに対してライノ中佐は、素直に休息を取るために俺に背を向けるが、一度立ち止まると俺に訪ねてきた。


「お前は・・・リリアナの事をどう思っているのだ」


 その質問に俺は答えに窮して何も言えず、暫しの沈黙が流れた。


「・・・まあ、良い・・・答えられぬのならそれでも良い・・・端からお前の思いなどどうでも良い事だったのだ」


 では何故聞いたと言いたくなる俺だったが、何も言わずに無言を貫いて、ライノ中佐の背を見送った。


「・・・女ってのは、全く・・・」







 翌日の朝、未だ朝日が姿を現さない時間に俺は眼を覚ました。

 妙に寝付きが悪く、起きた時には酷く喉が渇いて汗を大量に掻いていた。

 中に来ているシャツが張り付いて気持ちが悪かったが、俺は不快感を無視して水を一口呑んで精神を覚醒させた。

 未だ夢の中にいる兵達を起こして出発の準備をさせ、今日の戦いの舞台へと軍団を進ませる。

 決して指揮が高く、万全の状態と言うわけでは無いのだが、兵達は良く俺の言う事に従って動いてくれる。

 西の敵本隊の動きを警戒してシモン達コマンドに斥候を頼んだ他は、全ての戦力を予定の地点へと移動させ、完全に移動が完了したのが陽が確りと登り切った午前9時の頃で、敵の姿が見えたのは、俺達が布陣を完了した午前11時頃だった。

 ここに、今回の共和国遠征撤退戦の火蓋が切って落とされた。

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