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八十二話 インディアン?

 ロザンの街は聞いていた通り、小さな街だった。

 ギリギリ三桁に届かない程度の建物が集まり、街の周囲には低い柵が立てられているだけで、その外側に広い牧草地に大量の牛が放牧されている。

 その小さな街にそぐわない兵士の数が一際目を引いた。


「止まるな!!一気に突っ切るぞ!!」


 中隊の先頭を走りながら声を上げ、俺は更に速度を上げて街へと突っ込んだ。


「と、止まれ!!」


 街の入り口に近づいたところで、2、30人程の小隊が立ちはだかり、敵の1人が制止の声を上げる。

 それに対して俺は、馬を走らせながら身体を持ち上げて叫び返す。


「推し通る!!死にたくなければそこを退け!!」


 そう、叫んでサーベルを抜きはなった。


「っ!!」


「退けぇえええ!!」


 額に汗を滲ませながら、ギリギリまで俺の前から退こうとしない兵士だったが、遂にぶつかるかと言う寸前で横に飛び退いて、道を明け渡した。

 中隊はその直ぐ後に続いて街の中へとなだれ込み、一目散に橋へと向かった。


「っ!?」


 橋が見えてくると、その橋には敵の部隊が銃を構えて待っているのが俺の目に入る。


「撃ち方用意!!」


 サーベルを振り上げた敵の指揮官が、部下達に命じて俺を睨む。

 それを見た俺は咄嗟に中隊に向かって叫んだ。


「中隊射撃用意!!」


 後になって考えれば、随分と無茶苦茶な命令だと思うが、そんな俺の無茶ぶりにも、中隊は良く応えてくれた。

 馬を走らせた状態であるにも関わらず、レンジャーは背負っていたライフルを手に取り、走りながら銃を構えて見せた。


「!!?」


 そんなコチラの行動に、敵の指揮官は面食らった様な表情で圧倒され、指示を出すのが一瞬だけ遅れてしまう。

 その一瞬が明暗を分けた。


「撃て!!」


「あ・・・う、撃て。撃て!!」


 銃声は、レンジャーの物の方が一秒ほど早かった。

 敵の部隊は至近距離からライフルの射撃を受け、先手を取られた動揺で射撃がまばらになり、あらぬ方向へと銃口を向ける者すらいた。


「突っ込め!!」


 射撃を受けて体勢の崩れた敵に対し、コチラは勢いをそのままに敵の隊列になだれ込むと、一気に敵のラインを越えて橋を渡った。







「取り敢えず、第一関門は突破か?」


「ですかね・・・」


 橋を渡りきってから敵の追撃を警戒して5kmほど移動して、林の中で休息を取る。

 二時間ほど馬を走らせてきたが、ここで馬に怪我されたりすると移動が困難になるため、一度大事を取って休息を取らせる事にした。


「そう言えば、大尉・・・聞いても良いか?」


「何でしょうか?」


「何故、さっき馬上で銃を撃つ事が出来たんだ?」


 休憩を取っている間、俺は先程の事で疑問に思った事を大尉に尋ねた。


「ああ・・・アレですか」


 大尉は何も特別な事では無いと言う風に呟いた。

 周りに居るダークエルフの隊員達も、大尉と同じように、全く特別な事をしたと言う様な感じは無く、俺にはそれが不思議でたまらない。

 馬の上と言うのは非常に不安定で、鐙が開発されるまでは、人は馬に乗って剣を振る事は愚か、マトモに乗るのも困難なのだ。

 幾ら鐙がある馬に乗っているからと言って、馬上で、それも走りながら銃を構えて撃つと言うのは、明らかに上気を逸していると言えるだろう。

 俺も馬に乗りながらカービンを撃っていた事はあるが、流石に走りながらとなると、非常に困難であり、その状態で撃てても当てる事は至難の技だろう。

 ハッキリ言って、大尉達の先程の馬上射撃は普通に訓練したくらいで出来るものでは無いのだ。


「ウチの馬は銃声になれる様に調教しているが、だからと言って出来る事では無いぞ・・・レンジャーではあんな訓練もしていたのか?」


 余りにも不可解な大尉達の能力を不思議に思って再度尋ねると、大尉の口からは信じられない言葉が出て来た。


「いえ、訓練はしていないです。ただ、普通に出来ただけです」


「!?」


 余りの言葉に絶句した俺に、テオ少尉が捕捉の説明を買って出た。


「カイル団長は知らなかったのかもしれませんが、リゼ大尉達の部族は乗馬が殊更に得意なんです」


「部族?」


「はい、リゼ大尉達はオブワル族と言って、平地で馬を乗り回して狩りをする民族です。馬術でオブワルの右に出る者は居ませんよ」


 オブワル族と言う、初めて聞く言葉に戸惑いつつ、テオの話しを聞いて分かったのは、ダークエルフと言う言葉がダークエルフには存在しないと言う事と、彼等が幾つかの部族に別れて生活していたと言う事だ。

 話しを聞く内に、俺はかつてダークエルフをインディアンみたいだと思った事が、まさにその通りだったと言う事を知った。


「つまり、大尉の部族は乗馬が上手いから、走りながら銃が撃てたと言う事か?」


「はい、あの位の事は戦士で無くても簡単に出来ます」


 そう、事もなさげに言う大尉の言葉を聞いて、俺は戦慄為ざるを得なかった。

 歩兵に機動力をと言う事で馬に乗せた事が、まさかこんな事になるとは、思ってもみず、それが容易い事だと思っている者達が存在していた事は恐ろしいことだった。

 俺は、ダークエルフが国を持っていない事に心から安堵すると同時に、新たにダークエルフの部族と交渉して、兵士として雇えないかと考えていた。


「言っておきますが、我々にオブワルの様な事は出来ませんよ。アレはオブワルだから出来たことです」


「そうなのか?」


「ええ、あんなのばかりだと思われたらたまった物じゃ無いです」


「さっきからテオの話しを聞くに、お前は違う部族なのか?」


 俺がテオに尋ねると、テオは周囲を見回してコマンドの物と眼を合わせると、頷き合って一斉に帽子を取った。

 俺は、帽子の無くなったテオの頭を見て驚きの余りに声も出なかった。


「シモン以外の私と他7人は全員モヒガン族です」


 そう言ったテオの頭は、頭頂部から後頭部にかけての中心以外の頭髪が全て剃り上げられており、地肌の部分に入れ墨を施したモヒカンヘアーになっていた。

 何も言えなくなっている俺に、リゼ大尉がテオの部族の説明を始める。


「モヒガンは優秀な狩人で、弓の扱いに長けています。基本的に深い森の奥の沼地で暮らし、総じて身が軽く、木から木へと飛び移りながら遠く離れた獲物を射抜く事が出来ます。また、トマホークを使った戦いは見事の一言に尽き、彼等の戦士の髪型はトマホークを下にしているんです」


 兵団に所属しているダークエルフはオブワル、モヒガンの他に5部族の出身者がいるそうだが、彼等の故郷には細かく分けて100余りの部族が存在しているそうだ。

 俺には髪型以外では余り見分けが付かないのだが、彼等曰く、部族毎に人種も違えば言葉も性活様式も文化も、何もかもが違い、彼等ダークエルフはそれぞれで自分の部族を人と呼び、それ以外を他人と呼ぶそうだ。

 ますますインディアンの様だ。


「・・・お前らは帰りたくないのか?」


 俺がずっと気になって居た事を尋ねると、リゼ大尉も、テオも、周りに居るダークエルフの全員が笑顔で首を振って答えた。


「私は貴方に着いていくと自分で決めたんです」


「団長の戦いを見て着いていくと決めたんです」


 「偉大、な、戦士、に着いて、行く、のは当たり、前だ」


「偉大な戦士?」


「ええ、私達は全て自分の判断で、自分の責任で生きるんです。だから誰に着いていくのかも自分で決めます」


 本当にインディアンの様な事を言う連中の言葉を聞くと、余計にコイツらの事に責任感を感じずには居られなかった。


「・・・そろそろ行くか」


 何となく、本当に何となくだが、俺は気恥ずかしい様な気がして、休憩の終了を伝えて馬に乗る。

 そんな俺の気を知ってか知らずか、誰も何も言わずに俺に続いて騎乗した。

 目指すハンスの下までは後160km、明日の昼の合流を目指して俺は馬の腹を軽く蹴った。

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