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七十九話 レンジャー

 夜空に微笑む三日月は厚い雲に覆われて、その姿を隠し、辺りを深い闇が包み込んだ。


「・・・」


 俺は第二小隊を引き連れて、目前に迫る目的地を目指していた。

 グローの街を出て暫くして、俺は中隊を小隊毎に分けて行動させた。

 敵の警戒は薄く、月も星も隠れていて、発見の可能性は限りなく低かったのだが、それでも敵に発見されるのを恐れたのだ。

 

「止まれ」


 戦闘を走っていた俺は徐々に速度を落として行き、それから右手を挙げて小隊に停止を命じる。

 先の見えない暗闇の中に要るにも関わらず、小隊は俺の合図に直ぐに反応して足を止め、無言で俺の指示を待った。


「・・・合流予定地だ。他の小隊を待つぞ」


 あらかじめ決めていた予定地点に到着した事を確認し、他の小隊の到着を待つと小隊に伝え、近くにあった小さな林に隠れさせる。

 馬は林の木の側に留め、隊員は直ぐにライフルを撃てるように手に持ち、しゃがんだ姿勢で周囲に気を配る。


「っ!・・・コッチだ」


 林に隠れて幾ばくも経たない内に、他の小隊が到着した。

 俺が声を掛けると、直ぐにコチラに気付いて林の方に近づい来る。


「お前達は?」


 俺が尋ねると、戦闘の者が代表して答える。


「第四レンジャー小隊。隊長のロージャーです」


「良く来た。他の小隊が来るまで林の中で待機していろ」


「了解」


 それから残りの小隊は、第一を除いた全てが集結を完了した。


「現在時刻0248第一以外は全員集結しているな」


「はい」


「では、コレより作戦を開始する」


 第一とリゼ大尉だけが、この場にいないが、俺は、中隊を率いて作戦を続行する。

 中隊は馬を林の中に置いたまま、四列の横隊を形成した。

 歩兵の横隊と比べて前後左右の間隔を広く取る。

 レンジャーは馬に乗って移動こそすれど、兵科としては騎兵では無く散兵であり、乗馬状態での戦闘は行わないのが前提で、馬は基本的には移動の手段でしか無い。

 一応、騎兵戦の初歩の訓練は受けているが、前提はやはり下馬しての戦闘になる。


「中隊、前進」


 俺の囁く様な号令と共に、中隊は前進を開始、足音を立てず歩きながら間隔を広げ、最終的に横5m、縦10mに散開しながら進む。

 通常ならば、明かりも無く、暗視装備も無い状態での夜間の攻撃は非常に困難極まり無いのだが、元々夜目の利くダークエルフが大多数の上に、夜目処か夜でも普通に見えるライカンまで居るのだから、夜戦のハードルは普通の人種とは比べ物に成らない程低い。

 目的のカラビエリでは極僅かではあるが、灯りが点されていて、目標を見失わないと言う意味ではありがたかった。

 カラビエリの周囲は元々森だったらしく、周辺には木を切り倒した後の切り株が残されており、所々に丸太が集められている場所もある。

 ジョルジュからカラビエリ付近の地形情報を聞いていた時に、浜を進むように進言されていたのだが、実際に現地に来てみると、浜を進むのは余りにも無防備すぎるために変更した。

 多少進みにくくは成ってしまったが、敵からの攻撃を受けた時を考えれば、障害物の多い方が反攻しやすい。


「慎重に進め」


 あらかじめ中隊員に返事をしなくて良いと言っており、俺の言葉に対して誰も何も言わずに進み続けた。

 そして、進み始めて10分ほど経ち、街までの距離が600m程になった頃、突如として爆音が轟いた。


「来たか・・・!中隊伏せろ!!」


 俺は直ぐに中隊に伏せる様に命じ、自分も近くにあった切り株に隠れる様に伏せると、頭を両手で押さえた。

 その直後に、暗闇の中でも何処かの地面に砲弾が着弾した音が聞こえ、身体の上に泥や小石が降りかかった。


「二列横隊!!匍匐で移動しろ!!」


 俺は後を振り返って直ぐ後に来ている筈の中隊に命じる。

 隊員達は確りと俺の命令に従い、程なくして第三小隊が匍匐前進で俺と第二小隊の許まで上がって来た。


「各小隊長!人員を掌握しろ!!」


「了解!!第二小隊点呼!!」


「第一小隊!!点呼!!」


 小隊長の声に応じて、周りの隊員が自分の番号を叫び、点呼の声が止むと、直ぐに小隊長から報告が上がって来た。

 幸運な事に、中隊には先程の砲撃での被害は無く、俺は全員が無事である事に胸を撫で下ろした。


「中隊各員!!俺の合図と共に前進!!」


「「了解!!」」


 その直後、再び砲声が轟いた。

 先程よりも多くの砲声が俺の鼓膜を揺らし、それから直ぐに中隊の側の地面を抉った。

 俺は砲声が止んだのを確認すると、声を上げた。


「中隊前進!!駆け足・・・進め!!」


 そう、言うなり、俺は立ち上がると腰を屈めた姿勢で走り出した。

 暗闇で足下が見えず、やや泥濘んだ地面である為に全力疾走と言うわけには行かないが、程々に速度を出して走る。

 そして、体感で30m程進んだ所で俺は再び声を上げる。


「伏せろ!!」


 そう言うと飛び込むように地面に伏せて、周囲に目を凝らす。

 中隊はラインを崩さずに俺に着いてきていて、伏せた状態で息を整えていた。


「ハア・・・ハア・・・っ!」


 俺も荒くなった息を整えていると、再度の敵の砲撃が始まった。

 パラパラと俺の背中を小石が打ち、耳を劈く轟音が聞こえると、俺は必死になって当たらない事を祈り続けた。


「・・・っ!各小隊点呼!!」


 人員の掌握のため、俺が声を上げて点呼を取らせると、番号を叫ぶ声が上がった。


「8っ!!」


「9っ!!」


「・・・」


 その時、点呼が途切れた。


「10番!!10番!!返事をしろ!!」


「11っ!!」


 10番からの返事は無かった。

 10番が返事を出来ない状態であると判断した11番が上ずった声を上げると、それからも時折番号が途切れながら点呼が進んだ。


「第二小隊!!42名!!事故3名!!現在数39!!」


 事故、点呼の際に不在の者が居る場合に使う用語であるが、この状況での事故とは、詰まるところ二度と返事が返って来る事は無いと言う事だ。


「第三小隊!!総員42名!!事故5名!!現在数37!!」


「第五小隊!!総員42名!!事故1名!!現在数41!!」


 各隊長が報告を上げる中、第四小隊だけが何時まで経っても報告を上げなかった。


「第四小隊!!報告しろ!!」


 俺が四小隊に叱責すると、声が帰ってきた。


「兵団長!!第四小隊総員42名!!事故8名!!現在数34!!小隊長が死亡!!」


 コレは流石に予想外だった。

 小隊長死亡の方を受けた俺は、少なからず動揺するのを自覚するが、隊員には悟られないように毅然として四小隊に命じる。


「了解!!四小隊は番号が最も若い者が小隊長を引き継げ!!」


「了解!!」


 俺の命に直ぐに返事が返って来た事に満足して、俺は声を張り上げた。


「中隊前進!!駆け足・・・進め!!」


 そう言うと、再び立ち上がって走り出した。

 暗闇の中を脚を取られないように気を付けながら前へと進み、少しでも前へと脚を動かした。


「っ!!伏せろ!!」


 走りながら敵の方を確認すると、暗闇の中で大きな光が瞬いたのを見た。

 それが砲撃のマズルフラッシュだと直感すると、俺は中隊に伏せる様に命じた。

 俺が、地面に身体を打ち付けながら、切り株の陰に伏せると、直後に周囲の地面が砲弾で抉れ、泥が宙高く巻き上げられて降り注いだ。


「点呼!!」


 今度の点呼では第三小隊の一人が事故と言う報告が上がるが、それ以外は全員が無事だった。


「中隊前進!!第二匍匐・・・進め!!


 敵との距離は凡そ500を僅かに切った所、俺は駆け足での前進から匍匐での前進に切り換え、移動速度を重視した第二匍匐を中隊に命じる。

 銃のハンドガードの根本付近を右手で握って腰に当て、左手は伸ばした状態で状態を支える様に地面に付け、尻を地面に付けて引き摺るように移動する。

 走るよりは格段に遅くなるが、敵に見付かる確率は圧倒的に下がる移動方法だ。


「っ!第四匍匐に切り換えろ!!」


 暫く第二匍匐で進んでいると、敵の砲声が聞こえてくる。

 俺は中隊に体勢を変えるように命じてから、第四匍匐で進み始めた。

 第四匍匐は地面にうつ伏せになり銃は右手でトリガー付近を握り、左手は地面に甲を付ける様にしてハンドガードを握る。

 進むときは、頭を上げずに銃口から泥が入らないように気を付けて手脚を動かす。

 疲れる上に速度も出ない移動方法だが、安全性という意味では非常に効果的な方法である。


「っ!ハア・・・ハア・・・!!」


 それから俺は息を切らせながら、匍匐前進を続け、敵の砲撃があると、その都度点呼を取らせた。

 そして、俺は38名の戦死者を出しながらも敵前300mまで接近し、中隊に命令を出した。


「中隊各員!!射撃開始!!敵が見えたら撃って良し!!」


 そう言いながら、俺自身もライフルを構えて敵を探す。

 その直後に周囲から銃声が連なって響き、眩い光を放つ魔弾は吸い込まれる様に敵兵の身体に食い込んだ。

 俺は、この距離でも確りと敵に当てる事が出来る部下達を頼もしく思いながら、狙いを定めた敵兵に銃口を向けて引き金を引いた。

 放たれた魔弾は青白い軌跡を引きながら闇夜を切り裂いて進み、今まさに大砲を撃とうとしていた敵兵の顎に当たった。

 俺の撃った弾が当たった敵兵は、首にの上に下顎だけを残して、地面に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなってしまう。

 そんな仲間を気遣ってか、他の敵兵がその死体に近づいて動かそうとしているのを見ると、俺は躊躇いなく、その兵士も狙い撃った。

 二発目も難なく敵兵の胸に当たり、撃たれた敵兵は咄嗟に撃たれた胸を押さえながら地面に転げ落ち、ビクビクと痙攣してから動かなくなる。


「ふう・・・」


 俺はそれまで留めていた息を吐き、深く吸い込んで、見付けた敵の兵士に狙いを定める。

 俺が新たに見付けたのは、大砲に砲弾を詰める装填手で、遠目ながら砲弾に火を付けているのが確認できる。

 その様子から、俺は榴弾を撃とうとしている事に気が付くと、直ぐさま狙いを定めて引き金を引く。


「・・・っ」


 焦りが出てしまったのか、一発目は敵の足下に当たってしまい、自分が狙われている事に気が付いた敵が急いで砲弾を装填しようとした。

 そこへ、もう一発俺が撃つと今度下腹当たりに命中した。

 股間よりやや上の当たりを打ち抜かれた兵士は、手に持っていた砲弾を取り落とし、撃たれた箇所を手で押さえながら地面に倒れた。

 その少し後に転がった砲弾が爆発し、撃たれた兵士と、それを助けようとしていた二人が爆発に巻き込まれて、爆炎に包まれた。


「・・・」


 敵の砲を一門潰せた事に少し満足しながら、次を探し、丁度良く灯りの近くに敵兵が立っているのが見え、そいつを撃ち殺した。

 ライフルに装填していた5発を撃ち尽くした俺は、薬莢をポーチに入れ、弾薬クリップを取りだして装填する。

 そうしている間にも、敵の兵士が次々と射殺されて行き、敵の砲撃も止んでしまっていた。


「良い調子だ」


 俺が呟いた直後、敵の方に動きが在った。

 それまで砲兵だけだった敵に援軍が現れたのだが、その手には俺の良く見慣れた物が握られている。


「まあ・・・銃くらい持ってるよな・・・」


 何となく、予想はしていた為、大して驚きはしなかったが、俺は少し憂鬱な気分でぼやいた。

 現れた敵歩兵は、続々と置くから現れては散開して物陰に隠れながら射撃を始める。

 奇しくも、この世界初めての銃兵同士の射撃戦は散兵同士の戦いとなってしまった。


「敵の銃兵に負けるな!!レンジャーの力を見せてやれ!!」


「「「応っ!!」」」


 ここまで匍匐で移動してきたレンジャーは、戦闘も匍匐状態で展開していた。

 実の所、マズルローダーの銃でも伏せた体勢で戦闘をする事は可能だ。

 マズルローダーは伏せて戦う事が出来ないと言われる事が多いが、実際には不可能な事では無く、装填が極めて困難だと言う事だけである。

 それは、全長の長い銃の銃口から、銃身とほぼ同じ長さのラムロッドを使って弾と装薬を込めるのには経った姿勢で行うのが一番簡単だと言うだけで、手間を掛けて訓練すれば伏せた状態でも装填は行えるのだ。

 そして、レンジャーはその手間の掛かる装填方法が行える様に訓練されている。

 敵の銃兵がいかな物であるかは知らないが、俺はレンジャーの力に絶対的な信頼と自信を持っており、負ける気など一切無かった。


「・・・」


 敵の兵士がコチラを狙い撃つよりも先に、敵を見付けて撃ち殺す。

 敵兵の兵科が変わったただけで、やる事には一切変わりなく、淡々と引き金を引き続けた。


「中隊!!相互援護により前進!!前進順序、前列部隊から!!」


「了解!!」


「前進目標!!前方30m!!第四匍匐!!前へ!!進め!!」


 俺の号令と共に、一列目の第二小隊と第三小隊が匍匐前進を始めた。

 一列目が前進する間、二列目は前進援護の為に射撃を続け、俺は第一列と共に前進する。


「第一列停止!!第二列前進を援護しろ!!」


 目標距離を進んだ一列目は、今度は二列面の前進を援護するために射撃を開始する。

 俺達が射撃を始めるなり、背後からの射撃が途絶えて前へ進んで来るのが分かった。

 俺は敵の姿を探して、見付けると、何も考えずに打ち抜いた。

 そうして、攻撃を続ける内に敵の反撃が徐々に弱まって行き、敵の砲に動きがあった。


「中隊!!打ち方止め!!」


 程なくして、敵の部隊が街の中へと下がって射撃が止んだのを確認した俺は、中隊に射撃停止を命じ、その場に立ち上がった。


「さて・・・第一弾は上手く行ったかな?」

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