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六十九話 船泥棒

 徐々に近付く黒い船体は、今までの見慣れた物よりも格段に小さく、しかし、それでも恐るべき物である事には変わりは無かった。

 今だ此方の存在に気付かないフリゲートの乗組員達は、俺達が襲い掛かればどんな表情をするのかと思うと胸の空く思いだが、そんな事よりも重要な事がある。


「急いで静かに水を掻き出せ・・・!」


「沈まないって言ってたじゃねぇか・・・!」


「しょうがねぇだろ・・・!何年前の舟だと思ってんだ・・・!」


 浦から出たかと思えば舟の底に孔が空き、舟の中は瞬く間に水浸しになってしまう。

 だからと言って諦める訳にも行かず、応急処置をしながら敵船に近づいたのだが、更に孔が増えて浸水が早まってしまい、俺達は戦う前から危機に陥ってしまっていた。


「あんまり大声を出すな・・・!敵にバレる・・・!」


「何でも良いからさっさと敵に乗り込もう・・・!」


 誰かが言った瞬間、俺の鼓膜を一番聞きたく無い音が震わせる。


「おい!敵が来てるぞ!」


 俺達の騒ぎを聞き取られてしまったらしく、敵の1人が俺達を指差して声を上げた。


「だああああ!もう!破れかぶれだ!」


 そう言って俺は、揺れる舟の中で立ち上がってライフルを構える。

 そして、此方を指差す敵兵に狙いを定めると、躊躇無く引き金を引いた。


「っあ・・・!」


 何かを言おうとした敵の兵士は、俺の撃った魔弾に顎を撃ち抜かれて力尽き、海に落ちて沈んで行った。


「急げお前ら!!」


 俺が叫ぶなり、沈みかけの舟を全力で漕いで敵船に近づくが、後一歩という時に、遂に限界を迎えた。

 舟底の真ん中辺りに開いた孔が一気に広がり、真っ直ぐに亀裂が入ると、舟は前後に真っ二つになる。

 舟が沈む寸前、俺はワルドとグリムに向かって叫んだ。


「跳べ!!」


「おおっ!!」


 ワルドは素晴らしい動きをしてくれた。

 完全に沈む寸前に舟の舳先を蹴って空高く跳び上がり、フリゲートの甲板に着地した。

 グリムも何とか声に反応はしたが、一瞬動きが遅れてしまい、跳躍距離が足りずに敵船の側面に張り付く様に飛び付いた。

 そんな2人を見送りながら、懸命に足を動かして游ぎ始めた俺だったが、ふと後を向くと、モケイネスが今にも沈みそうに藻掻いているのが見えた。


「モケイネス!!」


 俺は彼を助けようと戻ろうとするが、それをジョルジュが制止する。


「俺っちに任せろ!!」


 何も持たないジョルジュは、そう言うなり頭から海中に潜ると、素早くモケイネスの背後に回り込んで抱き締める様に海面に浮上した。


「落ち着けよ!落ち着け!!」


「ふあっ!!」


 俺はその様子を見届けてから、再び敵船に向けて足を動かす。


「全員!急いで船に上がれ!」


 言ってから程なくして、俺も船の側面に取り付き、出っ張りを掴んで登り始める。

 ジョルジュとモケイネスも無事に船まで着いた様で、船の側面を掴んで少し休んでいた。


「遅いぞカイル!」


 やっとの思いで甲板まで上がると、既に戦い始めていたワルドとグリムは、灰色の毛を真っ赤に染めていて、甲板には10人以上の敵の兵士が転がっていた。

 ワルドの言葉を聞くと同時に、自然と動いた身体がライフルを構えて引き金を引き、1人の敵を物言わぬ屍に作り替えた。


「・・・」


 俺は無言でボルトハンドルを動かして次弾を装填すると、直ぐさま次の敵を撃ち殺し、同じ様に手を動かした。


「おおおおお!!」


 四人目の敵をと思って狙いを付けたところだった。

 不意に1人の敵兵がサーベルを振り上げて死角から叫び声を上げながら現れる。


「っ!」


 完全に不意を突かれた俺は、咄嗟にライフルから手を離すと、左手でサーベルの鞘の口を持ち、右手で柄を持つ。

 それから、居合抜きの要領で敵の胴を薙いだ。

 走ってきた敵の勢いも相まって、サーベルの刃は敵の兵士の腹の奥まで食い込んで固い脊椎の感覚が刀身を通じて伝わった。

 しかし、それがいけなかった。


「ぬっ!?」


 サーベルの刀身は骨の一部を切り裂いたのは良かったのだが、完全に断ち切る事が出来ずに敵の身体に深く食い込んで抜けなくなってしまった。

 ソコへ、隙を見た新たな敵が襲い掛かり、船の縁に追い詰められた状態で素手での戦闘を強いられる事となってしまう。


「はあああ!!」


 二度三度と連続で繰り出される敵の攻撃に、俺はひたすらに身を縮めながら回避するしか無い。

 僅かな反応の遅れが命取りとなる情況下だったのだが、俺は不思議なほどに冷静に対処できていた。


「つあ!!」


 遂には敵に疲れとイラだちが見えてきて一瞬だけ、サーベルの鋒を下げてしまった。


「っふ!!」


 その隙に乗じて、俺は一気に距離を詰めると、サーベルを持っていた敵の右手首を自分の右手で掴み、強く引っ張りながら右足で足払いをして剥ぎ倒し、そのまま肘を折った。


「ぐあああ!!」


 力を失った敵の手からサーベルが落ちると、空かさず、それを拾って首に突き刺して留めを刺す。

 敵から奪ったサーベルを構えながら立ち上がった俺は、次は誰かと見回すと、他の仲間が甲板に上がってきていて、ワルドとグリムを中心に敵を圧倒していた。

 そこで、俺は一度手放したライフルを拾うと一度動作を確認してから敵に狙いを定めて撃つ。

 2人のライカンの戦闘力は凄まじく、俺の援護射撃も合わせて敵を圧倒し続けると、瞬く間に船を制圧する事に成功した。

 取り敢えず敵は皆殺しにしたのだが、このフリゲートの乗組員は前世からの知識と照らし合わせて、明らかに人数が少ない。

 イギリス海軍で言うところの6等艦フリゲートの乗組員は、最低でも150人程度の筈なのだが、この船には80人程しか乗っていなかった。

 まだ、敵が隠れているのかとも思ったのだが、ジョルジュに聞いてみたところ、共和国海軍では人員不足のために小型艦では乗員を削っているらしく、特に不思議はないとの事だった。


「それでコレから如何するのだ?」


 ワルドの問い掛けに対して、俺はある事を確認するためにジョルジュに話し掛ける。


「ジョルジュ、砲の扱いは分かるか?」


「勿論でさぁ」


 ジョルジュからの返事を聞いた俺は、ワルドに向いて先程の質問に対する答えを返す。


「この船を使って湾内に停泊している敵艦を叩き、リゼ大尉と協調して港の敵を撃破する」


 この手の帆船の操作は、より複雑で細かい動きをしないと言う前提があるのならば割と少ない人数で十分に動かす事が出来る。

 それこそ、1人か2人でも航海をするのが不可能では無いのだ。

 後は、ジョルジュから砲の使い方を教えて貰えば、上甲板に出ている砲で敵をたたく事が出来る。


「どうだ?お前達。この船を動かせるか?」


「当然よ!」


「こんな船、ガキでも動かせらぁ!!」


 挑発するように漁師達に訪ねると、自信に満ちた答えが返ってくる。

 俺は返ってきた答えに満足して笑みを浮かべ、言い放つ。


「よっしゃ!戦闘準備だ!」


「「おお!!」」


 威勢の良い返事と共に、各員が素早くマストや帆を操作する為に位置に着き、船を動かす準備を始めた。

 その様子を横目に、俺はジョルジュと共に上甲板に出ていた一門の砲ひ近づいた。


「コレか・・・」


 木製の台車に乗せられた大きな鉄の塊は、やや青みがかった黒に塗られており、正に映画で見た通りの見た目だ。


「どうやって使うんだ?」


 砲を見詰めたままジョルジュに聞くと、ジョルジュが説明を始めた。


「簡単だよ。基本的には銃と大差は無いね・・・ただ、弾が馬鹿みたいに重いかな」


 と言って渡された砲弾は確かに重く、黒々としたそれは鋼鉄で出来ていた。


「鉄製か!?」


 砲弾が鉄で出来ている事に俺はかなり驚いた。

 と言うのも、この世界の銃とは要するに簡単な魔法を誰でも使える様にする為の杖の代用品の様な物であって、その存在の本来の目的は魔法を使う事なのだ。

 だからこそ、魔法銃は割と古くから有るにも関わらず戦場で使われる事は無かったのだが、この砲は明らかに違う。

 その存在の目的からしてより効率的な純粋な兵器として造られている事が良く分かる。

 装飾を廃し、実用的で無骨な造りをしており、ある程度の規格化もなされているコレは、この世界の銃とは明らかに一線を画する存在だった。


「・・・共和国、侮り難し・・・」


 正直、同じ発想は俺にもあった。

 魔法を火薬代わりにして、鉛の実弾を使うと言うアイディアはかなり前から考えていたのだが、莫大な予算が掛かる事が予想できていた為に断念したのだ。

 実弾化した場合に掛かる費用というのは、実は銃一丁辺りの価格は今よりも安く出来るが、それには王国陸軍全軍での一括採用する位で無いと大量生産の効果が薄く、また、何よりも弾薬の一発辺りの単価に採算が取れないのだ。

 もしも、共和国で銃の実弾化が進んでいるとすれば、我が国には対抗手段が無いのかもしれない。


「・・・」


「どうかしたか?」


 突然黙り込んだ俺を心配するようにジョルジュが声を掛けてきた。


「イヤ、大丈夫だ」


 内心を悟られまいと何でも無い風を装ってみたが、ちゃんと出来たかが自信が無い。

 そんな俺を余所に、周りは慌ただしく動いて、戦いの準備が進められて行く。


「それで、どう言う感じで行く?」


 ジョルジュの問い掛けに、俺は少し考えてから答えた。


「取り敢えず上甲板の砲だけを使おう。人数がいないから一門に2人で行くしか無いな」


 上甲板の砲は片舷五門ずつの十門で、砲手は旋回する度に忙しなく動く事になるが、それは仕方が無いと割り切る。

 今回は人数の兼ね合いと、様々な風に対応しつつ湾内を自由に動き回るためにフォアマストとメインマストの横帆を全て畳み、船首楼からフォアマストに繋がる縦の帆のジブとミズンマストのガフセイルだけを張る。

 横帆では順風以外では動きづらい為、より自由に動ける縦帆だけの帆走を選んだ。

 全ての準備を終え、全員の視線が俺に集まった時、俺は声を張り上げて言った。


「錨を切れ!」


 その言葉と共に錨に繋がるロープに斧が振り下ろされた。

書いてしまって何ですが、実際に書いた通りの人数と帆で本当に動くんだろうか

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