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六十七話 援軍

今回は非常に短いです。


「・・・」


 眩い日射しに眼を覚ました俺は、上体を起こして布団を払う。

 柔らかい沈み込む様なベッドから抜け出してクローゼットの前に立ち、何時も通りの黒いズボンと白いシャツに着替える。

 俺は、ふと眼に入った見覚えの無い剣帯と変わった形のポーチを不思議に思い手を伸ばすが、直ぐに興味を無くして部屋を出た。


「・・・」


 窓から見える空は程よく白い雲が漂う晴れ模様で、時折吹く緩やかな風が木の枝を揺らしていた。

 そんな何時もの風景を眺めながらダイニングに入ると、既に席に着いていた家族が朝食を取っている。

 俺も自分の席に着くと、目の前に出されたサラダとスープに口を運び、楽しげにしている家族を見た。


「・・・」


 談笑しつつ朝食を取った後、俺は屋敷から出ると用意されていた馬車に乗り込んだ。

 馬車の窓から流れていく風景を見ながら何時もの様に暫し時を過ごすと、目的の場所に着く。


「・・・」


 俺の大事な人の待つ静かな林の中の広場で、白いワンピース姿の彼女を目にすると、鼓動が早まるのが感じられた。

 彼女は何時も通りに俺を見付けると、微笑みを浮かべて俺の方へと近付いてくる。


「・・・」


 俺も彼女に笑いかけながら小走りになって彼女に近付くと、彼女の華奢な身体を抱き締めて、柔らかな髪に顔を近付ける。

 こうすると、彼女は決まって恥ずかしそうしながら、俺の胸に顔を埋めてくる。

 俺はそんな何時もの彼女が溜まらなく愛おしかった。


「・・・」


 それから俺達は、大きな切り株の縁に座って取り留めなく話をする。

 彼女が控え目に笑う度に、俺の頬は上気して、思わず彼女の小さな唇に視線が移る。

 そうすると、彼女も俺の事を上目遣いに見詰めてきて目を瞑った。

 彼女の肩に手を置いて徐々に顔を近づけて、やがて一つになる。

 正に何時も通りの筈なのだが、俺は何か違和感を覚えていた。

 何か大切な事を忘れている気がしてならず、落ち着かない気分になった時、ふと視界の端に一人の男が映り込む。


「・・・」


 ボロボロの赤いコートを身に纏い、肩に剣帯を提げてサーベルを佩き、腰には見慣れない不思議な形のポーチを付けている。

 そして、血豆だらけのボロボロの手で木製の短い杖の様な物を持って此方を静かに睨んでいる。

 そんな男の存在に気が付いた彼女は俺の服を強く握って身体を震わせ、脅えた様子で俺に縋り付いてくる。

 そんな彼女を俺は護ろうとして彼女の前に立った。

 俺がその男をにらみ返していると、男はゆっくりと口を開いて言った。


「それで良いのか?」


「・・・」


 俺が男に聞き返すと、男はニヤリと笑って杖の様な物の先端を此方に向けて来る。

 そして、男の右手の指がゆっくりと動くのを見た瞬間、俺は立ち上がって右手で腰のホルスターから拳銃を抜いて引き金を引いた。


「それで良い」


 男はそう言うと煙の様に消えてしまった。

 俺は暫く呆然として、手で握っている拳銃を見て、それから何時の間にかにサーベルを佩いているのにも気が付いた。

 ボロボロの赤いコートを着ていて、拳銃を持っていない骨張った血豆だらけの左手で、ライフルを握っていた。

 俺の姿は男と同じ物で、あの男こそが俺だった。

 そして、俺は後を向くと、同じようにボロボロの赤いコートを着た兵士達が立っていた。

 全員、頬は痩けて傷だらけの泥塗れで、しかし、眼だけは鋭く血走った精気に満ちた眼をしていた。

 俺が彼等の方に三歩歩いてから後を振り返ると、だらしの無い表情でリリアナ嬢と話す見知らぬ男がいた。

 そのだらしの無い男を少し見た後、俺は再び歩き始める。

 兵士達が俺の歩く道を空け、俺の後に続いて行進する。

 その先頭を歩く俺の頭には最早、先程までの非日常の事など一欠片も残ってはおらず、ただただ、コレからの今まで通りの日常の事だけが思い浮かんだ。







「死ねぇ!!」


 ぼやける視界の中で、馬乗りになった敵が大きな石を振り上げて、俺に振り下ろそうとしている。

 頭がじくじくと痛み、米神が濡れている様な感覚がしてコレまでに何度か殴られている事を思い出す。

 後一撃殴られれば俺は死んでしまうと、嫌に冷静に考えながら、最期の衝撃に備えていると、俺の耳に聞き慣れた破裂音が聞こえた。

 そして、次の瞬間には、俺に馬乗りになっていた敵の兵士が胸から血と臓物を飛び散らせながら俺の上に倒れ込んでくる。


「大丈夫かカイル」


 連続して破裂音の鳴る中、俺は大きく力強い暗い灰色の毛に覆われた手によって死体の下から助け出された。


「ワルドか?」


「そうだ」


 俺を助け出した者の正体を見て俺が呟くと、彼は当然とばかりに言う。

 今一、状況が飲み込めていない俺に、更に声を掛けてくる者が現れた。


「団長!大丈夫ですか!?」


「リゼ少尉」


 濃い銀色の髪に褐色の肌をしたダークエルフの見知った女の名を呟くと、彼女は笑みを見せて言った。


「今は大尉です」


 そんなやり取りをしていると、何時の間にかに戦闘は終わっていた。

 敵の小隊は全員が血を流して道に倒れ、俺の側にはリゼ大尉とワルドの他に10人の見知った顔の兵士がいた。


「カイル団長。リゼ大尉以下12名、貴方の指揮下に入ります」


 そう言って挙手の敬礼をするリゼ大尉と、それに続くワルド達を見回すと、俺は涙が流れそうになり、必死で堪えた。

 それから、敬礼を返して言った。


「諸君等の指揮を掌握した。コレから確り働いて貰うぞ」

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