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六十六話 走馬燈

中々話が進みません。

正に如何してこうなった状態です。

 街の喧騒と海風の音に混じって、何処かから狼の鳴き声が聞こえてくる。

 俺は一人、教会までの道を塞ぐ様に佇んだ。


「・・・」


 教会の建つ丘の麓から敵の兵士が3、40人ばかりが登り坂を歩いて此方へと向かってきているのが見える。

 新たに現れた敵の船が港に着くなり、新たな敵の兵士が続々と降りてくると、手早く街を制圧していく。

 その手際を見る限り、コレまでの素人に毛が生えた程度の物とは全く違う、良く訓練された実戦経験の豊富な本物の軍人だった。


「コレからどうすんだ?」


 眼下の道を歩く敵を眺めていた俺に、声を掛けてくるのはジョルジュだった。


「逃げないのか?」


 俺がジョルジュに問い掛けると、彼はニヤリと笑みを浮かべて答える。


「アンタが負けたらアッチに行くよ。アンタとは戦いたくないからな」


「そうか」


 ジョルジュは、俺の質問に答えると狭い道の脇に座り込んで、何も言わずに俺を見続けた。

 丘の頂上にある教会への道は、最終的に一つになり、俺が居る場所を必ず通る様になっている。

 道幅は狭く、傾斜が急なこの場所は俺が敵を迎え撃つ事の出来る唯一の場所言って良いだろう。

 ここよりも下に行けば道幅が広くなり、上に行けば傾斜もなだらかになっている。

 俺はここに留まって一人で敵を迎え撃つ事に腹を決めた。


「何で一人で戦うんだ?他の奴も連れてくれば良かっただろ」


 ジョルジュが俺に向かって言った。

 確かに、一人よりもあの場にいた6人も連れ来ればその分余裕が出来たかもしれないが、俺はその選択しを選ばなかった。


「アイツらを連れてくれば間違いなく、アイツらは死ぬだろう・・・」


「まあ、そうだな」


「既に大局は決している。この街を守り切る事は出来なかった。つまり、既に負けているんだ・・・俺の勝手な我が儘にこれ以上付き合わせるのは酷な事だろ」


 もう既に此方が負けているのなら、これ異常は悪戯に連中の命を危機にさらす事は無い。

 俺の言葉を聞いたジョルジュは、更に聞いてきた。


「なら、なんでアンタは降参しないんだ?」


 その質問に対する答えは、直ぐに俺の口を吐いて出た。


「共和国が嫌いだから」


 そう答えると、ジョルジュは鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情を見せ、少し間を置いてから声を上げて笑った。


「アンタ・・・面白いな」


 目尻に涙を浮かべながら言うジョルジュは、尚も小刻みに身体を震わせて、時折声を上げるのを我慢する様な仕草を見せる。


「・・・」


 俺が敵に降服しないのは、只単に共和国が嫌いだからで、嫌いな理由と言えば、矢張り先の戦争の事が主な理由だろう。

 あの戦いで俺は、多くの部下と仲間を失った。

 そして、その代わりに多くの敵を命を奪った。

 今でも時々思うのは、あの時に共和国が攻めてこなければ、俺は今でも平和に肥える事が出来ていた筈だ。

 泥に塗れて、血を流して、手と足に血豆を作る事は無く、日がな一日を只無意に過ごして穀潰しになる事が出来ていた筈なのだ。


「どうしてこうなったんだろうな・・・勲章も階級も功績も何もいらないのに・・・なのに何で、こうも要らない物ばかり増えていくのか」


 そう呟く俺に、答える人は居なかった。

 そして、遂に敵の小隊が俺の目の前までやって来た。

 敵の小隊は、俺の姿を見るなり歩みを止めて、隊長らしき兵士が前へと出て言った。


「我々はこれ以上の流血は望まない。武器を棄てて投降せよ」


 そう言ってきた敵の小隊長に対して、俺はサーベルを抜き放って言葉を返した。


「俺はお前達の血を望む。とっととその命を置いて地獄に落ちろ」


 そう言って、俺は一番前に出て来ていた隊長に上段からサーベルを振り下ろして襲い掛かる。


「ぬぉっ!?」


 道の幅は人が三人並んだら塞がる程度の幅で、横に避ける事は出来ず、俺の一撃目は辛うじで受け止められた。

 しかし、その一撃で体勢を崩させる事には成功し、俺はガラ空きになっていた腹に蹴りを見舞った。


「はあっ!!」


 蹴りを受けた隊長が後に転がると、間髪を入れずに敵の兵士が一人、サーベルを振りかざして躍り出てきた。

 袈裟気味に振り下ろされた一撃を、俺は敢えて避けずにサーベルで受けると、手首を返して受け流した。


「っ!?」


 予想していた抵抗する力が無くなってしまった事に驚いてバランスを崩した敵に、俺は容赦なくサーベルを突き入れる。

 刃を寝かせた状態で胸を突き、胸骨を避けるようにして肺を貫いた。


「クハッ!!?」


 肺に孔が開いた事で血液が流れ込み、気管を逆流して口から吐き出された。

 突き刺さったサーベルの刃は、筋肉の硬直と体内の圧によって抜けにくくなってしまうが、俺は慣れた動きで相手の身体を蹴って刃を抜いた。


「先ずは一人」


 そう言った俺は、次の敵に狙いを定めた。

 単純に一番近くにいた兵士に視線を向けると、一瞬のたじろぎの後、声を上げて向かって来る。


「うああああ!!」


 大振りの隙だらけな一撃を、俺は前に踏み込みながら躱して、居抜き胴の要領で薙いだ。


「グッ!!」


 下腹部を真一文字に斬られた兵士は、左手で傷口を押さえるが、決して倒れるような事は無く、尚も俺を睨みながら剣を振るった。

 しかし、力無く振られた剣は俺に当たる事は無く、力尽きたように膝を着いて剣を取り落とした。

 俺は倒れた兵士に興味を無くし、次に意識を向けた。

 流石に三人立て続けに倒されると、数で有利であるにもかかわらず怖じ気づくのか、向かってくる者は居なかった。


「はあっ!!」


 勢いに乗った俺は、今度は攻撃に転じる、

 半身の体勢から右足を小さく踏み出しながら、サーベルを左から右へと浅めに斜めに振り上げた。

 この最初の一太刀は躱されてしまうが、既に怯んでいた敵は反撃のチャンスを生かせずに後へ後退ってしまう。

 そこを更に間合いを詰めて、今度は右から左に振り上げて、首筋を切り裂く。

 その時、明るい色の血が勢い良く吹き出て俺の顔に掛かり、視界が塞がれてしまう。


「っ!?」


 大きな隙を晒してしまった俺は、急いで服の袖で血を拭おうとした瞬間、左足を何かに取られてバランスを崩し、更に強い衝撃と共に右肩を斬られた。


「ぐうっ!!」


 焼ける様な痛みを右肩に感じると、急激に力が抜けてサーベルを手から取り落としてしまう。

 そして、今度は後から引っ張られると、仰向けに地面に倒れ何かにのし掛かられた。

 漸くの事で僅かに右眼の視力が回復すると、先程、腹を斬って倒れた兵士が、俺に馬乗りになって今正に大きな石を振り上げているのが見える。


「死ね!!」


 その言葉と共に衝撃が俺の頭を襲う。

 左の米神に鈍い痛みが走り、視界が揺さ振られて眼に写る全てがぼやけた。

 更にもう一度強い衝撃を受けると脳みそが揺れて思考が纏まらなくなる。

 三発目を喰らうと痛みを通り越して冷静になり、走馬燈と共に自分の死を受け容れていた。

 そして、霞む視界の中で四度目の振り下ろされ石が見えた。

関係ないですけど、PS1に蒼魔灯って言うゲームありましたよね。

あのヒロインが結構好きでした。

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