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五十七話 信じられない

またもや第一話の修正を行いました。

内容には特に変化は御座いません。

 二週間、チンピラモドキの馬鹿共と訓練をしていて分かった事が幾つかある。

 まず、コイツらは体力面に関しては非常に優れていると言う事だ。

 浜辺をランニングさせてみれば3、4㎞程度なら軽く息を弾ませる程度で済み、腕立てをさせてみれば、全員百回近く軽くこなして見せた。

 また、足腰が強くバランス感覚にも優れていたため、砂浜で戦闘訓練をさせても違和感なく動くことが出来た。

 武器の扱い等を考慮しなければ、彼等は兵団にいた元傭兵の兵士よりも優れた能力を持っていた。

 しかし、それだけに現在の連中の状況は残念でならない。


「訓練止め!!」


 そう言って、当たりを見回すと死屍累々の如く全員が浜辺に転がっている。


「・・・まったく・・・」


 俺は連中の不甲斐なさに、思わず首を振って言った。

 それから、俺は暫定的に決まった俺の副官の姿を探し、見付けるなりその名を呼んだ。


「レッド!起きろ!」


「あ、ああ・・・」


 つい先程自分が地面に投げ飛ばしたばかりのレッドを、無理矢理立たせると、俺は怒鳴るように命じる。


「レッド!今すぐに全員を整列させろ!!さっさとしろ!!」


 そうして漸くレッドが起き上がり、それに続いて全員がノロノロと起き上がった。


「貴様等!!本当にヤル気があるのか!!良くもこの程度で偉そうな事を言えたものだな!!」


「「「・・・」」」


「お前ら全員で俺一人倒す事が出来ないとは恥ずかしくないのか!!そんなんで敵を倒せると思っているのか!!」


「「「・・・」」」


 凡そ二時間の訓練、ひたすら俺と連中で一対一の組み手をしてみたのだが、一人当たり三回程度叩きのめした当たりで誰も立ち上がらなくなってしまった。


「まず、言いたい事は、お前らは揃いも揃って動きが直線的過ぎる!その上、考えが単純すぎだ!!殴る前から分かるように手を振り上げて如何する!!もっと考えて行動しろ!!」


 連中は戦うのが兎に角下手クソだった。

 殴らせれば全てが大振りのテレフォンパンチ、それ以外の事をやらせると、直ぐにバランスを崩したり、先の動きが読める行動ばかりで感嘆に躱せる。

 連中は、まったくどうしようも無い程に弱かった。

 そのクセに根拠の無い自信ばかりが過剰で、何時まで経っても改善の兆しが見えない。

 俺はコイツらを如何すれば良いのか、まったく分からなかった。


「それともお前ら全員で俺をおちょくっているのか!?」


 俺は今、心底ここに兵団の連中がいればと、ハンスが居ればと思う。


「・・・一体、お前らを如何すれば良いんだ・・・」


「「「・・・」」」


 予定では今頃ナジームの手紙が届き、上手くすれば幾分の部隊が俺の元へと来る筈だ。

 俺の予定通りに行けば海賊程度ならば直ぐにでも対処できると考えていた。

 少なくともこの時までは・・・。







「カイル!!カイル!!」


 夜中、熟睡していた俺はレッドの声で起こされた。


「何だ?」


 何事かと思って返事を返すと、驚くべき事が告げられる。


「海賊だ!海賊が来た!!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は一瞬で切り替わり、ベッドから跳び起きるとサーベルと拳銃を掴んで外へと飛び出した。

 月も星も無い、暗闇が支配する真夜中で有るにも関わらず、港や浜の方が俄に活気づき、赤々とした光が揺らめいているのが見えた。

 そして、暗黒の海の中に、舷窓から漏れる光が船影を微かに映し出している。


「レッド!!」


 俺は背後から近寄ってきたレッドに向かって怒鳴るように言った。

 背後でビクリと反応するレッドの気配を感じ、俺は更に言葉を続ける。


「出来る限り連中を集めろ!可能なら他の男共も掌握して浜へ行け!!」


 矢継ぎ早に命じると、レッドは一瞬逡巡した後、返事を返す。


「あ・・・りょ、了解!!」


 そう返事を返すなり、レッドは俺を追い抜いて走り出す。

 その後に続く様に、俺は港の方へと向かった。


「ハア・・・ハア・・・!」


 息を弾ませながらを走る俺の眼には、所々が炎に包まれた港の周辺の町並と、沖の船から飛んでくる赤い光が映った。

 その様子は俺の前世の記憶の一つと符合して、口から驚きの声が漏れた。


「艦砲射撃!?」


 沖合に浮かぶ海賊の船は、暗闇の所為で如何ほどの大きさの物かは分からなかったが、舷側で光が瞬く度に緩やかな弾道曲線を描いた赤い光が飛んでくる。

 その様は、映画や資料映像で見た事の有る大砲のそれに良く似ていた。

 しかし、この世界に砲が有るというのは聞いた事が無く、似たような概念の物も知らなかった。

 俺は、この世界には存在し得ない筈の物が、今正に目の前に存在していて、それが俺に向けられていると言う状況に、酷く混乱した。


「っ!?」


 一瞬呆けてしまった俺の意識を元に戻したのは、ゆっくりと飛んでいる一つの砲弾で、それが俺の方に向かっていると気が付くと、俺は即座に近くの物陰に飛び込んで両手で頭を抱えるように伏せる。

 その次の瞬間、凄まじい衝撃と轟音が俺を襲い、無事を確認して頭を上げると、先程まで俺が立っていた場所が石畳を剥ぎ取られてクレーターになっているのが見える。


「・・・」


 それを見た俺の胸の中には、久し振りの恐怖という感情が湧き上がり、否が応にも戦場に帰ってきた事を俺に知らせた。


「・・・っ!」


 ふと、海の砲を見ると、ボンヤリとした小さな幾つかの灯りが、此方に向かって滑るように進んでいるのが見える。

 それは、沖の船から出て来た上陸用の小型のボートで、一艘当たりに十数名からなる敵が乗っており、浜を目指していた。

 俺は、急いで立ち上がると、浜へと向かい、そこに集まっている筈のレッド達と合流することにした。


「レッド!!レッド!!」


 浜に着く直前からレッドの名を大声で叫ぶと、直ぐさま返事が有った。


「ここだ!!ここに居るぞ!!」


 俺はその返事のする方に近付くと、直ぐに隊の掌握をしようとした。


「何人いる!!」


 と俺がレッドに聞くが、レッドからは答えは無く、俺は再度、レッドに怒鳴り付ける。


「何人いるんだ!!レッド!!」


「わ、分かんねぇよ!!」


 漸くレッドから帰ってきた答えは、俺を落胆させるのに十分な物だった。

 あろう事か、レッドは隊の掌握は愚か、人員の確認すらしておらず、この場に何人いるのかが分かっていなかった。

 俺は、今すぐにでもレッドを叩きのめしてやりたい衝動に駆られながらも、何とか押さえ込み、大まかな任ずの確認に移る。


「お前ら!!全員いるか!!俺に向かって右から名を言え!!」


 と俺が叫ぶと、順に自分の名を叫び始める。

 その名前を記憶と照らし合わせながら人数の確認をするのだが、途中から明らかに知らない名前の物が混じり始め、人数も明らかに何時もの倍以上いる計算になる。

 俺は、見知らぬ男を暗闇の中から見付けると怒鳴り付けた。


「貴様!一体何所の何者だ!!敵の間諜か!!」


「ち、違う!」


 俺が怒鳴り付けた男は、驚きながら返事を返す。

 その声にはやはり聞き覚えが無く、海賊が紛れ込んでいるのかと思ってサーベルに手を掛けると、レッドが話に割り込んできた。


「待ってくれカイル!その人は仲間だ!」


 レッドの説明によると、どうやら浜に向かう途中で話し掛けられた男に事情を言うと、手伝いたいと言って着いてきたらしく、気が付いたら漁師の男達が中心になって戦列に加わったのだ。

 正直、余り期待できそうに無いのだが、今は人手が必要だと割り切って、仕方が無く連中も使う事にした。


「分かった。怒鳴ってすまない」


 俺は男に軽く謝意を伝えると、直ぐに迎撃の準備に入る。


「お前ら!敵は現在四艘のボートで此方に向かってきている!ここで敵の上陸を許せば、街が蹂躙される事になる!お前らは後に引くことは許されない!!分かったか!!」


「「お、おお!!」」


 帰ってきた返事は小さく、明らかにおびえが混じっているが、俺はそれを気にせずに続ける。


「お前らはクズだ!!一対一では絶対に勝てない!常に三人一組で行動し、必ず数的有利を取って戦え!!今すぐ三人組になれ!!」


 果たして俺の言うとおりに行動しているのか確信は無かったが、それを確認する時間も術も無く、俺は拳銃をホルスターから抜くと、その銃口を海に向けた。

 そして、撃鉄を親指で起こし、引き金を引く。

 それから、一言怒号を発した。


「掛かれ!!」


 言うが早いか、既に脚が着くほどの深さの所まで来ていた海賊共が、片手に松明を持って上陸してきた。


「うおおおおおおおお!!!」


 大声で叫びながら水しぶきを上げて此方に向かう連中に、俺は銃口を向けて引き金を引く。

 同時に放たれた光弾が、松明を持っていた海賊の一人を捉え、最初の一人目を殺した。


「敵も人間だ!恐れるな!!」


 そう言いながら再び拳銃を撃ち、二人目の海賊を物言わぬ亡骸に変える。

 その様子を見て勇気づけられたのか、此方の奴等も活気づいて、海賊に対して恐れずに向かっていった。

 俺は、目につく松明を目掛けて拳銃で撃ち続け、確実に敵の数を減らし、眼を奪っていった。

 しかし、それも何時までも続かず、遂に松明を持つ者が居なくなり、完全に暗闇の中の戦闘になると、今度はサーベルを抜いて敵を探した。


「おおおおおおお!!!」」


 ありがたい事に俺を先に発見した敵の一人が大声を上げて襲い掛かってきてくれて、俺はそれを慣れた手付きで斬り捨てた。

 久し振りに斬った人の感触と言うのは、骨が多くてゴツゴツとした気持ちの良い物では無く、料理の時に切る肉の感触とは雲泥の差だ。


「・・・」


 最早、俺は人を斬ったぐらいでは余り思うことも無く、黙ったままで次の敵を探し、見付ける度に首や頭を狙って切りつけて行った。

 そうしている内に、海賊の方が撤退を開始し、浜での戦闘は僅かに十分程度で終息する。

 俺は、その敵の手際の良さに妙な違和感を覚える。


「レッド!」


 俺がレッドを呼ぶと、彼は直ぐに俺の下まで来て、荒くなった呼吸を整えながら返事をする。


「ハア・・・ハア・・・っあ・・・な、なんだ・・・?」


 そんなレッドの様子など微塵も気にせずに、俺は訪ねた。


「ボートは漕げるか?」


「へっ?」


「あの敵が置いていったボートだ。漕げるか?」


 俺がそう訪ねると、レッドは少し黙って考えてから答えた。


「・・・ボートの漕ぎ方は知っているけど・・・何をするんだ?」


 俺に対して質問するレッドに、俺は言った。


「漕げるなら直ぐに人を集めろ!奴等に反撃するぞ!」


 そうして、浜に散らばっている中から元気な奴を十五人ばかり見繕ってボートに乗せると、沖に向かって勢い良く漕がせた。


「目標は敵の船だ!全力で漕げ!」


 最早、返事を返す事も出来ない彼等だったが、それでもオールを動かす手は一切止めず、どんどんとスピードを増して、敵船に近づいていく。

 そして、敵船の直ぐ側まで近づいてみて、俺は驚いた。

 それは、船の大きさもそうだが、非常に良く手入れがなされていて、時折見える船底にはフジツボが余り着いていない。

 何とか確認できたマストの本数は三本で、三段の砲甲板からは大量の砲が顔を覗かせている。

 それは、明らかに海賊船では無かった。


「お前達はここで待っていろ」


「えっ?」


 俺の言った事を理解出来ないと言う風に、唖然として声を漏らすレッドを無視して、俺は舷側をよじ登り始めた。

 俺は内心でこの先の事を不安に思い、己の考えが間違っている事を祈りながら手足を動かして甲板を目指した。

ハイファンタジーとローファンタジーの違いが分からなくなってきたこの日この頃、この話は一体どちらなのでしょうか。

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