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外伝 わたくしの婚約者様が戦地に行ったっきり不通な件について

注意、コレまでで一番酷い話が出来てしまいました。

もしかしたら、この先削除するかもしれませんが、取り敢えず投稿はします。

今後如何するかは、その内決めつつ今の所は載せておきます。

読まなくても問題はありません。

「お嬢様。朝で御座います」


 何時も通りの朝、何時も通りにメイドのシエイラの声で眼を覚ますと窓から刺す日の光が眼を眩ませる。


「・・・」


 今だ覚醒しきっていない、ぼんやりとした思考でベッドから抜け出し、シエイラの手伝いを得ながら寝間着を脱ぎ、軽く身を清めた後、用意された淡いピンクのワンピースを着せられた。

 その頃になって漸く頭が冴えて始め、食事を取るために一階のダイニングルームへと向かう。

 ダイニングへと向かう途中、ふと気になった事を後を着いて歩くシエイラに聞いた。


「そう言えばシエイラ」


「何でしょうかお嬢様」


「最近、あの方が見えませんが何か知っていて?」


「あの方と言うと?」


 わたくしが聞いた事に対して、優秀なメイドであるシエイラには珍しく、望んでいた答えが返ってこず、その様子に少し違和感を覚えながら、更に詳しく説明して訪ねる。


「ですから、あの方と言えばわたくしの婚約者のカイル様よ」


 何時もはしつこい位に訪ねて来ては、飽きもせずに花やプレゼントを置いて行く婚約者の事を聞いてみたのですが。

 最近顔を見せない事に遂に愛想を尽かしたかと思って訪ねたのですが、シエイラからもたらされた答えは予想だにしない物でした。


「・・・お嬢様、失礼ですが本気で聞いておられるのですか?」


 シエイラのあんまりの反応に困惑しながら、わたくしは答える。


「え、ええ・・・何か変かしら?」


「・・・お嬢様」


 呆れた様な声を出すシエイラは、何も分からないわたくしに説明をする。


「カイル様は、先々月から西部に行っております」


「・・・西部?あの方が何故西部に?」


「お嬢様・・・今、西部に行っていると言うのは出征されていると言う事です」


 その言葉を聞いた瞬間、わたくしは驚きの余りに思わず声を上げてしまい、同時に小太りの御世辞にも美男子とは言いがたい婚約者が戦地で逃げ惑う姿を思い浮かべてしまった。


「それは本当なの!?あのカイル様が!?」


「お嬢様、声を抑えて下さい」


 淑女にあるまじき声を上げてしまったわたくしをシエイラが諫め、その後に本当の事であると告げる。

 信頼するシエイラの言葉とは言え、わたくしはあのカイル様が戦っていると言う事が如何しても信じられず、更に詳しく訪ねた。


「一体何故あの方が?」


 わたくしの質問にシエイラが知る限りの事を答えてくれた。


「私も詳しくは知りませんが、何でもお父上・・・メディシア家の当主様からの命令だとか」


 そう説明されたわたくしは、メディシア家の当主ネイサン様の事を思い浮かべて納得する。


「まあ、あの当主様ならそうしますわね」


 若くして財務卿にまで上り詰めたネイサン卿は自分にも他人にも厳しい事で有名で、それでいてカイル様が産まれた時の不逞疑惑以来、カイル様との不仲が真しやかに囁かれていて、度々お会いするわたくしからみても、何処かカイル様を遠ざけている様に思えた。


「しかし、大丈夫なのかしら・・・」


「何がですか?」


「いえ、あの方が戦場になんて行って周りにご迷惑を掛けないのかと思って」


 そのわたくしの疑問に、またもや驚愕の答えがシエイラからもたらされた。


「大丈夫も何も、カイル様はアレクト殿下の命をお救いしたそうですよ?」


「え!?」


 またもや声を上げてしまったわたくしは、今度は自分で気が付いて口を手で押さえて、更に訪ねる。


「それは本当なの?何かの間違いとかでは無くて?」


 シエイラはその時の様子について、詳細な情報を仕入れていたらしく、驚きに満ちた話を聞く。


「情報によると、カイル様が一隊を率いての撤退中に、同じく撤退中だったアレクト殿下に合流し、その後共和国の軍隊に追い付かれた際に進んで殿を買って出たようです」


「それで・・・どうなったの?」


「はい、カイル様は決死の戦いぶりで見事に殿の役目を果たし、帝国の援軍が来るまで持ちこたえて生き残ったと」


 普段のわたくしが知る婚約者のイメージから大分かけ離れた活躍を聞いて、余りの驚きに開いた口が塞がらなくなってしまう。

 花やお菓子を持って家に来てはわたくしの前に跪いて、わたくしの注意を引こうとする情けない姿からは到底、想像が出来なかった。


「他にも殿下からの篤い信頼を得て兵団を任されるまでになったそうで、この後の戦いにも殿下の肝いりで参加する事が決まっていると聞いています」


 何だか、全く知らない別人の事を聞いている気分になってきたわたくしは、少し戸惑いながらも開けられた扉からダイニングルームへと入る。

 ダイニングには既にお父様が席に着いて朝食を召し上がっていて、わたくしに気が付くと笑みを浮かべて声を掛けて来ました。


「おお、リリアナおはよう」


「おはようございますお父様」


 わたくしは挨拶を返してからお父様の近くの席に座り、朝食が運ばれてくるのを待った。

 その間にお父様が話し掛けてくる。


「そう言えばカイル君の事は知っているな?」


 ついさっき聞いたばかりの話題を向けられたわたくしは、動揺が顔に出ない様に努めて答える。


「はい。大変素晴らしいご活躍をされていると」


 わたくしが答えると、お父様も笑顔で同意を示す。


「うむ、カイル君は若いながらも戦地で素晴らしい戦いぶりを見せているそうだ。帝国から戻った宰相からも彼の活躍を聞いた。ローゼン公爵から届いた手紙にはカイル君を殊更に賞賛する言葉が並んでいたな」


 どうやら、想像も着かない婚約者様の活躍は、それすらも遥かに上回る物だったようだ。


「このまま行けば、カイル君の叙勲は間違いが無いだろう。いや、最初メディシア伯爵からお前との婚約の話が出た時には随分悩んだ物だが、今にして思えば良い縁談を結んだのだな」


 ととても満足げに頷くお父様に、わたくしは微笑み返す事ぐらいしか出来ずに、サーブされた朝食のスープに手を着けてコレからの事に思考を巡らせた。







「・・・一体如何したら・・・」


「・・・」


 朝食を終えたわたくしは、部屋に戻ると窓際の椅子に腰掛けて、淑女らしからぬ様子で項垂れていた。


「如何したら・・・」


 わたくしが今悩んでいるのは、コレまでの婚約者様に対する自分の態度の事で、今まで随分とぞんざいな態度で冷たく接してきていましたが、わたくしは彼とは結ばれるのは如何しても避けたいが故の行動だったのです。

しかし、今のあの方の立場故に今までの様な態度を取ることは許されず、このまま行けばカイル様と結ばれてしまう事は間違いありません。

 カイル様との結婚に懐疑的だったお父様でさえ、今では婚約している事を喜ぶ様子から、下手をすればカイル様が帰り次第に婚姻が結ばれる事も考えられます。


「如何したら・・・」


 わたくしが、そう呟いていると、シエイラが声を掛けてきました。


「あの・・・お嬢様」


「・・・何かしら?」


 わたくしが顔を上げて応じると、シエイラが質問をしてきました。


「何故お嬢様はカイル様を嫌っていらっしゃるのですか?美男子とは言い難いですが、お人柄は穏やかでとてもお嬢様の事を思っておいでですし、武功を立てられてとても良い方だと思うのですが」


 その、至極もっともなシエイラの疑問にわたくしは歯切れ悪く答える。


「・・・余り詳しくは言えないけど、如何してもあの方と結ばれる訳には行かないのよ」


「何故そこまで?お嬢様は余り美醜には括らない方だと思っていましたが」


「別に顔が理由ではないし、カイル様自身を嫌っている訳では無いわ。寧ろ好感を持てる方だと思っています」


「では、何故?」


 そう訪ねてくるシエイラにわたくしはとうとう答える事が出来なくなってしまっていた。

 決して答えられる筈など無かった。

 わたくしとカイル様が結ばれれば、カイル様が不幸になってしまうなどと、その根拠がわたくしが未来の記憶を持っているからなどと、そんな事をシエイラに言えるわけが無かった。

 かつて、わたくしは確かにカイル様と結婚していました。

 最初は嫌だったけれど、その内に人柄に惹かれて行き、わたくしは彼と過ごす日々に満足して幸せを感じていました。

 しかし、カイル様は死んでしまった。

 お父様が権力闘争に敗れ、罠に嵌められた時にカイル様はお父様を助けようと動いて、最後には暗殺されてしまった。

 それも、カイル様の死後には事実と異なるカイル様の噂が流され、最後にはお家お取り潰しとなりカイル様は名誉を失い悪し様に罵られ続けました。

 わたくしは、その時ある方から側室にと言う話を頂いていて、その方と言うのがカイル様暗殺の黒幕と知り、仇の下に降りる位ならと自害した筈でした。

 そして、眼を覚ますと目の前に若返ったカイル様がいて、わたくしは再び婚約を結ぶ事となり、未来の記憶が有るなどと言う事も出来ずに過ごして来たのです。


「・・・とにかく、わたくしはカイル様と結ばれる訳には行かないの」


 そう言って話を終わりにするわたくしの中には、有る疑問が浮かぶ。

 それは、カイル様が出征していると言う事です。

 かつてのカイル様は一度も戦地に赴くことは無く、領地の経営に専念していましたし、そもそも、この時期に共和国との戦争は無かったはずです。


「・・・わたくし以外に誰かいるのかしらね」


「お嬢様?」


「何でも無いわ・・・気にしないで」


 そう言ってわたくしは、テーブルの上に置いた一組の指輪に眼を向けて、大きい方の指輪を撫でた。

 今の状態に気が付いたあの日、わたくしの手の中にはこの二つの指輪が有って、捨てることも出来ずにいた。

 何故、ここに有るのかも分からず、けれどこの指輪を眺めていると幸せだったあの時に戻れるような気がして捨てることが出来ずにいる。


「ねえ、シエイラ」


「何ですか?お嬢様」


「貴女なら・・・いえ、何でも無いわ」


「?」


 途中で言うのを止めた言葉の続きは一体何だったのか、それはわたくしにも分からない。


「・・・どうしてこうなったのかしらね」


 自然に口から漏れたのは彼から移った口癖だった。

女性の口調とか凄く難しいですね。


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