表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/149

三十八話 屈辱的な手紙

今回も短いです。

ついでにいつも通りです。

「報告を聞こうソロモン中尉」


 最早見慣れた、借りている屋敷の自室の中で、俺は椅子に腰掛けてソロモン中尉の報告を聞く。

 先日の一件の後、二日後にやって来たリトビャク家からの使いから、多額の賠償金を今回の戦いにおける帝国の貴族を代表した礼金および、戦死者に対する見舞金と言う形で支払われた俺は、早速使う事に決めて、兵団の各隊長を交えての会議の結果、装備強化と戦死者家族への慰謝料にする事に決まった。

 賠償金は大部分が帝国の貨幣で支払われており、王国の貨幣は少なく、レートが下がってしまう事も考慮して、帝国貨幣は帝国国内で使ってしまおうと考えて、その分を兵団の装備強化に使い、残った王国貨幣は慰謝料に使う。

 そして、装備強化として魔法銃の大量購入を決定した俺は、補給士官のソロモン中尉に命じて、付近の職人をかき集めて、購入した銃の手直しと、新規の制作の指揮を命じた。

 当初は、帝国内でダブついている魔法銃の在庫で済ませようと思っていたのだが、状態が悪かったり、口径や銃身長が余りにも違いすぎていたりと、個体差の差が激しすぎた上に、数もそれ程揃わなかったため、付近の職人を集められるだけ集めて、手直しと銃の大量発注を掛ける事になった。

 そして、今日、ソロモン中尉監修の下で行われた銃の大量注文の全てが納入されたと言う事で、その報告を聞くために彼を呼んだ。


「報告します。今回納入された魔法銃は、小銃800挺、ライフル銃200挺、それと拳銃50挺です。小銃は全て直ぐに使える状態ですが、ライフルは少し慣らしが必要になり、またグリップの形状の違いから訓練においてその面を考慮する必要が有ります」


「弾薬は、どうだ?」


 俺が訪ねると、ソロモン中尉は少し表情を暗くして答える。


「・・・正直な所を言いますと、大分不足しています」


「具体的には?」


「歩兵部隊が今すぐに小銃を装備して戦闘を行った場合、一度の開戦を戦い抜けるか保証は出来ません。少なくともシャウスクの戦いの様な戦闘に発展すれば一時間と立たずに弾が尽きます」


 想像以上に厳しい現状に頭を抱えたくなるが、それを押さえて中尉に聞く。


「何か解決策は考えているか?」


「何とも言えません。ここの所の訓練で周辺の弾薬の材料が枯渇しかけていて、価格が高騰化していますし。何よりも予算がありません」


 弾薬の材料が無くなるのは予想外だった。

 現地の聞き込みで得られた情報によると、クズ魔石を大量に購入する者など今までいなかったため、ここまで在庫が必要になることが無く、誰もが予想できなかったと言っていた。

 工兵隊のダスル中尉も予想外すぎて、何も言えず、どうして良いのか誰にも分からない状況だった。


「コレでは訓練も出来んな・・・」


 思わずそう呟いた俺に、ソロモン中尉も無言で同意を示し、二人揃って頭を抱えた。


「入りますよ」


 そこへ入ってきたのは、ナジームだった。

 ナジームは、御盆に紅茶の注がれたカップを置いて入ってきて、俺とソロモン中尉の前に一つずつ置いた。


「ありがとう」


 ソロモン中尉は、そう言うとカップを持って紅茶を啜り、一つ溜息をついた。


「そう言えば、団長に手紙が届いてますよ」


ナジームはそう言って一通の手紙を差し出してくる。

 俺は、それを受け取って封蝋を確認し、驚愕の余りに紅茶をカーペットの上に零してしまった。


「ああっ!何しているんですか!」


「団長?どうしたんですか?」


 手紙の封蝋には差出人の身分や家、個人を表す紋章がデザインされており、封を開けなくても誰が出したのか分かるようになっているのだが、今回送られてきた手紙の封蝋は、驚くべき事に我が婚約者リリアナ・ホークス嬢を表す物だった。


「嘘だろ・・・信じられん・・・まさか、こんな・・・」


 そう言って、俺はナイフを使って便箋の上部分を切り裂いて、中から手紙を取りだし、眼を通した。


 拝啓。

 親愛なるカイル・メディシア様、如何お過ごしでしょうか、カイル様が戦地へと出征してから早い物で半年が過ぎました。

 わたくしは、カイル様が出征したと聞いた時は、とても驚いて思わず、呑んでいた紅茶を零しそうに成るほどでした。

 カイル様は、戦地では大変な活躍をされて、アレクト殿下からの信も厚く、今はアウレリア王国の代表としてガイウス帝国に赴いて帝国騎士の方々にも劣らない立派な働きを成されていると聞きます。

 また、この度はエスペリア皇女殿下の我が国への留学に伴って皇女殿下の護衛も担うと聞いて、わたくしは、婚約者としてとても誇りに思います。

 帝国はこれから更に寒くなると聞いています。

 どうか、お体を大事にして任務を果たして、帰ってきて下さい。

 親愛なるカイル・メディシアへ、リリアナ・ホークスより。


「・・・こ、こんな物、どうせ誰かに言われて書いたか、そうでなければ他の者が書いて横したに違いない」


 今までの彼女の俺に対する扱いから、手紙の内容を否定した。

 散々俺の事を虚仮にしてきた彼女からの、こんな内容の手紙など一切信用できなかった。


「・・・団長」


「何だ!?」


「顔、ニヤけてますよ」


「・・・っ!!?」


 ソロモン中尉に指摘されて、俺は自信の口角が上がり、目尻が下がっただらしの無い表情になっている事に気が付いた。

 咄嗟に右手を口元に当てて隠し、眉間に皺を寄せて険しい表情を作ろうとするのだが、手紙の内容を思い出す度に、表情が緩みそうになる。


「クソッ!!・・・屈辱だ・・・この程度の手紙でこの様な醜態を晒す事になろうとは」


 俺は、自分の精神の余りの弱さに、強い自己嫌悪を感じて悪態を吐くが、ソロモン中尉とナジームが宥める様に声を掛けてくる。


「ま、まあ、仕方が無いですよ」


「そうですよ、女性にそう言われて喜ばない男はいないですよ」


「・・・そうか?」


「はい」


「それに、まだ偽物とは決まって無いですし」


 そう言われて俺は、不覚にもこの手紙が本物のリリアナ嬢からの手紙である事を、僅かに期待してしまった。

 昔から、僅かにでももしかしたらと思うことがある度に、期待しては裏切られてきたと言うのに、全く学習しない自分自身に呆れてしまう。


「忘れよう・・・この手紙の事は一端忘れよう」


 そして、手紙を見えないように机の引き出しの中にしまってから、話を戻す。


「でだ、弾薬の確保についてだが、一つ思いついたことがある」


「何ですか?」


 何も、それ程、奇をてらった物では無く、極々単純な思いつきだった。


「いや何、ここに材料が無いのなら現地に取りに行けば良いと思ってな」


「ああ・・・ですがよろしいのですか?」


「別にかまわんだろう。採掘場はそれなりに離れているが、時間は潤沢にあるのだ。」


 一応、大規模な軍事行動を取るのならば公爵の許可を得る必要が有るが、別に軍事行動という訳でも無いし、何なら名目上は長距離行軍訓練と言うことにすれば、余り深くは突っ込まれ無いだろう。

 と言う事で、早速ソロモン中尉を責任者として、補給中隊と輸送中隊、工兵中隊、それと護衛として歩兵も交えた部隊を採掘場に派遣することにして、その作戦の立案と行動予定の策定を命じた。

 最終的に、中尉の立案した作戦は全行程三週間、参加部隊は補給、工兵、輸送、の各中隊及び、行軍訓練と冬季戦訓練を兼ねて第二歩兵大隊と第二騎兵中隊で、目的は採掘場に行って弾薬の材料を可能な限り入手する事となった。

 作戦の指揮監督は第二歩兵大隊隊長のハンスが担うが実質の作戦指揮はソロモン中尉が執る事になる。

 この作戦では物資の補給のみならず、貴重な冬季戦のノウハウや、ハンスの部隊の独立指揮能力の向上、新たに小銃兵化した歩兵の行動訓練や小銃の扱いの習熟等、得るものの多い作戦となり、早急に実行に移される運びとなった。

 また、今回は有事の非常呼集訓練も同時並行で行う事になり、立案の翌日、詰まる所の二日後に実行された。







「と言う訳でだ。ハンス、今回はお前の指揮官としての資質を向上する事も狙いにある。確りと全体を纏めて作戦を成功に導いてくれ」


「了解しました若様」


 早朝0600時、寝静まっていた部隊に非常呼集を掛けて参加部隊を集結させ、作戦の概要を伝えて、隊容点検を済ませた部隊に作戦を発令した。


「諸君、今日はいい朝だ。訓練にはもってこいの天気だ。予定全行程三週間の今作戦を終えた時、今よりも一回り大きく強くなっている事を期待して諸君らを見送ろう。それと同時に我が兵団にとって最重要の物資を持ち帰り、今後の兵団運用と作戦展開の能力を維持できる様になる事を期待してこの訓示を終わる。以上!確りやって来い!!」


「「「応っ!!!」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ