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十五話 戦死

「カイル団長。アラン・スミス中尉以下300、ただいま到着しました」


 アダムス率いる騎兵第四中隊は到着するや否や、朝日を背に隊列の乱れた敵中に吶喊し、その悉くを蹴散らした。

 それからわずかな時間で戦闘に決着をつけて、俺の前に来た。


「良く来てくれた。礼を言う」


 そう言いながら俺は、所々に松明の煙が立ち上る戦いの後を見回して、一人の男を捜した。


「何か?」


「いや・・・何でもない」


 様子がおかしいと訪ねるアダムスに、俺が答えた瞬間、声が上がった。


「ボンチャイ!ボンチャイ!」


 俺は、その声に釣られて声のする方を見ると、そこには、傷だらけになったボンチャイが、仲間の肩を借りながら此方に歩いてくるのが目に入った。

 そして、ボンチャイが俺の前に着くと、力尽きた様に膝を折って地面に崩れた。


「ボンチャイ!」


 咄嗟に、ボンチャイの体を支えてやろうと近付いた俺に、ボンチャイが口を震わせ、涙を流しながら言う。


「団長・・・ゴメン・・・言うこと聞かなくてゴメン」


「喋るな傷が広がる」


 何とか出血を抑えようと手ぬぐいを押し当て、ボンチャイを黙らせようとしたが、ボンチャイは焦点の定まらない目で俺を見ながら、尚も続けた。


「団長・・・団長が正しかった・・・俺達は勇敢に戦うけど・・・逃げる事は知らない・・・でも、それだけじゃ駄目だった」


「カイル、この手ぬぐいも使うんだ」


「ありがとう」


 何とか血を止めようとしているが、出血は止まらず、血だらけになった手ぬぐいを捨てて、アダムスが手渡してきた新しい手ぬぐいを傷口に宛がった。


「ボンチャイ確りしろ!ボンチャイ」


「団長・・・団長・・・」


 最早、ボンチャイの意識は何処か別の所に行ってしまっていた。

 譫言のように俺を呼んだかと思えば、よく分からない言葉で何事かを話しながら、とうとう息絶えてしまった。


「・・・」


「大丈夫かい?」


「何ともない・・・こんな事は今までもあった・・・コレが最後でもない」


「そうか」


 一体ボンチャイは何を見て、何に向かってなんと言っていたのだろうか、家族の事でも気に掛けていたのだろうか、気になることではあるが俺には、そこに立ち入る権利はない。


「おい」


「はい」


「お前達の方法で弔ってやれ」


 そう言って近くにいた青年にボンチャイを託して、俺は立ち上がった。

 そんな俺に誰かが声を掛けてきた。


「もし」


 俺が背後から掛けられた声に応じて、ゆっくりと振り向くと、そこには声を掛けてきた少女とダーマ夫人が立っていた。


「カイル・メディシア殿?」


「・・・何か用ですか?」


 声を掛けてきた彼女の名はフィオナ・ダーマ。

 ケイン伯爵の長女で、年の頃は俺と同じ14のいささか垢抜けない赤毛の少女で、僅に出来た頬のそばかすが可愛らしい。


「これから一体どうするのですか?」


 実に良い質問だ。

 出来れば、その答えも教えて欲しい物だ。

 俺は、フィオナ殿の質問に答えるために、領主代理であるダーマ夫人に訪ねた。


「夫人、よろしいでしょうか」


「何でしょうか」


「これより国と国王陛下の名の下に、この領の領民から徴兵を行います。この事を可能な範囲の領民に説明し、我が兵団の軍事行動の支援を御願いしたい」


「っ!・・・分かりました・・・直ちに行動に取りかからせて頂きます」


 本来、伯爵家の長男とは言え無位の俺と、領主代理となっているダーマ夫人の序列順位は、ダーマ夫人の方が高いのだが、今回は軍事行動のため陸軍の兵団長としての序列が適用されるため、こう言った要請が出来た。

 兵団は必要と認められる状況下にある場合、独自裁量での徴兵を行うことが出来、現地の領主に通知する事でその権限を行使できる。

 また、兵団の国内での軍事行動に関しては、特定条件下において現地領主などに対して協力の要請が行える他、必要に応じて指揮指導する立場に着き、兵団の軍事的目標の達成を最優先に活動することが出来る

 今回の件はまさにその条件に当てはまるため、来る共和国軍の逆襲に備えて、許された範囲での権限を行使した形になる。

 とは言え、十代半ばの若造に命令されるのはダーマ夫人としても、おもしろくないだろうし、何よりも領主である夫と多数の家臣や知人、領民を失って間もないと言う事もあって、夫人の俺達に対する印象は格段に悪くなった事だろう。

 その証拠に、夫人の後ろからフィオナ嬢が鋭い表情で此方を睨んできている。


「・・・では、領民の中から我々の裁量で徴兵を行います」


 何だか居心地の悪くなった俺は、夫人に背を向け、アダムスと共に兵団本隊と合流し、徴兵の件をハンスに伝えた。


「徴兵っすか・・・」


「気が乗らないか・」


「まあ・・・正直言えば・・・だけどまあ、仕事ですからね」


 ハンスも徴兵されてここに来ている事を考えれば、これから自分と似たような境遇に晒される事になる者達が哀れに思えたのだろう。

 それでも、望んだことでは無いとは言え、国に仕える軍人になってしまった以上は仕事は果たす。

 そう言って領都に部下を伴って向かっていった。

 そんなしょぼくれた背中を見送って直ぐの事だった。


「カイル殿!」


 いきなりフィオナ嬢が剣を持って俺の下に怒鳴り込んできた。


「何用か」


 と、俺が簡潔に訪ねると、彼女も簡潔に答えた。


「私も戦列に加えていただきたい!」


 その言葉を聞いた俺の頭には何時ものようにある言葉が浮かんだ。

 どうしてこうなった。

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