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外伝 味方にした時、この世で最も頼もしい男

最近、ご都合主義が過ぎる気がしてきます。

もっと文章力と発想力が欲しいです。

「嘘だろ・・・おい」


 結局、カイルは昨日の内には姿を見せなかった。

 リゼも昨日の昼頃には来るとか言って置いて、昨日どころか、今日になっても、未だに来やしない。

 そして、夜が明けて朝日が昇ったかと思えば、既に敵さんはヤル気満々で準備を整えて居やがった。


「ヤル気満々だな」


 昨日までとは違い、今日の敵の配置は完全に俺達を押し潰すための物だ。

 昨日は兵力を温存するために砲兵も騎兵も後に下げていたが、今日は左翼に砲兵が、右翼に騎兵が居る。

 更に言えば、歩兵隊も銃兵が前に出て、それはもう、見事な整列を見せている。


「で・・・終いにはあの顔ぶれですかい」


 俺がぼやいて眺めた先、敵の戦列の先頭に一頭の馬に乗った男の姿が有る。


「諸君!!昨日の戦いは見事なり!!しかしだ・・・諸君には最早勝ち目など有りはしない!!此方には諸君等を丁重に遇する用意がある!!恐れずして諸手を挙げて我が王に投降せよ!!我が名はアーサー・ペイズリー!!陸軍卿である!!!」


 どう言う訳か、死んだとばかり聞かされていた前陸軍卿が、敵の先頭に立って降伏勧告をしていやがる。


「まさか・・・生きてらしたのですね」


「ええ・・・驚きでさぁ・・・お嬢、アレは本人だと思いますか?」


 と尋ねてみると、応えは間違いないと言うものだった。


「何度かお会いした事が有りますわ。間違いないですわね」


 お嬢のお墨付きを貰った所で、本物の英雄が敵に回ったと言う事が分かっただけだ。


「如何します?手、上げますか?」


「本気で仰っていて?」


「・・・ですよね」


 当然、本気な訳が無い。


「敵の砲は・・・見えるだけでも8門、コッチのよりもよっぽどデカイな」


 序でに言えば騎兵も馬がデカくて、しかも、槍まで持っている始末。


「こりゃぁ・・・昨日までみたいには行かねぇな」


「ミハイル」


 苦笑いでぼやいた俺に、お嬢が話し掛ける。


「何ですか?」


「ペイズリー卿がああ言ったのです。返答をしなければ、無礼になってしまいますわ」


 要するに俺に返事を言えと言う事か。


「分かりましたよ」


 仕方が無く、俺は前に出て言って声を上げた。


「あ~・・・此方はミハイル少将!第一師団長の任に着いている!閣下の申し出は有り難くも、当方にも任務がある!申し出は受け容れられない!以上!!」


 とだけ返して、俺はそそくさと陣に戻った。

 その直後の事、敵方から砲声が轟く。


「返答!あい分かった!!成れば!!貴様ら逆賊の徒を悉く征伐し!!我が王を玉座へとお連れしよう!!全軍前進!!」


 凄まじい歓声と一緒に敵が前進を始めた。


「あ~・・・凄ぇ士気」


 対して此方は今にも崩れ去りそうだ。

 何で死んだはずの人間が生きていて、それが第二王子に着いて攻めてきているのか。


「如何しますの?」


「・・・全軍は待機!」


 この状況で前に出た所で、簡単に蹴散らされるのは目に見えている。

 少し消極的かも知れないが、今日は只管に耐えるしか道がない。


「全軍を塹壕に入れましょう。敵の砲撃を受ければ一溜まりもありませんわ」


 お嬢の言う事も尤もだ。

 正直に言えば、そうしたら完全に主導を渡す事に成る。

 カイルなら切って捨てる様な進言かも知れないが、俺にもそれ以上の案は浮かばない。


「全軍塹壕に入れ!」


 各部隊の後方に着くっておいた塹壕に部隊を隠す。

 取り敢えず、コレで敵の砲撃だけでやられると言う事には成らないだろう。

 だが、それと同時に、此方からは砲撃も何も出来なくなる訳で、敵の砲兵は自由気ままに撃ち放題になる。


「お嬢」


「何かしら?」


「直ぐに掩体に入って下さい。ここに至ってはお嬢がここに居続ける意味は無いです」


 指揮権は俺に移った。

 此方からも攻撃には移らない。

 義勇騎兵も壊滅状態。

 そうなれば、敢えてお嬢が残り続けて危険に晒される意義は極めて少ない。


「お嬢。コレは現場の指揮官としての命令です


「・・・分かりましたわ」


 お嬢は、案外すんなりと聞いてくれた。

 正直言って、この戦いは完全な負け戦だ。

 俺はお嬢が後に下がったのを見てから、レンジャーの居る塹壕に移動する。

 そして、そこでリゼ大尉に話し掛けた。


「リゼ大尉」


「何だ」


 この上官を上官とも思わない態度。

 煮え湯を呑まされた過去もあわせてカチンと来るものが有るが今は我慢だ。


「レンジャーは今すぐに撤退して貰いたい」


「!!」


 周囲のレンジャーが振り向いて驚きを隠せないでいる様子だ。

 連中の間抜け面を見れて若干溜飲が下がる思いだ。


「お嬢を連れて王都まで撤退してくれ」


「・・・何故だ?」


「現状を見れば分かるだろ」


 この戦いは勝ち目が無い。

 となれば、俺は何としてもお嬢を無事に逃がさなければ成らない。


「俺は・・・俺は、お嬢に恩がある。お嬢には生きていて貰わなけりゃいけねぇんだ」


「それで我々を・・・か?」


「ああ・・・お前らと一緒に逃がすのが一番可能性が高い」


 俺は、お嬢さえ生きていればそれで良い。

 国がどうとか、そう言うのは、もう、どうでも良い。


「コレは俺からの命令だ。レンジャーは今すぐにお嬢を連れて王都まで撤退しろ」


 一世一代の覚悟を込めてレンジャー共に向かって言うと、少し間を置いた後に全員が笑い出した。


「お前は・・・馬鹿だな」


「何?」


「悪いが、我らレンジャーはお前の命令には従えない」


「俺の方が上官だぞ!」


「その程度で着いてくると思ったら大違いだ。それに、我々も命令を受けている」


「ああ?」


「我々はカイル・メディシア大佐から死守を命じられている。我々が生きているなら命令も未だ継続中、命令を無視して撤退する事は出来ん」


 そう言うと、レンジャー達はライフルを構えて敵に向けた。


「お前が如何思っているのかは知らないが、我々はそんな事は知った事では無い。それにだ・・・」


 リゼ大尉はライフルを撃って、弾を込めながら言葉を続ける。


「カイル団長は来る。必ず来る」


「・・・」


 カイルへの絶対的な忠誠、何の根拠も無く、絶望的な状況でも些かも揺らぐ事の無い信頼。

 奴等は味方が来ると言う事、その先にある勝利を微塵も疑わなかった。


「私はあの女が嫌いだ」


 リゼが射撃を続けながら言いだした。


「恵まれた状況にありながら、それを放棄して、そして、今頃になって勝手な事を言う、あの女が憎くて仕方が無い」


「・・・」


「だが、それでもここまでやって来て、死の危険も悠々と冒す。その上で正々堂々とカイルを巡る戦いを挑んで来る。だからこそ、あの女は本気なのだと私も確信した」


「それは・・・そうだな」


「お前の思いは分かった。だがその上で、あの女の思いの方が強い。あの女の覚悟の方が重い。私は、一人の女として、あの女を尊敬し畏れている。だから、如何有ってもお前の命令に従う事は出来ない」


「敵わんな」


 圧倒されて口にすると、リゼは俺の方に向いて笑いながら言う。


「当たり前だ。何せ、私達はずっと戦争をしているのだ。この戦いよりも遥かに凄惨、激しい戦いをしてきたのだ。男共なんぞには想像も付かない戦いをな」


 本当に敵わない。


「ホント・・・なんであの野郎ばかりがモテるんだか」


 あんな、デブで不細工で目付きが悪くて、経歴も評判も最悪で性格の悪いクソ野郎がなんでこんなにいい女に囲まれてんのか。


「・・・ああ、畜生。こんなんだったら、もっと格好良く行きゃぁ良かった」


「それが、お前とカイルの違いだ」


 もう、敵軍は随分と近づいている。

 今更、部隊を進めたところで間に合うわけも無い。


「ッチ・・・ああ、ホント・・・付いてねぇな」


 本当に付いてない。

 その場にへたり込んで顔を上げた時、不意に聞こえてしまった。


「格好良いな・・・畜生」


 太鼓の音が聞こえる。

 銃声と砲声と叫び声と足音に混じって、僅かながらも太鼓と笛の音が聞こえる。


「あの野郎に全部掻っ攫われちまった」


 次第に多くなるその音に、遂には他の連中も気付いた事だろう。

 周りのレンジャーも銃撃を止めて、敵の砲兵も手を止めて、それどころか敵軍すらも足を止めた。

 それもその筈だ。

 アイツが来たのだから、脚を止めて当たり前だ。

 敵の命を全て刈り取る戦場の覇者が来たんだ。

 敵の軍隊がどれだけ鍛えられているのかは知らないが、それでも、アイツの兵士達には敵わない。

 百戦錬磨の強者揃いのレッドコートが高らかなラッパの音と共に歩いてきた。


「来たか・・・遂に来たか!」


 リゼが歓喜の声を上げた。

 一つに纏められた髪の毛先が、犬の尻尾の様に揺れて見える。

 グリムとか言ったライカンも全身の毛を逆立てて口許をニヤけさせている。

 レンジャー達の顔が喜びを色濃く写している。

 そして、俺が立ち上がって外を見た時、風にはためく真紅の軍旗が眼に映る。


「鎮まれ!!皆鎮まれ!!畏れるな!!決して畏れるな!!」


 ペイズリー陸軍卿の叫ぶ声が聞こえる。

 どうやら、敵軍の方はカイルの軍旗が見えただけで動揺が広がっているらしい。

 俺が同じ立場だったら、確かに恐ろしい。

 数ある伝説の全てが事実だとは限らない。

 だが、あの男が実在するのと、あの男が戦場と言う場所でやって来た事は紛れもない事実なのだから、ただのそんじょそこらの伝説風情よりも遥かに恐ろしい。


「貴様ら!!着いたぞ!!私が着いたぞ!!戦争卿の到着だ!!」


 砲声よりも恐ろしく、嘶きよりも猛々しく、ラッパよりも高らかに、奴の声が戦場に轟いた。


「ありゃ・・・ホント、格好いい」

次回の話しが分かり切っていて申し訳ない。


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