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外伝 続ラッカーンの戦い

 第五連隊は歩き出した。

 既に大隊長を失った第三大隊も、何の問題も無い風にして進む。


「連隊はそのまま前進して下さいませ」


 お嬢の言葉は伝令を通じて連隊に伝えられる。


「大丈夫ですわね?」


 心配そうにお嬢に聞かれる。


「大丈夫です。彼奴らは・・・第五連隊は精鋭です」


 そんなお嬢に、俺は敵の方を見たままで答えた。

 第五連隊は師団内で最も練度が高い部隊となっている。

 カイルの兵達に比べれば、やはり見劣りはするだろうが、それでも、簡単には退いたりしないだろう。


「砲兵中隊は撃ち続けろ!!部隊の前進を援護するんだ!!」


 恐らく、敵の砲撃は残された第六連隊とこの師団本部に集中することだろう。


「お嬢」


「何でしょうか?」


「お嬢は村の後方に設営した陣地に移動して下さい」


 村には幾つかの塹壕を掘っているが、その中でも東側の一番後方に掩体壕を設営してある。

 この掩体壕は深さは凡そ2m程で、砲撃に耐えられる様に盛土と木製の盾に寄って護られている。

 お嬢にはそこに移って貰って安全を確保したかった。


「お嬢。後の事は・・・」


「侮らないで下さいませ。ミハイル」


 俺の言葉を遮るようにお嬢が言う。


「わたくしはとっくに覚悟など出来ていますわ」


「・・・」


「今、ここでわたくしが下がってしまえば、わたくしは卑怯者になってしまいます。それは、貴族として・・・義務を持つ者として、酷い屈辱ですわ」


 そう言って、お嬢は俺を睨んだ。


「貴方の主人であるわたくしは、そんな臆病者でして?」


「・・・」


 更に尋ねる様な言葉を投げ掛けられて、俺は何も言えなくなった。

 そして、俺は頭を下げる。


「申し訳ありません。お嬢」


「・・・分かればよろしい」


 再度、村の周囲に敵の砲弾が降って落ちた。


「怯むな!!撃ち返せ!!」


 俺の叫び声の後、今度は此方の野砲が咆哮を上げる。


「着弾!!命中した!!」


 放った六つの砲弾は、300mにまで近付いていた敵戦列に命中する。

 砲弾の当たった場所では、土煙と共に泥と肉片が舞い上がって散らばり、その中から悲鳴が響いて聞こえた。


「だが・・・コレでも足りない」


 敵の兵力は強大だ。

 一発の砲撃で倒せる敵兵は、どんなに多くても10人が良い所。

 この程度のダメージでは、敵は退かないだろう。


「・・・砲兵中隊!」


 俺は砲兵中隊に向かって命じる。


「第五連隊を援護!!第五連隊の正面、敵左翼に火力を集中しろ!!」


 此方の砲火力は脆弱だ。

 立った6門の軽砲では到底、敵の全体に火力を行き渡らせる事は出来ない。

 ならば、ここは先の戦況に賭けて、火力を一箇所に集中するしか無い。

 それに、もう少し近づければ、貴族様の魔法中隊の射程に入る。

 魔法の瞬間火力は砲に比べて非常に強力だが、その分、射程や持続火力で劣る。

 使いどころが難しいが、魔法中隊の支援があれば左翼も持ち堪えるだろう。


「距離250!」


 敵との距離が更に詰まる。


「もうそろそろ、軽装歩兵の射程に入ります」


 軽装歩兵の射程は200前後。

 その距離で確実に中てるというのは、まだまだ難しい事ではあるが、最低限、狙って撃って届く距離ではある。


「距離200mから軽装歩兵と魔法中隊は攻撃を開始して下さいませ」


 お嬢は最左翼の両部隊に伝令を送った。

 その直後、観測が慌てた様に声を上げる。


「師団長!義勇騎兵が!!」


「っ!」


 左翼を見た。

 義勇騎兵大隊の居るはずの場所に眼を向けた。

 しかし、そこに部隊の姿は無く、今や、義勇騎兵大隊の貴族様方は命令を無視して勝手に敵に向かって走り出していた。


「命令違反だお嬢!!」


 しかし、時はもう遅い。

 今から伝令を送った所で間に合わない。


「・・・っ!」


 俺達には結果を見守る事しか出来ない。

 お嬢は目を瞑って祈りを込める。

 せめて、彼奴らの突撃が成功すれば、そう思わずにはいられないが、思うと同時に不可能だとも分かり切っていた。


「っ!クソッが!!」


 銃声が響く。

 疎らながらも、騎兵の突撃が戦列に食い込む直前で敵の銃火が瞬いた。

 銃口から噴き出す弾丸が、壁の様になって騎兵隊へと襲い掛かり、中った瞬間に貴族様方を馬諸共にズタ布に作り替えた。


「・・・!」


 お嬢が息を呑むのが分かる。

 見ればお嬢の顔色は青く、筋肉が引き攣って硬直している。


「・・・」


 逡巡して、俺は声を張り上げた。


「第二連隊に伝達!直ちに騎兵大隊を救出せよ。次いで、独立魔法中隊へ、直ちに敵右翼部隊へ攻撃を開始。前進して友軍を援助せよ。だ」


「・・・了解」


 伝令は一度お嬢を見た後に、返事をして走り出した。


「ミハイル・・・」


「第五連隊は攻撃前進!!敵の戦力を左翼に引きつけろ!!」


 コレは越権行為だ。

 現場における指揮権の最上位はお嬢にあり、俺はお嬢の指揮下にある第一師団長である。

 俺の仕事はお嬢の命令を聞いて、それを師団の指揮下部隊に伝達する事だ。

 今の俺は、その上位の命令を待たずに独断で判断を下して指揮をしている。


「砲兵中隊は火力を敵右翼へ指向!全力で部隊を援護だ!!」


「了解!!」


 今度は砲兵中隊に目標の変更を命じた。

 その命の少し後から軽装歩兵が前進して射撃を開始する。

 第二連隊も前進速度を速めて騎兵の救出に動き、当の騎兵大隊は、無事な者から順に後退を始めている。


「敵左翼部隊が!!」


 今度は左翼だ。


 敵の左翼部隊が停止して射撃態勢を取る。


「・・・右翼の騎兵大隊に伝達。敵左翼部隊に突撃」


 俺は五連隊に賭けた。

 行進の早い五連隊はもう少しで敵との交戦距離に入る。

 五連隊の射撃後に騎兵大隊による突撃が成功すれば、敵に大打撃を与えれる。


「左翼魔法中隊が攻撃を開始!!」


 ここで嬉しい報告が上がる。

 魔法中隊の強力な火力が敵の右翼部隊を強烈に打ち据えて、独立騎兵の撤退に弾みが付く。

 だが、敵軍は更に右翼に兵力を集中してきた。

 先頭は、図らずも両軍右翼による攻撃の応酬になり、この先は、どちらが先に敵の左翼を打ち破るかに掛かる。


「第五連隊が射程に入ります!!」


 直後に敵の方が先に火を吹いた。

 敵左翼部隊の斉射が近づく五連隊を襲うが、距離がまだ離れていたためにそれ程は被害は出ていない。


「五連隊が射撃します!!」


 自然と拳を握り込む。

 爪が掌に食い込みそうなほどに力強く握り、緊張で喉が渇いている。


「撃てっ!!!」


 五連隊の号令はここまで聞こえてきた。

 やはり練度は五連隊は流石に高い。

 最初前後二列による二度に別れた斉射の後、連隊は各自射撃に入る。


「砲兵中隊は火力を正面に指向!!」


 再び砲兵中隊の射撃目標を変更させた。

 この後右翼部隊は敵に対して接近して戦闘する事になる。

 そうなった場合、砲兵隊の砲撃は反って邪魔になる可能性がある。

 また、現在両軍共に中央は殆ど動きが無く、俺としては、敵中央の前進と平押しで潰されるのは困るのだ。


「敵の左翼が崩れます!!」


 敵左翼部隊は早々に崩れ始めた。

 集中した砲撃とレンジャーによる射撃が高価を上げたのか、五連隊との撃ち合いが始まるなりに、士気崩壊をはじめて、既に隊伍を崩し始めている。

 そこへ第一騎兵大隊が突入する。

 軽量の馬に鎧を着ない軽装で、武器はサーベルを使う。

 如何に軽装軽量の騎兵とは言え、騎兵である事に違いは無く、一度走り出して敵陣に斬り込めば、多大な戦果が期待できる。


「っ!!」


 第一騎兵大隊の突入の直前、最期の抵抗とばかりに敵のパイク兵が後から飛び出して槍衾を作る。

 このまま突っ込めば、騎兵大隊の突撃は失敗は必至、そうなれば取り残された騎兵が邪魔になって五連隊の射撃を妨げることになる。

 一瞬、失敗かと思った俺は、目を背けたくなるが、五連隊が動く。

 五連隊は敵の槍衾に対して、果敢にも着剣をして突撃を敢行した。


「第六連隊へ、第二大隊を右翼へ移動。第五連隊を支援させろ」


「了解」


 兵力的に劣る右翼側に一個大隊を送って補強する。

 今から送った所で直ぐに攻撃に参加できる訳では無いにしても、この後の先頭を考えれば後に部隊を詰めておく必要は有る。


「第五連隊が食い破ったぞ!!」


「良し!!」


 思わず声を上げてしまう。

 第五連隊はパイク兵に対して不利な近接戦を挑みながら、その槍衾を食い破って連結を瓦解させる。

 そこへ、タイミング良く騎兵大隊が突入した。


「突撃成功だ!!」


 観測の声が上がると、付近から歓声が上がった。

 この五連隊と騎兵の突撃によって右翼は完全な乱戦に突入する。

 騎兵突撃を受けた敵は前線部隊が崩壊して潰走を始め、その後の白兵戦においても、五連隊と騎兵大隊の共闘で圧倒する。


「左翼はどうだ」


 右翼で敵軍を圧倒する最中、左翼でも突撃に失敗した独立騎兵は既に下がり、第二連隊が戦線を構築して敵部隊との持久戦に突入している。

 左翼は魔法中隊と軽装歩兵を巧みに使って前進する敵部隊を押し止め、優勢に戦闘を進める。

 現場、戦況は此方が有利だった。


「ミハイル」


 唐突にお嬢が話し掛けてくる。


「お嬢。もう大丈夫なんで?」


「御迷惑を掛けましたわね」


「では、指揮権を返還・・・」


「その必要は有りませんわ」


 俺がお嬢に指揮権の返還を申し出ると、お嬢はその必要は無いと言って、戦場の方を向いた。


「このまま指揮を執りなさい」


「・・・かしこまりです」


 俺は胸を張って改めて指揮を執る。


「左翼第二連隊に通達!更に前進して敵を圧迫!!」


「了解」


 左翼に向けて伝令を飛ばす。

 このまま右翼を中心に敵を押せば敵を撃退できるはずだ。

 その為にも敵の右翼部隊を縫い付けて、予備兵力の動きを制限しなければいけない。


「ミハイル!!」


 このまま行けばと、そう思った矢先に、リゼがやって来た。


「何のようだ」


「敵に動きだ!敵の後方が騒がしいぞ!」


 言われて、俺は目を凝らした。

 だが、距離がある上に煙が漂っている中では良く見えない。


「如何動いている?」


「敵の銃兵が敵左翼に集結しつつある。このままでは左翼が崩れるぞ」


 言っていることが本当なら、かなり拙い。

 兵力は圧倒的に相手の方が多いのだから、少しでもバランスが崩れれば簡単に巻き返される。


「っ!」


 如何すれば良いのか、俺は頭を必死に巡らせる。


「・・・砲兵中隊砲撃止め!!」


「ミハイル?」


「誰か!独立騎兵に伝令だ!直ちに右翼の救援に行けと伝えろ!!」


 俺が考えついたのは、再集結した独立騎兵大隊による敵左翼の強襲だ。

 戦場のど真ん中を突っ切って行って、敵左翼に攻撃を掛ければ、左翼の崩壊は更に進む。

 そうすれば右翼部隊で押し進んで敵全体を崩壊させられるだろう。


「私が行く!」


 伝令が出る前に、何とリゼが馬を奪って走ってしまった。


「わたくしも行きますわよ」


 更に、お嬢までもが馬に乗って左翼へと走る。


「・・・」


 止める間もないく、女傑二人が走り出す。

 本当に、アイツには勿体ない程いい女達だと思う。

 が、あの二人に狙われるというのも御免被りたい物だ。

 程なくして、左翼の独立騎兵大隊が戦場のど真ん中を突っ切って行く。

 この独立騎兵の突撃が戦いを決した。

 敵の左翼後方に深く斬り込んだ独立騎兵大隊は、そのまま備えていた敵の予備兵力を蹴散らし、更に進んできた第五連隊と共闘して戦果を拡大していく。

 そして、程々の所で五連隊諸共に後方へと下がった。


「・・・今日はコレまでかな」


 その後、左翼を完全に食い荒らされた敵軍は右翼での攻撃も散発的になり、夕暮れ前には後退した。

 コレを持って、ラッカーンの戦いの第一日は終わりをむかえた。

最後らへんが適当に成った気がしないでもないです。

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