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外伝 人の雌はげに恐ろしきかby二代目ライカン隊長

運営様からの通告により、102部分と138部分を改訂致しました。

エッチなのはいけないと思いますとの事です

「・・・」


 何だか途轍もなく恥ずかしい様な、嬉しい様な奇妙な夢を見た気がした。

 寝覚めの気分は悪くない。

 それどころか、ここ最近で一番気分が良いかも知れない。


「よく寝れたか?」


「軍曹か・・・今は何時だ?」


 目が覚めた私にグリム軍曹が声を掛けてくる。

 私は目を擦りながら時間を聞いた。


「もうすぐ夜明だ」


 軍曹の応えを聞いて、私は東の空を眺めた。


「・・・」


 遠くの方に見える山の稜線が白んでいる。


「大尉」


「伍長か」


 背後からモケイネス伍長が声を掛けてきた。


「どうぞ」


 伍長は私にカップを手渡してくる。


「コレは?」


「朝食です」


 受け取ったカップの中には、湯気を立てているスープが注がれている。

 赤いスープの中には芋や玉葱、腸詰め肉等と、大量の豆が入っている。


「コレもどうぞ」


 更にモケイネス伍長はパンを差し出す。


「全員に配られている物です」


「そうか」


 拳二つ分ほどの大きさのパンは、割ってみれば、見た事が無いほど白い。


「!」


「国庫の備蓄を放出した物です。白パンですよ」


 何とも豪勢な事だ。

 もう二度と食べる事は出来ないで有ろう真っ白なパンを、私は一口齧る。

 触った時点で分かっていたのだが、今まで食べてきた中でも一番柔らかい食感で、力を入れなくとも簡単に千切れていく。


「美味いな」


「でしょう?自分もさっき食いましたが・・・涙が出るかと思いましたよ」


「ああ・・・そうだな」


「・・・俺は硬い方が良い」


 今度は温かいスープを啜る。

 仄かな酸味と甘みの他に、確りとした塩味を感じ、その後で僅かにピリリと辛味が来る。


「コレは・・・!」


「胡椒ですよ」


 胡椒だと聞いて驚いた。

 はじめて口にしたが、この辛味と刺激は大変に気に入った。


「良くも、胡椒など・・・」


 胡椒は非常に高価だ。

 拳一つ分程の量でも小さな家が建つ程の高級品だ。

 貴族でも早々手が出せる物では無い。


「コレは一体・・・」


「ホークス様です」


 そう聞いた瞬間、手に持っているカップを投げ棄てたい気持ちが、一瞬だけ顔を出した。


「・・・あの」


「はい、リリアナ・ホークス様です」


「・・・大尉」


「大丈夫だ。分別は付いている」


 今は個人的な恨み辛みなど気にしている場合では無い。


「・・・命を助けられたばかりか、この様な施しまで受けるとはな」


 私はあの女が嫌いだ。

 その嫌いな女に命を救われてしまった。


「援軍は来ているのか?」


「まだです」







 あの最後の玉砕の時、私達は突如として現れたリリアナ・ホークスと率いる騎兵によって救われた。

 完全な形の奇襲を受けた敵軍は混乱状態に陥り、その間に私達は戦場を離脱する事が出来た。

 一度は投棄した物資を再度回収しに戻ってみると、驚く事にその場には馬も留まったままで、恰も私達の帰りを待っているかの様だった。

 流石に鞍を着ける時間は惜しく、私達は急いで裸の馬に跨がって走り出し、それから暫くして撤退中だったリリアナ・ホークスの一隊に合流した。

 合流後はリリアナ・ホークスの行動に従って後退し、第一師団の下に来た。

 そして、疲労の困憊していた私は、馬を預けてそこら辺の塹壕に入るなり気絶するように眠りに着いた。


「情け無い」


「そんな事は無かろう」


 思わず口を吐いた言葉に、グリムが反応する。


「お前は良く俺達を率いてくれた。三日も戦い抜いた。カイルも誉めてくれるだろう」


「・・・大佐か」


 今、何処で如何している事だろうか。


「大尉」


 私の食べ終わりの食器を持って下がっていたモケイネスが戻ってきた。


「どうぞ、ライフルです。その銃は、もう弾がないでしょう?」


 私は渡されたライフルを受け取った。

 同時に弾薬も受け取って弾を込める。


「カイル団長達の方ですが、どうやらスミス大佐達が合流したようです」


「スミス大佐?中佐では無いのか?」


「昇格されたそうです」


 モケイネスによると、つい最近、スミス中佐は大佐に昇格して更に、兵団の残りの部隊を率いてカイル大佐の方へと合流したそうだ。


「間違いないのか?」


「レンジャーの一人が伝令でコッチに来まして。ちょっと話を聞いたんです」


「そうか」


 カイル大佐の下に部隊が集結したのならば、最早、それほど時間も掛からずに彼方の戦闘は終息するだろう。

 あの部隊の機動力を考えれば今日の昼頃にはコッチに来てくれるはずだ。


「第一師団の兵力はどの程度だ」


 コレにもモケイネスが答える。

 第一師団は先の戦闘によって第十一連隊が壊滅したため、歩兵連隊を一つ失ってしまっていた。

 しかし、その後は防衛線の構築作業に従事しつつ、細かいながらも義勇兵や志願兵を受け付けた為に一万程度には勢力を回復している。

 特に、リリアナ・ホークスの連れてきた貴族達で構成された義勇騎兵隊は、現在では師団の最大戦力となっている。


「歩兵連隊三つ、軽装歩兵大隊一つと騎兵大隊二つ、それと砲兵一個中隊か」


 敵は未だ二万五千を数える兵力を有し、ここまでの攻撃で主力に打撃を与えられたと言う確実な根拠も無い。

 我が方の兵は士気は低く、重火力にも差が有る。

 防衛陣地の構築を差し引いたとしても、間違いなく厳しい戦いになる。


「大佐が来るまで持ち堪えれば・・・」


「それでも厳しい事に変わりは有りませんね」


 兵団本隊の合流を待っても一万近い兵数の差が有る。

 装備に差が有るのならば充分に対応できるかも知れないが、今回の敵は銃器で武装しており、如何に精兵と言えども苦戦は必死。

 特に、戦闘による損失の拡大は無視できないだろう。


「もし」


 無駄に頭を悩ませていると、頭上から呼び掛けられた。


「・・・貴女ですか」


「よろしいかしら?」


 リリアナ・ホークスその人が立っていた。

 彼女は、一言断ってから壕の中に降りてきて私に向きあう。


「何か御用ですか?お嬢様」


「・・・」


 リリアナ・ホークスは私の言葉に応えず、しかし、強い意志を持って私の眼を見詰めた。


「・・・」


「・・・」


 暫らく二人見つめ合った末に、とうとう彼女が口を開く。


「率直にお訊き致します」


「何でしょう」


「カイル様はいらっしゃるのでしょうか?」


「はあ?」


「あの方は間違いなくここにお出でになって、助けて下さるのかと聞いているのです」


 何を言うのかと思えば、随分と馬鹿げた事を口にする。

 私は自信を持って質問に答える。


「大佐は間違いなく来ます。そして、間違いなく勝ちます」


「そうですか・・・」


 私の返事を聞くと、リリアナ・ホークスは少し思案して、それから再度口を開く。


「ではリゼ大尉」


「何でしょう」


「もう一つお尋ねします」


「はあ」


 一合い今度は何を口にするのか、ややゲンナリして応じる。


「カイル様の事、諦めるつもりは御座いませんか?」


「は?」


「カイル様の事を諦めて、わたくしに譲るつもりは御座いませんか?今なら妾くらいなら許しますが?」


 この女は何を言っているのか。

 一瞬で私の思考に熱い炎が点された。


「余り巫山戯た事を言っていると、そのお顔にぶち込みますよ」


「諦めるつもりは無い・・・と?」


「愚問ですね」


 こんな女にカイルを任せる事等、出来はしない。

 私は強い意志を込めて睨み付けた。

 そんな私の内心を知ってか知らずか、リリアナ・ホークスは一つ息を吐いて、私を真っ直ぐに見る。


「では・・・わたくしをここで殺しますか?」


「・・・」


 予期せぬ事を聞かれた。

 面食らう私を他所に、彼女は尚も言葉を続ける。


「貴女がわたくしがカイル様にとって害になるとお思いになるのなら、今の内にわたくしを亡き者にすればよろしいのでは御座いませんか?」


「・・・」


 間違いない。

 彼女は今、死を覚悟して私の眼を見ている。

 本当に本心から思った事を口にしている。

 そんな彼女に、私も本心で応える。


「殺しません」


「・・・」


「今は忠実に任務に集中する時です。カイル大佐からは王都の死守を命ぜられました。ならば、その任務遂行のために全力を尽くすのみです。そして、貴女は現状で任務遂行に必要不可欠です」


「任務のためにわたくしを殺さないと?」


「はい」


 偽らざる本心をぶつけて、彼女の眼を睨んだ。


「では・・・今は喧嘩をしている場合では御座いませんわね」


「ええ」


「それなら、今の所は協力しましょう。過去の事も、この先の事も、全て棚上げして協力いたしましょう」


「・・・ええ、貴女がそう言うのであれば

今だけは協力しましょう」


 未だ彼女、リリアナ・ホークスの事は気に入らない。

 アレだけの事をしておいて、あんな事を言っておいて、それで尚、今更になってカイルを愛する等とほざいている。

 その事については本当に許せないと思っている。

 だが、同時に、私は彼女に命を救われて、そして、この後の事の為には彼女の存在が必要である。

 ならば、今だけは彼女の提案に乗る他無い。


「リゼ大尉以下レンジャー中隊は貴女の指揮下に入ります」


 私は、彼女に向けて敬礼をして指揮下に入る事を宣言する。

 その後に続いて、背後のグリム軍曹とモケイネス伍長も敬礼をする。


「今だけは信じましょう」


「感謝しますわ。リゼ大尉」


「リゼで良いです」


「では、わたくしもリリアナとお呼び下さいませ」


 そして、私はリリアナと握手を交わした。







「軍曹」


「何だモケイネス」


「何か・・・あの二人って似てないですか?」


「胸と尻はホークス嬢の方が大きいが?」


「いえ・・・素直じゃ無い所とか、不器用なところとか」


「・・・確かにな」


「後・・・」


「?」


「怖いところとか・・・」


「ああ・・・そこはそうだな」

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