百十六話 カッとなってやった。
恐らく一番短いかと
自分で言うのも何だが、俺は相当頭にきていたのだと思う。
「今回は、またいきなりだったね」
「・・・まあな」
レストランを飛び出した俺は、その脚で兵舎に向かうと、そこで寝ていた連中を叩き起こし、偶々居合わせたエストを連れ出して、夜の闇の中を進んだ。
多分、今の俺は冷静では無い。
普通ならこんな事は考えもしない。
「夜襲か・・・あの時もそうだった・・・胸が高鳴るね」
隣のエストは随分と昂揚している。
「何かあったのかい?」
「・・・」
俺が連れ出してきたのは、凡そ500ばかりの経験豊富な連中で、俺が叩き起こすと嬉々として着いてくるような頭の可笑しい奴等だ。
実に頼もしい。
「敵の位置は分かっているんだろうね」
「レンジャーの偵察の結果だが、敵は王都から8km南の位置で集結しつつある。ソレナ川の方でも動きある」
「・・・敵が攻勢に出ると?」
「恐らくな」
ソレナ川以西の両軍の戦力はほぼ拮抗状態にあり、王都という堅牢な要塞に立てこもる此方が圧倒的に有利だ。
だが、友軍による支援の目途が立っていない以上、長期の籠城は寧ろ敵に主導を明け渡して、完全に包囲される事を許してしまう事に繋がる。
「今の内に敵を叩いておけば、ある程度有利に進む」
「じゃあ、その南の敵を今夜やるって事かい?」
「そう言うことだ」
おりしも今夜は新月で、しかもお誂え向きに天気が悪くなって雲が厚くなってきた。
「所で、新兵器とやらを勝手に持ってきてしまったけど・・・良かったのかい?」
「大丈夫だ」
二年前の俺が左遷される前から、ソロモンとダスルには爆薬の研究を進めさせていた。
帝国での戦いの際に使用し、共和国でもカラビエリで使ってみたが、やはり爆薬は上手く使えば非常に強力で頼もしい。
だが、爆薬は保管が難しく扱いに際しては慎重に扱わなければ危険が伴う。
だから、俺はソロモンに量産性と安全性の向上を命じて国を離れたが、彼は見事にやってのけてくれた。
「・・・ソロモンは正に擲弾兵の生みの親だな」
「擲弾兵?」
体格に優れ経験豊富な精鋭の歩兵である擲弾兵は、重く大きな擲弾を投擲する為に力のある兵士で構成され、その優れた体格と物怖じしない勇敢さ故に白兵戦においても無類の強さを発揮する。
今回、俺が連れてきた連中も、出来る限り体格の良い奴を選んで連れてきており、こんな無茶苦茶にも喜んで参加するのだから、勇敢と言うか、蛮勇と言う意味では全く問題は無い。
「擲弾大隊はお前に任せたぞエスト」
エストには支隊に編入後も特に部隊を任せてはいなかった。
再三にわたって自分に第一大隊を任せろと言ってきても突っぱねてきたが、俺は最初からエストには新設する部隊を任せるつもりだったのだが、本当はもっとじっくりと部隊を編制して訓練を施すつもりだった。
しかし、つい頭に血が上って勢いのままに連れ出してこの場で部隊長に任命する事になった。
「君は相変わらず無茶な人だね」
「・・・最近自覚してきた」
笑いながら言うエストの言葉は耳に痛く、声が小さくなる。
「良いよ。確りと勤めは果たすよ」
「助かる」
如何してこうなったか、エストと始めて会った時は、こうなるとは思いもよらなかった。
そう思いながら、俺はエストと彼の大隊と共に南へと夜の闇を進んだ。
追伸、新作を投稿開始しました。
フラグですかね。




