百十話 静かに進む戦い
短いです
ハサウェイ到着から四日、俺はこの間にハサウェイ北部に展開している敵戦力の殲滅の為に行動を続けていた。
敵の主力は、やはり傭兵等が中心で、当初の予想を大幅に下回る敵の能力に此方は極々軽微な被害を受けるだけで連戦連勝を重ねた。
だが、連勝は重ねても騎兵を持たないために追撃戦での敵への被害が限定され、如何しても決定打を打つ事は出来ていない。
戦列歩兵と言うのは、密集した横隊を組むために非常に高い火力と制圧能力、防護能力を持っているが、如何しても機動力には限界がある。
本来は歩兵の攻撃で敵を圧倒し、その上で敵を潰走させた所で騎兵を投入して敵を殲滅するのだが、それが出来ていない今は決定的な一撃を敵に与える事が出来なかった。
そこで、俺はチマチマと敵の部隊を叩くのを止めて、大本を叩き潰す事にした。
攻撃目標はバンド。
敵の捕虜から聞き出した情報によれば、領主のマルティン・ホーザー子爵は領都にて今回の作戦の指揮を執っているとの事だ。
このバンドが三領連合軍の集結地点兼本拠地であるらしく、ここを攻撃すれば敵は直ちに救援に来る。
防衛戦になれば敵も簡単には退却するわけには行かず、敵に大打撃を与える事が出来る筈だ。
「考えついて直ぐに行動を初めて、それで直ぐに来れる所も貴方と、この部隊の恐ろしさの一つですね」
ソロモンの言う通り、俺がこの作戦を思い付いたのが昨日の事で、直ぐに行動を開始した結果、昨日の夜にはバンド領に侵入しており、少し休んで夜明間近には領都から2kmの地点まで接近していた。
流石にこの距離にまで近づけば敵も此方に気付いた様で、目標の領都は俄に騒がしくなっている。
「まあ、今から備えたところで無駄だろうがな」
「・・・でしょうね」
バンドの領都は然程強固な防衛設備は備えられておらず、精々背の低い城壁で囲まれている程度だ。
門は木製の観音開きで掘りなども無く、規模も大きいものでは無い。
攻城戦は得意という訳では無いが、この程度ならば落とすのに苦労は無いだろう。
「目標は敵の主力をおびき出す事だ。余り張り切りすぎて落とすなよ」
俺が言うと、ソロモンが言い返してくる。
「それは貴方が一番やりそうな事です」
何時も思うが、皆、俺の事を狂人かなんかだと思っているのだろうか。
「・・・まあ、取り敢えず一当てしてみるか」
そう言って、俺は支隊に前進を指示した。
500m手前までは2列の縦隊で行進し、その後、戦闘隊形に開いて領都の西から攻撃する態勢を取った。
「前進開始」
通常、攻城戦における基本は攻城兵器を用いる事で、本来は砲兵や工兵が活躍するのだが、生憎とそのどちらも今はおらず、歩兵だけで要塞や城を攻撃するのはひたすらに突撃するしか方法が無く。
また、その突撃戦術も非常に効果が薄い。
普通に考えれば、この攻撃が成功するとは考えにくいのだが、俺に従う支隊は恐るべき力を発揮してくれた。
「城壁からの攻撃に注意しろ!胸壁は薄いから十分に撃ち抜けるぞ!」
城壁の上に配置された敵からの攻撃に対して、此方も小銃で応射するが、古くチャチな作りの胸壁は此方の銃撃を防ぐ事は出来なかった。
コレが弓矢程度ならば十分だったのだろうが、銃器の攻撃を防ぐには陳腐すぎたのだ。
「こりゃ・・・半日も掛からないか?」
ここに来て予想外の敵の弱さに、逆に心配になってきた俺の予想は見事に的中してしまった。
攻撃開始から僅か2時間で西側の門を制圧してしまい、第一大隊が街の中へと侵入してしまった。
「落としちゃいましたよ?」
「落としちまったな」
もう少し粘るかと思ったのだが、結局、何の危なげも無く街を攻め落としてしまい、俺の作戦は最初の一段階目から破綻してしまった。
「如何すっかな」
敵にこの街の防衛の意義が無くなってしまった以上、ここに固執して居座り続けるのも無駄でしか無く、とは言え、折角落としたこの街をさっさと敵に送り返すのも気に触る。
「焼くか」
結局、敵に再利用されたり無傷で返すのが嫌だった俺は、街に火を掛けて別の攻撃地点へと移動する事にした。
流石に本拠地の領内で暴れ回れば、敵の方から俺達を倒しに来るだろうと言う、ソロモンの案を採用して、この後、周辺の街や村を破壊して回り、二日経った頃に敵に捕捉された。
この戦いでも俺と支隊は終始圧倒して敵を撃破し、戦いが終わった頃に伝令が届いた。
伝令に依れば、ハンスと部隊が到着し、ゴール軍も直ぐ側まで迫っていると言う事で、俺はバンドでの戦闘を中断してハサウェイに戻り、ハンス達と合流した。
支隊は二個大隊の編制に新たに、ハンスの指揮する新生第二大隊を加え、更にリゼ大尉のレンジャー中隊とエド中尉の輜重隊も部隊に加わり、総兵力を2800にまで増強、コレを持って俺はリースモア、フィルガリスへの攻撃に乗り出す事にした。
本当に短かったです。
次回はもう少し長くなる筈です。




