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時間は少し遡り、事件解決の翌日。

新藤は哲也によって病院送りにされた乱条の見舞いにやってきていた。乱条の病室からは海が見え、哲也が大暴れした、あの波止場も見えた。


「なるほどなぁ」と新藤は一人呟く。


「何がなるほどなんだよ」


頭に包帯を巻いた乱条は、なかなか痛々しい姿であるが、どうも不機嫌らしく凄まじい殺気を放っている。今からマフィアの隠れ家に独りで乗り込んでも全滅させてしまいそうだ。


「いや、成瀬さんが妙に事件解決を焦っていたのは、こういうことかと」


昨日、ここに病院があることを知らなかった新藤は、波止場に足場がなくなるくらい、海が荒れるのを待って、哲也が別の居場所を選んでから戦うことを提案した。


しかし、成瀬は早々と…ちょっと焦った様子でそれを拒否したのだ。それは、ここに乱条が運ばれていることを知っていたからに違いない。そのことを教えてやろうとか、と新藤は乱条の顔を見たが…なぜか、彼女は顔面を青くしていた。


「な、成瀬さん…あたしのことを怒ってなかったか?」


「怒る? どうして?」


「…あのガキを捕まえられなかったのは、あたしだ。使えねえやつだって、怒ってたんじゃないか?」


「……あー、そういうことですね」


新藤が思わず笑ってしまうと、乱条はあからさまに動揺の表情を見せた。


「な、なんだよ。どういう意味だ? 何かあったのかよ?」


「いえいえ。あの子、強かったですよね。でも、乱条さんが病院送りになったなんて、耳を疑いましたよ。まさか、乱条さんが小学生に負けるなんてね」


「ま、負けてねぇ。ちょっと油断しただけだ。それより、成瀬さんは何か言ってたのかよ?」


「僕も乱条さんも、異能者に負けることは許されない立場ですからね。気持ちはお察ししますよ」


新藤は自分も哲也に吹き飛ばされ、気を失ったことを忘れたのか、得意げな笑みを浮かべ、乱条を諭すかのように言う。乱条は布団の端を握りしめて悔し気な表情を見せるが、必死に怒りを耐えていた。


「新藤、てめぇ…。この病院から出たら、まずはお前をぶっ飛ばしてやるからな」


「あ、今…成瀬さんが何を言っていたのか、思い出しそうです」


「な、なんだ! お、教えてくれよ」


「じゃあ、もう如月さんをイジメないでくださいよ?」


「イジメてねぇ。あいつが勝手にびびっているだけだ」


新藤はいつだかやられたときのお返しのつもりで、乱条を十分にからかってやると、小さく溜め息を吐き、成瀬が如月探偵事務所に飛び込んできたときのことを話した。


「ほんと、そのときの成瀬さん…かなり焦ってましたよ。乱条さんが病院に運ばれたこと、本当に心配だったんでしょうね」


「ほ、本当か?」


「本当ですよ。それから、何て言っていたかなぁ…自分と奏音さんと、乱条さんの三人が手を組んだ異能対策課は無敵のチームだ、とか言ってましたよ。相当、乱条さんのことを頼りにしているんでしょうね。良かったですねぇ」


乱条はまるで一番だ好きなお菓子をもらった子供のような笑顔で、新藤の言葉を聞いていた。


「なんだよなんだよ、他にはもっとねぇのか?」


「他にはですねぇ」


新藤は思い返す。


「乱条は今のままで十分強い」


新藤は成瀬の声真似をして「みたいなことを言ってました」と付け加えた。


「ち、ちくしょう…なんだよ、成瀬さん。それって、あたしのこと…認めてくれているってことじゃねぇか」


「認めてるどころか…乱条さんのこと、好きなんじゃないんですかね?」


「ば、馬鹿! やめろよ、そんなわけねぇって! えへへっ」


少女漫画の主人公のように笑う乱条を見て、新藤は悪性を膨らませながら、笑みを浮かべそうになるのを耐える。成瀬は本気かどうかは知らないが、如月に言い寄ることがある。もし、乱条が成瀬に対し、もっと積極的になったら、そんな機会も減るかもしれない…というのが新藤の企みだ。


「乱条さん、僕はそろそろ行きますね。退院したら稽古でも付けてくださいね。それじゃ!」


十分に良い気分にさせただろうし、英気を養わせただろう。見舞いとして百点の行動だったに違いない。実際に去ろうとする新藤に、乱条は女の子のように(実際に彼女は女の子なわけだが)手を振って言うのだった。


「おう、任せろよ。じゃあなー! また来いよー!」


病院を出る前に、哲也の病室を覗いたが、彼はまだ眠ったままだった。その横には、心配そうな表情を浮かべた彼の母親が。この事件をきっかけに、これからは今までと違った親子関係が築けるのではないか。新藤はそんな期待を抱き、何も言わずにその場を去った。

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