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17

新藤と如月は車で移動していた。いつの間にか、雨が降り出している。


「予報では晴れでしたよね」


新藤の言葉に、如月は頷く。


「明日も明後日も晴れだったはずだね。台風が来るなんて、どこのニュースでもやってないはずだ」


「だとしたら、もう始めているってことですね」


「そうだね」


新藤と如月は、これから哲也が何をしようとしているのか聞いていた。降り出した雨を見て、これが次第に強さを増して行くのだと想像ができた。


海が見えてくる場所まで移動した頃には、いよいよ雨は強くなり、風も強烈なまでに吹いていた。新藤が車を止める。どうやら、目的地に着いたらしい。


「哲也くん、やっと動きを止めたと思ったら…何だか如月さん対策万全みたいです」


「どういうこと?」


「ほら、あそこ」


と新藤は窓の外に向かって指を指す。


車からやや離れた場所には、海上まで付き出した波止場があった。その先端に人影がある。どうやら哲也らしい。


「なるほど。私の異能を封じる力が、どれくらいの範囲まで効果があるのか知っているらしいね」


「はい。異能を封じるために、彼に近付こうにも、あそこに陣取られたら、その前にやられてしまいます」


「周りは海。不意を突くのは無理だね。どうしたものか」


「うーん…僕が囮になると言っても、一度盾になれるのがやっとですね」


二人は考え込んで沈黙したが、突風が吹いて車内が揺れた。雨もさらに強くなっているようだ。如月は溜め息を吐く。


「考えている時間はないようだ。しかし、何かしら考えがなければ、彼を止められない。まさか、子供相手にここまで苦労させられるとは」


新藤は車に近付いてくる影に気付いた。その人物が運転席側の窓を軽く小突いたので、新藤は後部座席のロックを解除する。


車に乗り込んできたのは、成瀬だ。


「いやー、葵さん…こんな台風を作ってしまうなんて、とんでもない異能を持ったガキですね」


「ええ、前代未聞と言えますね」


「しかも、あんな場所に立たれたら、葵さんでも止められない。あのガキが貴方の手の内を知っているとは思えませんが…どういうことなんでしょう?」


成瀬の質問に対し、如月はやや迷ったようだが、別の質問という形で返した。


「成瀬さんは、異能者たちが組織的に犯罪を起こしたというケースをご存知ですか?」


「いえ…聞いたことはありません。そういう可能性があるんですか?」


「恐らく。あの少年にはそう思わせる行動がいくつかありました。もし、そういった存在が本当にあるとしたら、これから異能対策課は大変忙しくなりますね」


「なるほど。だとしたら、まずはここを乗り切らないといけませんね」


「あっ」と声を上げたのは新藤だった。


成瀬も如月も彼の方へと目をやる。


「もう少し時間が経つのを待つのはどうですか? このまま嵐が強くなれば、きっと哲也くんもあの波止場に立っていられなくなる。既に海も荒れ始めていますから」


「いや、ダメだ」


早々と却下したのは成瀬だ。


「どうしてですか?」


「これ以上、嵐が強くなったら周辺の施設に大きな被害が出るかもしれない。その前に、どうにかすべきだ」


「あー、近くには病院もありましたね。確かに、それを考えたら早めにケリを付けたいですね」


そう言いながら、新藤は少し不審に思う。


成瀬ならばある程度の犠牲を払ってでも、異能者を確実に確保しそうなものだが。


どうやら彼のことを勘違いしていたようだ、と新藤は見直す。ただ、このままではどうしようもない。それを口にしたのは如月だった。


「でも、このままでは手が出せませんわ。今すぐ手を打てる作戦があれば良いのですが…」


「作戦はもちろんあります」


成瀬が自信ありげに笑みを浮かべた。


「全員が雨に打たれ、無惨な状態になるかもしれませんが、こんな状況でもあのクソガキを確実に倒す方法があります」


「え、成瀬さん…珍しく協力的ですね」


「何を言う、新藤くん。僕はこの街の平和のためなら、誰とでも協力するさ」


「そうかなぁ」


成瀬の作戦を聞いて、まず嫌な顔をしたのは新藤だった。


「ちょっと心配ですよ、如月さんにそんなことをさせるなんて」


「僕だって心が痛む。葵さん、もし雨に打たれて風邪でも引いたら、僕は昼夜問わず看病します。なので、どうかこの作戦に協力してください」


如月は腕を組んで目を閉じ、考え込んでいるようだったが、覚悟が決まったのか、目を見開いた。


「やりましょう」


「えええ…?」と新藤は声を上げる。


無理な作戦を如月が受けたことに驚いたのではない。後で不満を言われるだろうということが恐ろしかったのだ。


しかし、時間はない。


この街に巨大災害がやってくる前に、哲也が償いきれないような過ちを犯してしまう前に、


何としても彼を止めなければならないのだ。

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