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沢木さんとは、きっといつか会えるはずだ。そう思って、超能力の練習を続けたけれど、意外な形で沢木さんに再会した。


いや、再会とは言えないかもしれない。


実際に会うことはできなかったが、沢木さんの顔を見たのだ。沢木さんはテレビに映っていた。夕方の五分ほど流れるニュースの中で。


「沢木容疑者は、手品を見せた上で超能力の練習をしようと児童を誘い、自宅まで連れ去った後に、虐待した疑いが…」


容疑者? 手品? 虐待?


僕は何が起こったのか理解できなかったが、沢木さんがやってはいけないことをしていたのだ、ということだけは分かった。でも、手品とはどういうことだ。あれは超能力だ。


僕は沢木さんが何をしていたのか知りたくて、図書館のパソコンでインターネットを使い、ニュースを調べた。沢木さんについて報じているニュースについて。分からない言葉の意味も、一つ一つ調べて行った。そして、沢木さんがどうして容疑者と呼ばれたのか理解した。僕の身に何が起こっていたのか、理解した。


やっぱり、僕に超能力なんてなかった。


僕は何も考えられなかった。ランドセルを後ろから蹴られても、宿題を破られても、給食に牛乳を混ぜされても。痛くもない。悲しくもない。悔しくもない。ただ、無感情に過ごす。


いつもの川沿いの道を歩く。

土手に座って、これからどうしようかと考えた。


何の才能もない自分が、このまま生きて、何があるのだろう。死んでしまえ、と僕をイジメるあいつらの声が聞こえた気がした。


その通りなのかもしれない。

だって、僕は特別ではなかったのだから。死んでしまった方が良いはずだ。


穏やかな流れの川を見る。

激しい流れに変化して、僕を飲み込んでくれないか。何もできない、才能のなんてありもしなかった僕を、殺してはくれないか。


「貴方には、才能がありますよ」


その声は背後から。

今度こそ、あの赤い髪の女の人が、僕を助けに来てくれたのかもしれない、と思った。再び現れて、僕には才能があるのだ、と言ってくれたのではないか、と。


振り返ると、そこには大人の女の人がいた。でも、その人の髪は赤くなかった。それなのに、その人は赤い髪の女の人に、少しだけ似ているような気がした。


「貴方には才能があります。どんな人よりも、凄い才能が」


「だ、誰ですか…?」


「私ですか? 私は…いえ、名前よりは、私も超能力者だ、と言った方が、貴方には分かりやすいのではないでしょうか」


その一言に僕は固まる。

どうして、この人は僕が超能力者という言葉に敏感だと知っているのだろうか。


驚いて目を丸くする僕の隣に、その人は座った。長い黒髪が風になびく。今まで嗅いだこともないような良い香りがした。


「沢木くんから、貴方のことは聞いていますよ。とても、才能がある子がいる、と」


「さ、沢木さんから?」


女の人は頷いた。


「で、でも…あの人は、嘘吐きだった。悪い人だった。だから、捕まったんでしょ? そんな人が言ったことなんて、信じられない」


「部分的には悪いところがありました。でも、だからと言って、彼の話した事がすべて嘘だというわけではありません。本当に、貴方には才能があるのですよ」


「……本当に?」


「本当です。ちょっと、良いですか」


その人が僕の方に手を伸ばした。そして、頭の上に手を置く。あの赤い髪の女の人がそうしたのように。


「ああ、やっぱり。貴方の才能は開花しようとしているのに、邪魔されているようですね。如月さん…変わってないのね」


如月、という言葉がどういう意味を持っているのかわからないけど、彼女の手が冷たくて、僕は驚いた。けど、その冷たさがどこか心地が良い。


「今すぐ、貴方の力を目覚めさせてあげます。最初から、貴方の中にある、本当に特別な力を」


頭の中に何かが流れてきた。温かい何かが。温かさが消えると、彼女は手を離し、立ち上がった。


「私は貴方に自分の力を思う存分使ってほしいと思っています。せっかくの才能なんですから、使いたいだけ使って、多くの人に認めてもらうべきです。貴方もそう思いませんか?」


意味が理解できず、僕は答えられなかった。いや、僕は微笑みを見せるその人がとても綺麗に見えて、何も言葉が出てこなかったのだ。


「それでは、また会いましょう。そのときは、貴方の力を私にも見せてくださいね」


「あ、あの…」


立ち去ろうとするその人を、僕は引き止めた。


「名前を…教えてください」


また会いましょう、と言ってくれたその人の名を、僕は聞いておきたかった。それに、きっとこの人は本当の意味で、僕の才能を理解して、信じてくれているような気がしたのだ。


僕を見て、彼女は再び微笑む。それは何かの物語で見た、女神という存在を思い浮かべさせた。


そして、彼女は名乗るのだった。


「私は…野上麗と言います」

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