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「このぉぉぉーーー!」


誰かの叫声。

同時に、乾いた音が響いたかと思うと、抑えつけられていた体が自由になった。


顔を上げると、人形が横に倒れ、正面にはあの少女が立っている。両手で椅子を持っているところを見ると、彼女がそれを使って人形を追い払ってくれたらしい。


このチャンスを見逃すわけにはいかない。クレアはすぐに立ち上げり、状態を起こそうとする人形の頭を踏み潰した。一度ではなく、二度も三度と続けて。


数秒、静寂が訪れる。どうも、人形はこちらの動きを止めることが目的のようだった。もし、人形がもう少し攻撃的だったら、と考えたら背筋が凍った。今となっては、どういうつもりかは分からないが、事なきを得たのは確かだ。


人形が動かくなって、数秒たって少しだけ空気が柔らかくなった。クレアはほっと一息を吐き、自分を助けてくれた少女の顔を見る。


「ありがとう。助かった」


「え? あ、どういたしまして」


思わず礼をいってしまったことを後悔するクレアだったが、少女が見せる屈託のない笑顔に、自分自身も笑みを浮かべてしまいそうになった。


一難が去った…と室内にいた誰もが思った瞬間だった。


「なんだ……?」


と、それを見たクレアは呟く。


ぬっ、と人形の頭部から煙のようなものがせり出てきた。少女が小さい悲鳴を上げる。クレアもその不気味な光景に、声を出しそうになった。


なぜなら、その煙のようなものは、先端に人の顔が浮かび上がっていたからである。


それは無表情な顔で、部屋の奥で縮こまる女性――恐らくは高月文香――を見つめると、ぬめりと人形から抜け出し、宙を這う蛇のような動きで廊下へ出て行った。


「もしかして、今の…」


高月文香の呟き。動く人形だけでも一生見ることがないだろう不気味なものだったが、さらに奇妙な現象を目にして、呆然とする一同だったが、高月文香だけは他の二人と違った何かを感じたようだ。ただ、その意味を考える余裕は、クレアにはない。


隣の少女はそれを追求するつもりか、高月文香を横目で見て何かを言いかけたが、またも何者かが部屋の方へ近付く音が聞こえた。今度は人間の足音に違いない。クレアはこのまま、部屋でゆっくりしているわけにはいかない、と思い直した…が、少し遅かったようだ。


「物凄い音がしたが、大丈夫か?」


部屋に顔を出したのは、高月文也だった。クレアを見て驚いたのか、少し目を見開く。


「何だお前は!」


どうやら、高月は自分を泥棒だと思ったらしい。実際、そうではあるが、少しばかり心外に感じるクレア。


ただ、先程の人形があれだけ厄介だったのから、今度は楽な相手であってほしい。そう願うのだった。

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