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新藤は神父の強靭な精神に敬意の念を抱き、その動きを止める。だが、二人の闘いは意外なことがきっかけで終わることになった。
新藤を挟むように立つ二人の男だ。どうやら、瀬崎ありすを捕らえようとしていた、謎の組織のメンバーらしい。神父には勝ち目がないと判断し、応援にきたようだ。
そして、その二人は殆ど同時に懐からピルケースを取り出すと、錠剤を口に含む。それは、新藤も見たことがあった。飲むことで、簡易的な異能力を手に入れられる、という薬だ。その証拠に一方の男は体が一回り大きくなり、もう一方の男が目を細めると、見えない力が新藤を襲った。
新藤は気配だけを頼りにそれを躱したが、相手は二人。さらに言えば、神父と戦ったダメージが残っている。勝ち目は限りなく薄いものだった。新藤はこの状況をどのように打破すべきか、頭を巡らせたが、どうやらその必要はなかった。
「もう、おしまいだ」
どこからか聞こえたその声は、すべてを動きを止めてしまうような、静かなものだった。いや、実際にその声がすべての終わりを告げていた。
新藤を倒すために現れただろう二人は、薬によって手に入れた超人的な力に違和感を覚え、混乱しているようだ。しかも、彼らだけでなく、成瀬と乱条が相手をしていた敵も、同じような状況らしく、誰もが混乱していた。それを見て、新藤は安堵の息を吐いた。
「助かりましたよ、如月さん」
「まったく…君は、本当に世話が焼けるな」
そう言って微笑む如月は、新藤からしてみると、女神のようだった。
能力が使えなくなったと理解した敵は、素早く撤退していった。成瀬と乱条の手によって倒れていた人間も大多数は、いつの間にか姿を消している。
「葵さん、来てくれたんですね。おかげで助かりました」
爽やかな笑みを浮かべながら、駆け寄ってくる成瀬。それを見て、如月は少しばかり目を丸くした。
「成瀬さん、いらっしゃったんですか」
「はい。ちょっとした調査の途中だったのですが、大勢の敵に囲まれてしまいまして。まぁ、何とかこの通り、追い返してやりましたよ。葵さんは新藤くんのフォローでやってきたのですか? 大変ですね、頼りない部下を持つと」
調子のいい成瀬の言葉に、口を挟もうとした新藤だったが、彼の背後にとんでもない殺気を放つ乱条を見て、思わず言葉を飲み込むのだった。如月もそれに気付き、視線を新藤の方へ移す。
「調査と言えば、新藤くん。例の女の子からの依頼はどうなったかしら? えっと、確か…三郎と妃花だったっけ?」
「ああ、それなら」
説明しかけた新藤だったが、成瀬と乱条の殺気が、同時に彼を貫いた。
「えっと…それなら、既に解決済なので、如月さんが気にするようなことでは、ありません」
如月は、新藤の歯切れの悪さに違和感を覚え、首を傾げたが、それ以上は彼が説明を続けることはなかった。
「探偵さん!」
その声は、駆け寄ってきた瀬崎ありすだ。何やら慌てている。
「錠本さんを…父が!」
新藤は辺りを見回して、神父の姿を探すが、どこにもいない。どうやら、どさくさに紛れて、彼もこの場を去ったらしい。
「きっと、どこかへ行ってしまうつもりなんです。私の事なんて、どうでもいいって…そう思っているってことでしょうか?」
今にも泣き崩れそうな彼女の肩に、新藤はそっと手を置いた。
「そんなことはないよ。約束は絶対に守らせるから。行こう、君のお父さんを探しに」




