第750話 花びらが舞い散る通り
発売中のコンプエース5月号に異世界コンサル株式会社のコミカライズが、一挙に4話(1~3+1)掲載されています!また来月以降も順次、新話が掲載です
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新しい区画のコンセプトを考える。
まずは「何を中心に置くか」。
これについては決まっている。新しく建造される教会である。
枢機卿に定期的に納める聖者の靴の祭礼及びパレードが儀式の中心であり、全ての建造物、店舗、屋台、道路はその中心に沿った形でデザインされないといけない。
「つまりイベントのハイライトをパレードにおいて、1日、1週間、1月間、1年間のイベントをスケジューリングしてみる。そして、どのイベントでも使えるように広場や周辺店舗をトータルでデザインする、ということになるな」
俺としてはようやく整理できた心地がしたので、その通りに喋ってみたのだが率直な面子達は、一様にぽかんと口を開けていた。
「なんか小鳥が喋ってたみたい」
「小団長、さすがに祭礼をイベント扱いするのは・・・」
「ゴブリンの鳴き声かと思った」
「印刷機の軋んだ音に似てるわい」
などと散々な評価だ。意見が率直すぎる。
彼らも具体的な仕事の議論には慣れてきたが、議論の抽象度が上がると途端についてこれなくなる。こればかりは受けてきた訓練の違いだから仕方ない。説明の仕方が良くない。
「冒険者の依頼に例えてみよう。もし有翼獣の討伐の依頼を受けたとする。そして、そんな依頼は初めてだとする。最初に冒険者が考えることは?」
「有翼獣の弱点」
キリクが答えた。
高位冒険者クランの一員として、おそらく実際に狩ったことがあるのだろう。
ちなみに冒険者としてはせいぜい中位までだった俺は有翼獣の姿を見たことすらない。
「そう。有翼獣は特別な魔物だ。強い翼に鋭い嘴、強靱な爪に分厚い皮膚を持っている。だから、まずは弱点を調べる。次にするべきことは?」
「行動の調査。狩り場、水場、巣を調べて罠を仕掛けるか強襲するかを決める」
「その次は?」
「装備を揃える」
「・・・と、いう流れになるわけだ。街の設計にあたって道幅をどうするとか、店舗を何軒にするとかは、いわば冒険の依頼の最後の装備を揃える部分だ。だから今は問題にしない。
最初にすべきことは、この通りの建設の目的は何か?答えは決まっている。
聖者の靴の祭礼を定期的に行うことだ。
それはどんな風に行うと、祭礼の魅力が最大化できるのか?
これは魔物の弱点を効果的につくのと同じ事だ。
いわばパレードを見に来る観客達の心の弱点をつくんだ」
「つまり、観客の財布の弱点をつくってことね」
と、答えたのはアンヌ。
「そうだな。最終的にはそうなる。だけど感動が最初、財布は後だ」
「財布はあと・・・」
少し意外そうにアンヌが小声で繰り返す。
「演劇でもそうだろう?一流の劇団は感動させて支援者から金をひきだす。最初から金をください、と言う劇団に稼ぎの良い劇団はいない。違うか?」
「・・・しゃくだけど、そうね。間違ってないわ」
なぜそんな悔しそうな顔をするのだ。
売れない劇団時代に、似たような罵倒を受けたことでもあったのだろうか。
「そうして一番のイベントが決まったら、街は全体として一つの豪華な舞台装置にならないといけない。すると、どんな造りにしないとならないか決まってこないか?」
「つまり有翼獣を倒す冒険の演劇に例えるなら、その前に山あり谷の小さな冒険が必要になるわけね。村娘の恋とか人喰い巨人の襲撃とか」
「なるほどなあ。演劇に例えると少しわかってきた」
冒険と演劇の例えで、アンヌやキリクにも合点が行くようになってきたらしい。
考えてみればパレードのような体験型コンテンツは、野外演劇の冒険の筋そのものだ。
両者に例えが刺さるのも当然といえば当然かもしれない。
「そして演劇はずっと続くわけじゃない。合間合間には酒も食べ物もつき物だろう?」
「演劇に出る食べ物!そうね!祭礼に関係した食事の屋台とかいいわね!」
「酒もだな!・・・なるほど、司祭様の公認で昼間っから飲めるってわけだ!」
「どうでしょう?おそらく昼間は女性や子供もいますから司祭様は禁止されると思いますが」
演劇は大衆演劇であるから、当然のように人々は畏まってお上品に観賞したりはせず、食べて、飲んで、盛大に野次を飛ばすものだ。
もっとも、宗教的儀式に酔った勢いで野次をとばされると当人が大変なことになるので、おそらくは警備も厳しく酒の販売も規制する必要があるだろう。
「そうなると広場だけじゃなくて通りの2階からもパレードが見られるといいわね!」
「たしかに。桟敷席は通りの全ての家に必要になるな」
パレードの魅力を最大化しようと思うなら、見られる人数も増やす必要があるし、すると道沿いの建物の構造も通常のものとは変わってくる。
街の普通の建物は1階が店舗で2階が居住空間となるのだが、この区画では2階は飲食店の桟敷席として開放された方がいいだろう。
「2階からお花が撒かれるといいかも!」
「それはいいな。花屋があると良さそうだ」
奈良公園の鹿煎餅売りのようなものだ。
何かありがたみのある解説でもつけてやれば、少し価格を上げても飛ぶように売れるだろう。
「楽しい音楽もあると嬉しい!」
「教会にはパイプオルガンを設置予定ですが」
「えっとね、こう・・・皆で手を叩いたりしたいの」
「なるほど、手に納まるような楽器か。あってもいいな。売れる。そうなると新しい歌も欲しいな」
体験型イベントの没入度を高める応援グッズか。
これも売れる。人は推しの応援グッズに金銭を惜しまない。
サラもなかなかアイディアの筋がいい。
「そうですね。教会の詳しいものに特別な歌を依頼しましょうか」
「すごい!なんか楽しい!」
サラが花のような笑顔を浮かべている。
その満面の笑顔を見れただけでも、この区画を造ろうと決意した意味はあったかもしれない。
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