第746話 守るためには
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「守る・・・だが、何から?」
この区画は教会を中心とした商業地区になる予定である。
教会との調整は済んでいるし、剣牙の兵団という看板もある。
権威と暴力が強力なタッグを組んだ開発案件なので、そもそも襲撃を想定していない。
「そりゃあ今の小団長にちょっかいかける奴はいませんけどね? 政治の風向きなんてどちらを向くかわかったもんじゃありません。どんな敵にも備えられるよう最低でも外壁と城門は必要ですな」
キリクの意見は、暴力でこの世界をわたってきた剣牙の兵団の一員として非常に納得の行くものである。
最後に信頼できるのは力だけ、というわけだ。
「あたしも賛成」
意外なことに、アンヌもキリクに賛意を表明した。
「理由を聞いても?」
「2等街区から人を呼びたいのよね? だったら清潔で安全なのは最低条件! 危険だって噂が立ったら人なんてこないわよ! そもそも仕事で必要な男と違って女の人や子供なんかは2等街区から一度も出たことのない人だって多いんだから」
「それは・・・そうか」
最近はすっかり忘れていたが、城壁の中で暮らす信仰篤い市民達からすると、3等街区に住むような冒険者連中は暴力でその日暮らしを送る、間違っても近づきたくない輩である。
まして最近よく使っている駆け出し未満の汚らしい子供達など、良き市民達には乞食やスリの類と見分けなどつかないだろう。
「要するに治安だな」
目に見える安全性を示す形が必要、というわけだ。
「何かアイディアはあるか?」
「革通りと同じように荷車で防ぐわけにはいかんのですか?」
「できなくはないが・・・もう少し見た目に留意したいな」
荷車で出入り口を防ぐのは革通りには元から運搬で出入りの荷車があったのでカモフラージュがしやすかった為である。
それが瀟洒でお洒落な区画に荷物用の荷車などが放置してあれば怪しいことこの上ない。
「街門・・・ゲートを特別に設計するか」
作り上げようとしている区画は、2等街区の市民達にとってはいわばテーマパークのようなものである。
評判の司祭様の説教を聞くために新しい教会へ出かけ、ついでの食事や買い物を習慣づけたいわけだ。
であれば「ここからが非日常のテーマパークですよ」という象徴である施設は必要だろう。
おまけにそれが防衛の機能を果たせれば一石二鳥である。
「それなら建物の路地に木戸を設けたらいいんじゃないですかね。そうすれば木戸と城門を閉じちまえば、いざって時には篭城ぐらいできます。建物の通りに面してない側の一階は窓を減らして外壁にしちまえばいいんですよ」
キリクのアイディアをざっと黒板に描いてみる。
一本の広い通りの両脇にびっしりと商家や料理店の石造りの建物を並べる。
その隙間に線を引く。これが木戸だ。普段は生活の路地として機能している道をいざという時には閉じられるようにする。
また石造りの建物は窓などの開放部を設けなければ実質的に城壁として機能する。二階の窓は矢狭間としても活用できる。
通りには一カ所だけ街門があり、そこを守っている限り区画は一個の砦として機能する。
いわば革通りを臨時の砦としたものの恒久的なスケールアップ版である。
「・・・やり過ぎじゃないか?」
できないか?と言えばおそらくできる。
建物の窓の配置を少し変えて街門を設けるだけだからだ。
大きく設計を変える必要すらなく費用の積み増しもわずかで済むが、それだけで都市の一角に商業区画の皮を被った城塞を作り上げてしまっていいのだろうか。
「何があるかわかりませんから」
というのが、剣牙の兵団の連絡員の言葉だった。
「あとは警備の人間を立てて欲しいんだけどね。見た目が清潔で賄賂を取らないのがいいんだけど」
アンヌが注文をつけた。
安全を保証する設備の次は安全を保障する人員、というわけだ。
理解はできる。が、条件が厳しい。
俺自身が長く3等街区の冒険者風情でいた偏見もあるかもしれないが、衛兵というのは気に入らない連中に難癖をつけては賄賂を取る連中である。
2等街区の良き市民に対しては態度が違うかもしれないが、3等街区に配置を願ったところでまともな奴が送られて来るとも思えない。
「信頼できる警備員か・・・」
剣牙の兵団からはだいぶ人員を借りているし、これ以上の人員派遣は団の活動に支障を来すおそれがある。とはいえ、ジルボアやスイベリーの眼鏡に適う水準の団員増は簡単にはいかない。
悩んでいると、サラがあっさりと言った。
「うちで雇えばいいじゃない。警備の人たち」
城塞の次は私兵集団か。
うちの連中は俺をいったい何に仕立て上げたいんだ?
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