第598話 怪物を狩る技術
駆け出しの子供が駆け出し冒険者になるまでの道のりのなんと遠いことか。
思わずため息をつきたくなる。
「ここまでやって、農村から出てきた子供がようやく冒険者としての第一歩を踏み出せるわけだな」
「・・・今まで、どうしてたのかしら」
「言いたくはないが、死んでいたんだろうな。サラ、大丈夫か?」
サラの顔が、少し青ざめている気がする。
「いいのよ。続けましょ」
「ああ。それで、何とか仕事を受けて下働きを続けて、ようやく鍋を背負った3人組のレベルまでいくとする。ただ、あそこから上に行くのに苦労しているな。武器が買えない、武術の訓練ができない、怪物を狩るノウハウがない」
「そうね。もともと体が大きかったり、武器の訓練を受けたことのある人は何となくできるようになっちゃうけど、なれない子はいつまでも強くなれないのよね」
俺は剣道の素養もあったし、サラは狩人として弓兵の素養があった。
だが、そういった人間は限られている。
「難しいところだな。冒険者としての素質がない、と言ってしまえる話かもしれないが、冒険者以外の暮らし方を選ぶ選択肢はないだろうしな」
そもそも向いていないとわかった時点で冒険者以外の生き方を選ぶことができればいいのだが。
「剣は高いし、弓を身につけるのだって、何年もかかるのよね」
「体が小さく武器の扱いも拙い冒険者がどうやって怪物を狩るか、か。サラならどうする?」
女性が冒険者になるには、相当な苦労や工夫が必要だったはずだ。
サラぐらいの腕があれば、村にいた時から多少は怪物を相手にする経験も積んでいたと思える。
「そうね。あたしなら囮とか罠を使うかな。村で大きい獲物を狩る時は、そうしてたもの」
というのが、サラの答えだった。
「罠か・・・だが魔狼ならともかく、ゴブリンは罠に引っかかった後でも脱出してしまうんじゃないか?」
手があれば、罠の仕掛けを解除できるだろうし、仲間を呼ぶこともできるだろう。
「罠で直接仕留める必要はないのよ。少し足止めができるだけでも弓の命中率が全然違うし、相手の足が止まってたら遠くから石を投げたり槍で倒したりで、安全に倒せるもの」
「罠猟か・・・。罠ならスコップとロープと、ちょっとした金具で作れるな」
なにより、安価だ。駆け出し冒険者に使わせるには、それが重要なのだ。
「あたしは狩人としては半人前だけど、村にはもっと詳しい人もいたわ。冒険者にも、元狩人の人とか、罠に詳しい人がいるんじゃないかしら」
「そうだな。専門家集団の連中に依頼すれば、もっと効果的な道具を作ってくれるかもしれないな」
相手が集団だったり、人喰巨人のように腕力が強かったりすると、ちょっとした罠では歯が立たない。
だが、1、2頭の魔狼やゴブリンであれば、罠があるだけで安全に討伐できる確率があがる。
何より、直接に腕力が問われない、という闘い方が細い体格の駆けだしの子供たちに向いている。
「あとは、毒とか・・・」
「毒か」
狩りに毒を使うのは禁忌とされているが、怪物相手ならそれはない。
最も、毒の合成や保存が難しい、価格が高い、知識が広まっていない、などの理由で冒険者で毒を使用するものは殆どいない。
もっとも、俺の冒険者としてのキャリアは大したことがないから、実は上位冒険者では普通に使用しているのかもしれない。
「剣牙の兵団はどうなのかな。キリクに聞いてみるか」
こんなとき、身近に情報源がいるのはありがたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「毒ですか?兵団ではあまり使わないですね。団長も副団長も、そんなもの必要ないぐらいの腕がありますから」
キリクの返答は、芳しいものではなかった。
たしかにジルボアもスイベリーも、その腕だけで人喰巨人を相手取ることができる。
他のクランに聞いてみるか。そう考えていると、キリクが思い出したようにつけくわえた。
「ああ、でも最近は何か研究してるみたいですね。あの男爵様が人喰巨人を捕まえた時の薬、覚えてますかね」
「麻酔か!」
少し前のことだが、博物学者の男爵様が人喰巨人を生きたまま捕まえることに成功した。
その時に使用した痛み止めの薬を研究しているのだという。
怪物に有効な薬品を、男爵様なら何か研究しているかもしれない。
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