第479話 交流会は失敗するもの
説明会兼交流会か。
クラウディオのアイディアを検討してみる。
お互いの知見やノウハウを交換しましょう、という試みは交流会だのなんだの元の世界でも行われていたが、大抵は成果があがらずノウハウも共有されずグダグダになって終わっていた印象がある。
よほど慎重に設計しないと、この世界でも失敗を繰り返すことになる。
「少し人数を集めて議論してみるか。明日の朝で、誰が集まれそうだ?」
「そうですね。サラさん、私、あとリュックは戻っていますね」
クラウディオが壁面にかけられたスケジュールを見ながら言う。
各自が何をしているのか、バラバラに行動することも多くなったので、以前作成したスケジュール表を大型化して壁面にかけて、新人官吏と共有するようにしている。
ときどき「異世界まで来てスケジュールか・・・」と哀しくなることはあるが、有効なので仕方ない。
ちなみに剣牙の兵団から派遣されている商人出身のリュックは「これ、実家に教えてきます!」と興奮していた。
こうしてビジネス手帳的なスケジュール管理が、この世界の管理標準になっていくのだろうか。
新人官吏達の働きを見ていると、各人の個性や出身によって、得意であったり、強い領域がある。
教会から派遣されているクラウディオが主として書類仕事に強いのに対し、剣牙の兵団から派遣されているリュックは現場や数字に強い。
今では街の外を飛び回り、資材調達などに従事してもらっている。
リュックには、今回の話には参加してもらう必要があるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、サラ、クラウディオに加えてリュックが集まった。
検討内容は「専門家を集めた説明会及び技術交流会を、どのように設計したら良いか」だ。
「実際、どう実施したら良いのかは今から考える。各人の意見を聞かせて欲しい」
とは振ってみるものの、丸投げでなく考えるとっかかりが必要だろうから、一応の参考意見を述べる。
「そもそもの経緯は、専門家の意見調整が必要だ、という話が発端だ。測量地がわからないと水車の設計は制限されるし、測量地や水車の設計が上がってこないと人員の調整や予算の編成もうまくいかない。そのあたりを個別に説明するよりは、同時に説明し、疑問点も共有したい、という話だ」
「そこまではわかりますけど・・・なぜ技術の交流という話になるんですか?職人にとってはわかりませんが、商人とって情報は命と金貨の次に大事な商売道具です。人に教えたりするなんて、考えられません」
リュックが商人の観点から疑問を呈する。
情報の制限こそが商売の肝、という考え方は間違っていない。
「すると自分は、商売の機会を逃し続けていることになるな」
と俺は肩をすくめる。
基本的に、会社は技術やノウハウの秘匿がなっていない。
申し込めば工房の見学もできるし、そもそも教会や剣牙の兵団から内部に人材を受け容れいている。
スパイをしようと思えば、やり放題だ。
仕事も任せているし、管理技術も惜しみなく教えているつもりだ。
その上、王国上層部には冒険者ギルド運営報告書という形で、管理会計の考え方を上げ続けている。
「だから、ケンジは変なのよ」
サラが指摘すると、残りの2人も頷く。
「代官様のやり方は、その、商人から見ると不思議です。なぜ上手く行っているのか理解出来ないこともあります。団長が代官様と対等のつき合いをされている理由も、今ならわかります」
ジルボアと俺が対等ねえ。
外部からはそう見えるのか。あまりに過大評価だと思うが。
「すると、普通のやり方をしたのでは技術の交流会は失敗する、と言いたいんだな」
「はい、うまくいかないと思います」
元商人のリュックは、断言してみせた。
本日は18:00にも更新します




