第478話 説明会を開くなら
「それで、一斉に説明会を行うとして場所はどうしますか?」
「ここで・・・というわけにはいかないか」
「駄目、というより人数が入りませんね」
クラウディオに注意されて、建て増された工房の一画を見回してみる。
手製の黒板。事業計画の書かれた板切れが所狭しとかけられた壁。数脚の椅子。
背後にはゴルゴゴが改良を重ねている印刷機があり、時折りキィキィだのバタンといった音を立てる。
工房からは職人達が槌を叩いたり、刃物で皮を裁断する音もしている。
「・・・確かに無理だな」
近隣の工房を買い取って作業区画を広げてはいるが、すぐに何らかの器具や作業場所として埋まってしまう。
作業のための動線は確保しているものの、それ以外のスペースはひどく圧迫されている。
「そうなると、どこでやるかな」
「そうですね。教会を借りるか、剣牙の兵団の事務所を借りるのはいかがでしょうか?」
少しだけ目を閉じて、2つの案を比較する。
「教会を借りよう。領地開発も代官の任命も教会に委任されて行うものだ。剣牙の兵団とは親しいが、筋が違う」
剣牙の兵団と会社の関係を考えれば、あるいは快く貸してもらえるかもしれないが、関係は関係、商売は商売とキッチリ分けておくのがいい。
尋ねたことはないが、ジルボアもそう考える気がする。
「2等街区あたりに、適当な教会はないか。20、いや30人程度が収容できればいい」
「いつ頃に開催いたしますか」
クラウディオに回答しかけようとして、逆に質問してみる。
「いつ頃がいいと思うか?もし、全てのをクラウディオが仕切るとして、だ」
急に質問を振られたクラウディオだったが、特に慌てることなく質問を返してきた。
「いくつか、確認してもよろしいですか」
「ああ」
「説明会の目的を、どこにおかれますか」
いい対応であるし、いい質問である。
さすがにニコロ司祭の下で優秀だと言われるだけのことはある。
おそらく、似たような状況で質問をされることが教会の中でもよくあったのだろう。
そうでなければ、これだけスムーズな対応をできるわけがない。
「専門家達の意識調整だな。領地開発の全体像を知ってもらうこと。他の専門家の視点を得ること。協調して領地開発を進めると効率が良いという認識を得ること。こんなところか?」
「では、参加する専門家達にも何らかの準備や発表をしてもらうのはどうでしょうか?」
「ほう。面白いとは思うが、理由を聞いても?」
「我々が専門領域の詳細について詳しくないように、ある専門家の方も他の専門については無知なのではないでしょうか?それでしたら、お互いに知識を教え合う場にしてしまうのが良いのではないでしょうか」
「いい意見だ」
正直なところ、クラウディオの回答には驚かされた。
感心して頷くと、クラウディオが頷き返してきた。
「水車の技術者の2人の話を聞いていて思ったのです。教会の外、市井にも優秀な人間はいくらでもいるものだ、と。もっと色々な専門家の話を聞きたい、と。私が思うくらいですから、他の方も同じではないかと考えたのです」
専門家達には、顔を繋ぐという意味での横の連携はあるかもしれないが、公的に知識を含めた交流を持つ機会は少ないに違いない。その場を教会が持つというのは、ある意味で教会の立ち位置を強化するものになるのかもしれなかった。
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