第473話 専門家の知見
「他所の領地から製粉を引き受ける。それで10基の水車か・・・」
クレイグは腕組みをして、目を閉じたままウロウロと歩き出した。
面談中の突然の奇行に、クラウディオが注意をしようとするのを、俺は制した。
「すみません、こいつの癖でして・・・」
猫背のエイベルが相棒の代わりに頭を下げる。
「よくあることですよ」
考え事をする際の癖は、人それぞれだ。俺もよくサラに注意される。
それに、この種の奇癖を持つにも関わらず今の地位にあるということは、それだけ期待できるということだ。
少しばかり見守っていると、せかせかと歩き回っていたクレイグが足を止めた。
「建設予定地をこの目で直接見なければ何とも言えないが、要は水車10基分の仕事ができればいいんだろう?」
「そうなります」
「すると、小屋は極端な話、1軒だけでもいい」
「・・・かもしれません」
「水車は大きい方が、仕事の効率は良いかもしれんな」
「どうでしょう?水車は作って終わりではありませんし、できるだけ整備や交換も簡単にできるサイズにしたいのです。それに、他所からも仕事を請ける予定なので、整備中に製粉業が止まってしまうのは困ります」
「ならば複数台はあった方がいいな。2箇所、もしくは3箇所に分けて直線上に水車が連続した施設を作るのが良かろうな。3連、もしくは4連水車だ。それを3基建てる」
「4連水車・・・」
クレイグと議論しているうちに、ハッキリと水車小屋のイメージが顕れてきた。
それは、小屋などではなく、立派な工場だ。
川沿いに直線に並んだ4台の大型水車。そこに隣接する細長い形をした建物。
屋内では、水車を利用した製粉器械が24時間作動し、大量に運び込まれる小麦を製粉し続ける・・・。
「そんな施設は設計したことがありませんよ!」
エイベルは叫びながらも、嬉しそうだ。
新しい思いつきを形にすることに興奮を隠せない、という意味ではクレイグもエイベルも同じ穴の狢だ。
「しかしなあ、代官様。10基の水車をいきなり建てるというのは無謀かもしれんぞ。まず1基を先に建設して、様子を見た方がいいんじゃないかね」
クレイグの忠告には、聞くべき点がある。
手元の資金が大きくなったからといって、慎重に事業を進めなくて良い理由にはならない。
「すると、まずは3連水車と製粉施設を建てた方が良さそうですね。その経験を元にもう1基、さらに4連水車をもう1基、という方向で検討をお願いできますか。もちろん、建設予定の形状が変わってきますから、測量士と話し合う必要があるでしょうが」
「それは必要でしょうな。ぜひ、話し合う機会を作っていただけるとありがたい」
「必ずつくりますよ」
エイベル、クレイグという優秀な2人組の技術者と、再会を約し握手をして別れる。
専門家というのは本当にありがたい。
こちらからきちんと情報を提供すれば、新しい知見をもたらしてくれる。
本日は22:00にも更新します




