第467話 専門家は次から次へ
測量士を帰らせたと思うと、すぐに次の予定が入る。
「代官様、水車の技術者が面談を希望しておりますが・・・」
申し訳なさそうにクラウディオが次の予定調整を要望してくる。
水車の技術者との話し合いも重要な仕事であるし、俺が忙しいのはクラウディオのせいではない。
ただ、人間の感情として不快な予定を告げる人間をジッと見てしまったのは仕方がないところだろう。
「代官様、そのような目で見られましても、水車への投資を決定されたのは代官様です。教会としては、代官様の要望を最大限に容れて技術者を派遣されているのですから」
クラウディオは教会で行われた小法廷でのニコロ司祭とのやり取りを知っているから、物言いに遠慮がない。
だんだん、以前の可愛げが無くなってきている気がする。
人間、自分が忙しいと他人に優しくなれないということか。
溜息をついて予定を確認する。
「それで、いつ頃に会いたいと言っているんだ?」
「なるべく早く、と言っております」
「そうだろうとは思っていたさ」
とは言え、今日のところは測量士との打ち合わせで疲れているし、こちらの準備が足りない。
明日の午後、ということで勘弁してもらった。
その調整が効くということは、測量士と同じで水車の技術者も、街中で待機しているのだろう。
いつの間にか、面会と言えば待つ側から、待たせる側に変わっている自分の立場に、妙な可笑しみを感じる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ケンジ、忙しそうね」
その夜、久しぶりに2人で食卓を囲んでいると、サラに心配された。
「立ち上がりだからな。仕方ない。それよりサラの方も忙しそうだな。昼間は工房にいないようだが」
「そうね。新人官吏の人達と一緒に走り回ってるんだけど、仕事してるっていうよりも知らないことばっかりだから振り回されてる、って感じかな。だけどね、あたしみたいな農民の子が街のいろんな人と会って話せるって、すごく楽しいの」
「そうか。サラも頑張ってるんだな」
サラを含む新人官吏達は、前の代官を支えていた文官達がまとめて失職した関係で、引き継ぎもなく領地の統治に臨む準備を余儀なくされている。
足りないのは官吏だけでなく、村側の自治機構も同じだ。そちらもまとめて失職しているので、いったい何がどうなっているのかを、いちいち聞き取って基礎の資料として作っていかなければならない。
しがらみがない、というのは良いことだが、大変なものは大変だ。
それをやり甲斐と感じてもらえているのであれば、有り難い。
結果論になるが、自分の手足となる官吏達を育成していて良かった。
もしこれが、自分だけで手がけなければならなかったと思うと、ぞっとする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日の午後、予定通り水車の技術者が事務所まで訪ねてきた。
クラウディオに案内されてきたのは、聖職者の服を来た2人の男達だった。
1人は痩せ型で背が高く、少し猫背の男。もう1人は、やや固太りで髭の濃い背の低い男。
2人とも健康的に日焼けしていて、聖職者の服から浮いている。
背も体形も全く違うのだが、雰囲気は妙に似ている2人組だ。
「代官のケンジです、歓迎しますよ」
俺が差し出した手を、技術者の2人は目を瞬いて見ていた。
明日は12:00に更新します




