第445話 まるで悪者ではないか
靴の工房が稼働してしばらくすると、新人官吏達が集まってきた。
全員が揃ったところで挨拶と情報の共有から始める。
「おはよう。幾つかの良い知らせと悪い知らせがある。良い知らせは、新領地での前代官の不正が裁かれ、奪われた財産と腐敗した敵対的勢力の影響を取り除くことに成功したことだ。悪い知らせは、そのために追加の計画を立てる必要があることだ。悪い知らせについては、こちらで説明する。良い知らせについてはクラウディオ、説明してくれ」
「わたしが、ですか?」とクラウディオが怪訝に問うたので「ああ」と頷いてみせる。
第3者から見て、あの裁判がどのように映ったのか知りたかったということもあるし、単純に頭痛が酷くて説明がおっくうだったということもある。
「わかりました」と了承し、クラウディオが説明を始める。
俺はひたすらハーブをいれた茶を飲んで頭痛が去るのを祈りつつ、これからのことを考える。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・以上になります」
クラウディオがそつなく説明を終えたようなので顔を上げると、新人官吏達がこちらをジッと見つめていた。
なんとなく居心地が悪い。
「なんだ、どうかしたか?報告なら、ちゃんと聞いていたぞ」
「いえ、そういうことではありません。代官様は政治的なこともお出来になったのだな、と感心していたのです。てっきり、そういうことはお嫌いだと思っておりました」
聖職者のパペリーノが言うと、サラを含めた残りの新人官吏達もうんうんと頷く。
「嫌いだよ。だが嫌な奴の言うことを聞くのはもっと嫌いだ。嫌いな奴の言うことを聞かずに済むために政治的なこともやるんだ。それより、代官様ってのはなんだ」
「クラウディオの言うには前代官様が罷免されましたそうですから、現在の代官はケンジ殿ということになります」
「言われてみればそうだな」
昨日までは次期代官であったが、今日からは正式に代官ということになるのか。
暫定的な統治は教会から派遣される裁判士が取り仕切るのだろうが、肩書としてはそうなる。
ちょっと前までは足を悪くした無職の冒険者だった自分が領地を治める代官様になるとは。
その仰々しい肩書と立場の変化には、どうにも慣れない。
早く慣れる必要があることは理解しているのだが。
「ところで、何か質問はあるか」
「一つ、伺ってもよろしいでしょうか」
手を上げたのは元貴族のロドルフだ。
「前代官様が罷免されたということですが、クラウディオの話を聞くとそれだけで収まる話ではないと思います。前代官と繋がりの深い文官や村の有力者も罪を問われて罷免されるか、役職を外されるのではないでしょうか」
「そうなるだろうな」
「すると、私達の果たす役職や領域は変わってくると思うのですが・・・」
そこに気がついたか。
ロドルフは言葉を濁しているが、要するに今以上に仕事が増えるのではないか?という疑問である。
「諸君の働きには、期待している」
俺として、満面の笑みで答えるしかない。
心なしか、ロドルフだけでなく新人官吏達全員が肩を落としたように見えた。
なんだろう、これではまるで自分が悪者ではないか。
本日は18:00にも更新します




