第439話 報告書
「なるほど。大体の事情はわかった。それにしても恋文っていうのはややこしい言い回しをするものだな」
「そうねえ。なんだか背中が痒くなる、っていうか、ピンと来ない感じがするわね」
預かってきた羊皮紙の手紙の束を前に、ケンジとサラは話し合う。
「要するに、相手の実家に知られたりすると迷惑がかかるかもしれない。子供ができたことだけは知らせたい。そういうことでいいのか?」
「それでいいわ」
ケンジの要約に、サラは頷く。
「なるほど。こちらとしても、ローラさんがお家騒動に巻き込まれたりしたら寝覚めが悪いからな。とは言え、相手は王都にいるのか。手紙以外の手段でどうにかしたいところだが」
「うーん・・・例えば冒険者に依頼するとかはどう?忍びこむのが上手い人とかがいるでしょう?そうやって連絡をつけてもらうとか」
「難しいだろうな。ローラさんも、それを考えただろうが引き受け手がいなかったんだろう。貴族の屋敷に乗り込むなんて、リスクが高すぎる。平民の冒険者なら尻込みをする話だ」
「でも、連絡をつけるだけでいいなら、やり方はあるんじゃないの?」
「普通に聞けば、お家騒動の元だからな。そんなことに巻き込まれるのはわりに合わないのさ。サラだってそうだぞ?少しでも危険があるなら、やめて置いたほうがいい」
冒険者は基本的に平民である。
貴族の居住区と平民の居住区は基本的に分かれており、その間には壁と門衛がいる。
そして許可無く移動することはできないものだ。
犯罪者スレスレの冒険者なら依頼を請けるかもしれないが、そんな連中に情報を渡したら利用されるに決まっている。
「そうね・・・だけど、何とかしてあげたいの。生まれた子供をどうするか、とか、そんなことまではできないけど、父親だって知りたいでしょう?」
「まあな」とケンジは肩を竦めて答える。
手紙の束を目にしながら、サラが言葉を発する。
「ねえ・・・この蒼剣の君って人、冒険者の管理ってどんな仕事をしているのかしら?」
「そうだな。詳しくはわからないが、例えばこの街で依頼された冒険者の仕事の書類なんかを取りまとめて、上司の貴族に報告するような仕事だろう」
「じゃあ、依頼の達成した契約に貼り付けてお手紙を出したらどうかしら!薄くしたり貼り付けたらバレないかもしれないじゃない?」
「いや、それは無理がある・・・な。うん?」
「どうしたの?」
「それで、いけるかもしれないな」
ケンジの思いつきを聞いて、サラは請け合った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一月ほどして、サラはローラの使いだ、という花売りからの伝言を受け取ることになった。
手紙になっていないのは、万が一の情報の漏れを防ぐためらしかった。
本当はサラがもう一度乗り込んで話を聞きに行くつもりだったのだが、ケンジには危険なので二度と花売りの真似をしないよう約束させられていたので、どうなったのかもどかしく思いつつも、待つことしかできなかったのだ。
花売りからの伝言は「うまくいきました」との一言だけだったが、サラは満足した。
本日は22:00に更新します




