第392話 仕事の標準
全ての仕事について、経験者に問い合わせるとなると、作業量は膨大になる。
一応、手の抜き方は知っているが、今の段階では教えない方が良いので黙っている。
すると、聖職者のクラウディオが話しかけてきた。
「それにしても、全ての仕事について聞いてくるとなると、なかなか大変なことですね」
「最初だからな。段々、楽になる」
ヒントを出してやると、クラウディオが食いついてきた。
「それは、なぜですか?」
「基準ができるからだよ」
「基準?」
「ある作業について、クラウディオは自分で見積もってみたわけだ」
「はい」
「その作業が適切か、経験者に聞くことで見積もりが修正できるよな」
「そうですね、経験者に聞けば、かなり精度が良くなると思います」
「それで、実際に作業をしてみるよな」
「計画が進めば、そうなります」
「すると、見積と実際の差分が出る」
「でますね」
ならば実際の値が標準として必ず正しいかと言えば、そうとは限らない。
現実には、仕事をする上で様々なアクシデントがつきものだからだ。
「実際の作業には想定していなかった様々な要因があるかもしれない。部材が届かなかったり、雨で作業が遅れたり、指示すべき人間がいなかったり・・・」
「ありえますね」
「だが、その種のズレは、何回か同じような作業をすることで補正できる」
「たぶん、できるかと思います」
「そうして出来上がってくるのが、標準作業という概念だ。つまり、ある種の仕事をするときは、どの程度の仕事量になるのか、ということが実績を元に数字で出せるようになる」
見積もりの精度を上げる事で、仕事をする前に正確に仕事量を計算できるようになる。
そのためには、事例の蓄積と記録が重要である、という話をしている。
クラウディオは、こちらの意図を正確に理解して、確認してくる。
「仰りたいことがわかってきました。私には、それを記録せよ、ということですね?」
「そうだ。領地開発の仕事は、ここだけで終わってはいけない。他所の領地開発でも、広く応用できる手法を確立する必要がある。大きな計画は、小さな仕事の集まりなのだ。だから、小さな仕事を正確に記録することで、状況のことなる他所の領地でも応用できるようになる。そのためには、何をおいても記録することだ。その役割を、期待している」
「わかりました。精一杯、つとめさせていただきます」
頷いてから「余計なことかもしれませんが・・・」と前置きをしてから聞いてきた。
「それにしても、代官様はこの秘術を秘匿なさるつもりはなかったのでしょうか?これは大変な技術です。私は聖職者として学ぶ中で法律や税法などの知識を学びましたが、ここで学ぶような学問と実践が入り混じった知識を学んだことはありません。代官様であれば、教会の中で教導師が立派に勤まるでしょうし、聖職者達の尊敬を集めることも容易いはずです。政治の道に進めば、ニコロ司祭の後継者となることも可能でしょう。何を好き好んで、冒険者などという賤業に従事しておられたのか。少々、理解に苦しむ点ではあるのです」
ニコロ司祭にも聞かれた。「お前はなぜ冒険者を助けようとするのか?」という問いである。
聖職者からすると、やはり冒険者という職業は賤業にしか見えないのだろう。
「彼らは農民だよ。農地がきちんと運営されていれば、農村で土を耕して平和に生きていた人間たちだ。そんな若い連中が無意味に死んでいくのが気に入らない、そうじゃないか?」
聖職者からすると、農民とは守るものであり、駆け出しの冒険者が農民である、という理屈は理解しやすいものであったらしい。
「なるほど」と引き下がった。
本日は22:00にも更新します




