第348話 祝宴
数日後の昼間、ジルボアと事務所で昼飯を食うことになった。
事務所内で食事ができるよう、そのあたりの手配をしてくれるらしい。
よく考えると、ジルボアと仕事で会って茶を飲むことは多かったが、野営を除けば街中で食事を一緒にした覚えがない。
「団長は、街にいるときは団員以外と飯を食うんですよ。何しろ、忙しい人ですから」
というのが、キリクが話すジルボアの食事事情だ。
「団長は見た目がいいですからね。お貴族様との園遊会や祝宴に呼ばれたり、大商人の娘に惚れられたりで忙しいんですよ」
副団長のスイベリーが街の大商人と結婚したこともあり、ジルボアは街中の大商人から婿になるよう狙われているらしい。
ジルボアは爵位こそ持っていないが、そこらの貴族では顔負けの品位、容貌を兼ね備え、おまけに腕も立てば名声もある。剣牙の兵団という、平民としては破格の武力集団を抱えてもいる。
財力と権力を持つ大商人にとって、唯一の不安は、より強い権力や理不尽な暴力に晒されることである。
彼らが先祖代々築き上げてきた財産を、貴族や教会は事あるごとに難癖をつけて奪おうとしてくるし、飢饉ともなれば飢えた平民達が暴徒となって襲撃してくることがあるかもしれない。
ジルボアと剣牙の兵団が持つ武力は、彼らの財産と安全を保証してくれるこの上ない味方である。
縁を結ぶのに娘の1人や2人を嫁がせたところで、全く惜しくない相手、ということだ。
もっとも、あの見た目であるから「相手の方が、すぐに本気になっちまう」そうだ。
爵位を持っていないからこそ、街娘もひょっとして自分の手でも届くかも、と思って入れ込んでしまうのだという。罪つくりなことだ。
と、キリクはさんざんジルボアのゴシップを話したところで、とってつけたように
「小団長だって、捨てたものじゃないですぜ」と付け加えた。
「いや、そういう世辞はいい」と、俺は苦笑せざるを得ない。
あの男に見た目で競おうとは思わない。
「そうね。ケンジじゃ無理よね」とサラが何となく嬉しそうに言う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジルボアは事務所で俺達を待っていた。
いつもの応接室は綺麗に片付けられて、背の高い椅子とテーブルが運び込まれ、真っ白なテーブルクロスの上には人数分の器と皿、カップ、フォークとナイフが並べられている。
「わぁ、素敵!」
とサラが嬉しそうに言う。
「なんだい、こりゃあ」
俺が当惑していうと
「友人が出世したわけだからな。ささやかな祝の席だよ」
そう言ってから、テーブルの上に並べられた高級そうな食器類を指して説明する。
「これは、東方の有名な工房で作られた磁器だそうだ。こういう機会でもなければ、こいつらは倉庫で埃を被るばかりだからな。団員の連中に使わせると、すぐに割ってしまう」
たしかに、ジルボアぐらいの立場になると貴族や大商人からの付け届けや贈り物が山程届くのだろう。
この食器類も、そういった贈り物の中の一つなのかもしれない。
先日のニコロ司祭に呼ばれた祝宴では、料理こそ豪華だったが緊張でまるで味がわからなかった。
サラも喜んでいるし、友人だけのささやかな宴を楽しむとしよう。
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