第269話 村人の依頼
教会への納品を終えた後も、会社が暇になることはなかった。
守護の靴もそうだが、それ以外の仕事も大幅に遅れていたので、いろいろなところに顔を出して詫びてまわらないといけない。
ここ最近は、冒険者ギルドにも顔をだしていなかったので、ギルドに顔を出して、窓口の担当者から冒険者の最新事情や依頼の状況の話を聞いていたところ、大きな音を立ててギルドの扉が開いた。
思わずそちらを見ると、ボロい服を来た若い男が
「す、すみません!、冒険者ギルドというのは、ここでしょうか!」
と声をかけて入ってきた。
よくみると、ボロいというより、何かに引き裂かれた後がある。
血も滲んでいるようだ。
受付の方にヨロヨロと進んできたので、俺は業務の邪魔にならないよう脇にどいたところ
「村が、ゴブリンに襲われて・・・」
と、カウンターにより掛かるように突っ伏してしまった。
慌ててギルド職員が椅子を持ってきて
「と、とりあえずこちらに座って、依頼をお聞かせください、大丈夫ですか?」
「え。ええ。街に入ってからも、ここがわからなくて・・・すみません、大丈夫です」
ギルド職員の呼びかけに応えて、依頼内容を話しだした。
少し離れて立っていたので内容の詳細はわからないが、どうも村に現れたゴブリンの群れの討伐を依頼したいらしい。
ギルドへの依頼としては、比較的、よくある依頼だ。
だが、受付の職員は気の毒そうに
「ちょっと、この金額だと難しいですよ?」
と依頼には費用が足りない、と告げた。
「た、たりないんですか・・・」
と肩を落とす村人。
「そうですね ゴブリン討伐には今の金額で間に合いますけれど、あなたの村までの往復費用と滞在費がかかります。その分の費用が不足しています」
「そ、そんな費用がかかるんですか。うちも小さな村で現金が今の季節は少なくて、な、なんとかならないでしょうか?」
そうやって訴えるが、冒険者ギルドへの依頼は、強い保証人がつかないかぎり、基本的には現金主義だ。
受付の裁量でどうにかできる話ではない。
「うーん、ちょっと困りましたねえ・・・」
と話していると、奥にいた戦士風の冒険者の1人が声をかけてきた。
「どうした?何か困ってんのか?」
どうやら受付の顔見知りらしい。質問しつつやり取りを始める。
「ああ、ええと、こちらの方がゴブリンの討伐を依頼されているのですが、費用が少し不足しているんです」
「いくら足りないんだ?」
「大銅貨3枚分です」
「どこの村だ?」
「街道沿いに東に2日いった小さな村です」
「そこ、ギルドはなかったのか?」
「小さな村なので・・・」
「そこなら、依頼のついでに寄ってやってもいいぜ」
そう言って、戦士風の男は請け負った。
なかなか、侠気のある奴だ。
農村出身の冒険者からすると、こういった依頼は人事ではないのだろう。
「あ、ありがとうございます!」
依頼を請けてもらった村人は、何度も体を折り曲げるように礼をする。
ギルドの中は、ホッとした空気が漂い、そうして村人と冒険者がギルドから出て行くのを見送る。
「いい話ね。あたし、冒険者のこういうところ結構好きよ」
とサラも言った。
ああいう義理人情に厚い冒険者はギルドとしても大事にしないといけない。
「今の男が依頼達成の報告をしてきたら、大銅貨3枚分を上乗せしてやってくれ。支払いは俺がする」
そうして受付に財布から大銅貨を払いつつ、思わず
「今のはダメだな」
と口に出してしまった。
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