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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第十二章 事業を拡大して冒険者を支援します:意思決定編

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第167話 パンを焼くように

「その・・・こうじょう、っていうのは、どんなものなの?なんかよくわかんないけど・・・」


サラと話していてありがたいのは、わからないことをわからない、と言ってくれることだ。

だから、こちらも説明しやすい。


「そうだなあ・・・今、会社うちの工房では20人ぐらいで1種類の靴を作ってるだろ?それが10列並ぶところを想像してほしいんだ」


「ええ!?そんなに沢山、この建物に入りきらないでしょ?」


「だから、専用の建物を建てるんだ。この建物の10倍の広さがあって、端から端まで見渡せるようになってる」


「・・・そんな大きい建物、教会以外に見たことないなあ・・・」


サラにはどうしても想像できないようなので、工場が稼働しているイメージを説明する。


「ちょっと想像して欲しい。

 朝の決まった時間になると、働いている人が大勢やって来る。

 全員が出勤の板をひっくり返して、それで決められた列に並んで働くんだ。

 会社うちの仕事は細かく分けられているから、場所によっては力のない女の人や子供も働ける。

 働いた分だけ、お金をもらえる。


 できた傍から靴は箱に入れられて馬車で運び出される。

 この街だけじゃない、余所の街でも、余所の国でも、冒険者も、開拓者も、全員が会社うちの靴を履くようになる。


 そうして日が暮れると、列で働いていた人達は、出勤の板をひっくり返して退勤する。

 建物は静かになり、明日の人を迎えるために、準備をする人だけが、掃除をしたり部品を数えたりする。

 これを200人の人達が、毎日繰り返すんだ」


「・・・ちょっと想像できない」


サラは、自信がなさそうに言った。

まあ、それはそうか。この世に存在したことのない組織を想像しろ、という方が無理だ。

これは俺の説明の仕方が悪い。自分の想像できる光景を説明するのではなく、相手の理解できる言葉で説明するべきなのだ。だから、言い方を変えることにした。


「村でパンを焼いたことはあるか?」


「うん!あるよ!薪代がかかるから、村のおっきいパン焼き窯で、お祭りとか結婚式とか、特別な時にみんなで焼くの!」


なるほど。サラが白いパンにやたらに執着するのは、お祭りの時だけに食べられる特別なもの、という意識があったせいか。俺は麦粥、結構好きなんだが。まあ、そういう知識があるのなら説明しやすい。


「もしサラが、この世のみんなに、焼き立てのパンを毎日届けたいと考えたとする」


「おお!?」


案の定、食いつきがいい。


「パンを村の皆で凄い速度で作るためにはどうしたらいいかな?」


「ええと、刈った麦の皮を剥がして、吹き飛ばして、それで水車とか臼とかで粉にして、それを練って、休ませて・・・焼いて、包むのよね。村のみんなで分担するかな?」


「それで、どのくらい焼けるんだ?」


「そうねえ・・・1日かけて村の全員分だから、200個ぐらい?」


「もし500個焼けって言われたらどうする?」


「ええ!ううん・・・男衆や子供にも手伝ってもらうかな。麦の皮を吹き飛ばしたり、水車小屋まで麦袋を運んでもらうには力があった方がいいもの。子供だって、パンを包むぐらいはできるだろうし」


「もし1000個焼けって言われたら?」


「・・・ちょっとわかってきたわ。隣の村から人手を呼ぶでしょうね。新しく竈を作って、そこでも焼くようにするわ。雨が降ったら困るから、場所によっては屋根を作るかも」


「隣村の人だと、いろいろと習慣も違うだろう?」


「そうね、パンも村によっていろいろあるから・・・。大きさとか形とか焼き方とか。でも話し合って同じにした方がいいのよね?」


俺は頷いて、工房の作業台に置いてあった靴を取り上げる。


「これが、パンだ」


品質検査のためのマニュアルである羊皮紙を取り上げる。


「これが、話し合いで同じパンにしよう、という合意だ」


振り返って工房全体を指して言う。


「大勢の人で毎日、大量のパンを焼こうという仕組み、それが工場だ。俺はパンを焼くように靴を作り、この世の全ての冒険者と開拓者に届けたいんだ」


そこまで言うと、サラにも工場というものが朧げながらイメージを掴めてきたようだった。

本日は18:00にも更新します

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