第156話 助祭様のお仕事
サラは、助祭達の様子に関係なく続ける。
「村の畑は見たでしょ?ほとんどが小麦ばっかり。でもね、農村に住んでる農民にとって、小麦は税金で持っていかれちゃうから、自分達で食べることなんてできないの。だから、大麦とか豆とかを、お役人様に見つからないように、村の外の小さな畑で作ってるものなのよ」
「そ、それを教会の司祭は見逃していると言うのか!」
「だって、農家の人達は、そうしないと食べていけないもの」
クレメンテは逆上するが、サラは取り合わない。
「そうやって税逃れを正当化するのだな!これだから庶民は信用ならん!」
2人の議論は、どこまでも平行線である。税で食べている者と、税を払う者の感覚の違いというべきか。
一向に歩み寄る様子が見えないので、俺が仲裁することにした。
「二人とも、そこまでにしよう。議論で決着がつかないときは、事実を調べるんだ。サラ、その隠された畑ってのは見つけてあるのか?」
サラは「当然よ」と頷いた。サラの言うには、村を囲む柵に沿って歩いていたところ、その一部に切れ目があり、そこの草が日頃から人が往復しているように踏み荒らされているので、ピンときたそうだ。
その獣道を通って行くと、林の一部が切り拓かれ、大麦や豆が植えられている小さな畑を見つけたのだという。
「農家の人だって、ちゃんと税金払って生きていけるなら、そうしてるわよ。それができないから、村の外なんて危険なところに畑を作ってるの。あんな森の中のちっちゃい畑なんて、怪物が出て危ないし、作物だってちょっとしか取れないけど、でも食べられないから仕方なくやってるの」
サラは助祭達に言い放った後、俺の方に向き直り、真っ直ぐに見つめてきた。
「ケンジと助祭様達は、それを何とかしてくれるんでしょう?そのための調査なんでしょう?」
食べられない農民を何とかしてくれ、か。サラの期待が重い。
隠し畑は、決して効率の良い農法ではない。土地を切り拓くのは大変だし、耕作中に怪物や野生動物に襲われる可能性もある。
それでも、隠し畑を作ることを農民がやめないのは、察するに、教会が課している税が村の実態に合っていないからだ。
開拓事業を進めるには税の体系を見直すことになるかもしれない。
今は、良い悪いは置いておいて、村で何が起きているのか、正確な事実をつかむことが必要である。
「そうだな。まずは、何が起きているのか調べましょう。それでいいですね?」
とサラと助祭達に向かって言うと、助祭達は不承不承うなずいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「村に隠し畑があるとして。こういうときは、どうやって調べたらいいと思いますか?」
助祭達に問う。彼らは少し考えた後、口々に調査方法を述べる。
「教会の司祭に問うのは、どうでしょうか。神にかけて誓え、と言えば白状するかもしれません」
「収穫の記録を遡ってあたるのは、どうでしょうか。不自然な値が見つかるかもしれません」
「富裕な農家の倉庫を抜き打ちで調べればいいのです。きっとどこかに収穫を隠しているに違いありません」
どの方法も、直接的で、それなりに効果がありそうではあるが、それをやってしまったら、今後は村人の協力が望めなくなるだろうものばかりである。もう少し穏便な方法はないものだろうか。
「サラ、何か方法を思いつくか?」
と、議論を巻き起こした一方のは当事者にも聞いてみると、サラは少し考えた後に答えた。
「村でいちばん困っていそうな人に、お話を聞かせてくださいって、お願いしたらいいんじゃないのかな。助祭様達は、困っている人のお話を聞くのが、お仕事なんでしょう?」
サラの善良で素朴な答えを聞いて、攻撃的になっていた助祭達は少し恥じ入った様子をみせた。
なんというか、サラはいつも正しい。
明日も12:00と18:00に更新します




