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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第十一章 農村を支援して冒険者を支援します

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第154話 愉快な現実

夕闇が迫り、地平線の向こうに太陽が沈む直前に、目的地の村へ着くことができた。

村は、怪物の襲撃に備えて丸太の先を尖らせた柵と浅い堀でぐるりと囲まれ、出入り口には篝火が焚かれはじめており、簡易な門が設けられている。

我々が近づいてきたので連絡が行ったのだろう、門のところまで教会の司祭が迎えに来ていた。


「ようこそ、遠くまでいらっしゃいました。歓迎いたします」


そう言って、深々と礼をした。それに対し助祭達は「うむ」と簡単に礼を返しただけである。

俺には教会内の序列がどうなっているのか、よくわからないが枢機卿に仕えるニコロ司祭のところの若手は、中央官庁の官僚のようなもので、位階以上に権力を持っている連中なのかもしれない。


まあ、聖職者になるつもりのない俺には、関係のない話だ。


宿泊場所として教会の宿坊を充てられると、慣れない旅の疲れのせいか、挨拶や食事もそこそこに、助祭達は倒れ込むように寝てしまった。

俺も教会の依頼で来ているので教会で部屋を用意され、簡単に食事をとって寝てしまうことにした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


翌朝から、助祭達を引き連れての現地学習を始めた。


まずは、現地の状況確認、資料調査、村人への聞き込みを助祭達が手分けして進めることになる。

進め方についても、助祭達に一任する。現地の人間関係の築き方、資料の調べ方などについても助祭達は試行錯誤して進めなければならない。


教会の方には予め調査に協力するように、との連絡が行っているものの、詳細については伏せられている。俺もつい忘れがちなのだが、今やっていることは教会と枢機卿及びニコロ司祭の派閥にとって、極めて重要で機密性の高い計画なのだ。


俺とサラも、助祭達の後をついて回って、致命的な失敗をしないよう見守ることにする。

村人に無礼を働くぐらいなら、後で謝って済ませばいいが、怪我でもされたら困るからだ。


そんな俺達の心配を知ってか知らずか、助祭達は村の各所で愉快な騒動を引き起こし続けた。

想定していたよりも、あまりに酷い様子なので、昼に一度集まってもらい、報告をしてもらうことにした。


「まず、クレメンテ助祭に報告してもらいます。午前中は何をされましたか」


クレメンテが手元の板を確認しながら言う。


「わたしは村人に対し、今の状況を聞いて回ることにした。話を聞くには、まず地位が高く信頼のおけるものから聞くのが正しいと考えたので、教会の司祭殿から聞くことにしたのだ。


教会の司祭殿であれば、今年の収穫状況をご存知かと思い聞いたのだが、ゴブリンの害で一部の畑が被害を受けたとの話があった」


それは、確かに報告すべき内容だ。俺は続きの報告を待ったが、続いて村長からの報告に移ろうとしたので、途中で遮って聞いた。


「クレメンテ助祭、被害の詳細を報告すべきだと思うのですが」


「うむ。教会の司祭からは、例年の5分程度の減収が見込まれるとの報告を受けている。報告書にもそのように記載されている」


それだけか。彼の回答を聞いた俺の感想は、現地での学習を計画して本当に良かった、というものだ。

この助祭達の思考の癖は、この際、きちんと修正されなければならない。


「クレメンテ助祭、その被害を受けた場所については、御身の目で直接確認されましたか。5分の減収と言えば、大変な被害を受けたはずです。復旧を行ったとしても、その修復後は新しい柵や、埋め戻された畑の土、焼かれた作物の滓などとなって、必ず残っているはずです。

それに負傷者や死者が出たかもしれない。負傷者と直接に会われましたか。死者の墓を確認しましたか。死者の生誕名簿の記録を照合されましたか」


「いや・・・していない。教会の司祭が言ったことだぞ。疑うのか?」


「疑う疑わない、という話ではありません。事実か、そうでないかです。現地まで来ているのですから、現地の状況を確認しなくてどうしますか」


そう言うと、クレメンテ助祭は悔しそうにしていたが「確かに・・・そうだ」と頷いてくれた。


アデルモ助祭の報告も、なかなか衝撃的だった。


まず、村の正確な地図が存在しなかった。最新の村の測量記録は80年も前のものであり、畑の形状や村の形ですら、今ではすっかり変わってしまっているので参考にもできない。


村の畑は非常に複雑な形をしており、実際に面積を測ることも困難であった。これは、村の畑が開拓に伴って、ゆっくりと広げられ、また、ある家族が流行病で全滅し、その耕作面積が残った村人で分割されるといった積み重ねの過程を経て、各家が耕す畑の広さと畑までの距離を同じになるよう複雑に調整されたものらしい。

畑は場所により収穫量がかなり違うらしく、たった数十歩離れただけで麦の収穫量が3割も違うということも、よくあることのようだ。


要するに、麦畑の権利関係は数十年、下手すると数百年のレベルでこじれており、開拓のために水路を引いたり水車を建てたりすると、その場所や権利を巡って、泥沼の争いが予想される、ということだ。


ミケリーノ助祭の報告も、似たようなものだ。

生誕名簿として、生者と死者の記録はあるものの、途中で村から出て行った者や、一時の雇い入れとして農家で住み込みで働いている無宿の者達は記録されていない。だから、生誕名簿を基準として労働力を計算することができない。


「こんな状態で、どうやって計画を建てたらいいのだ・・・」


途方に暮れたアデルモ助祭の声は、助祭達全員の声を代弁していた。


現地での学習は、助祭達にとって現実を知る、なかなか良い機会になりそうだった。

22:00ちょっと過ぎちゃいましたね。

明日は12:00と18::00に更新します。

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