3,混じらない存在
土と、緑と、獣が暮らすこの星の上に、ただひとつ、異質な存在があった。
星に混じらず、葉をつけることもなく、子孫を残さない、なにものでもない存在。
それは、練られた土が20ほど集まった大きさをしていた。
それは、練られた土が40ほどあれば包み隠せる大きさをしていた。
時折その存在は、形を変えた。
縦に長くなったり、丸くなったり、平べったくなったりした。
その存在は、土と同じような形をしていた。
丸い部分と太い部分、そこから伸びる土を練る細い部分が二つに、移動するためのやや太い部分が二つ。
土は、知っている。
この星で唯一の異質な存在が、かつて『人』というものであったことを。
この星で唯一の異質な存在が、『人』であることをやめて、ここに来たということを。
ヒトは、時折森に入った。
ヒトは、時折海に入った。
ヒトは、時折雨に濡れた。
ヒトは、時折風に吹き飛ばされた。
ヒトは、時折水たまりに浸かった。
しかし、ヒトは溶けることも、崩れることもなかった。
ヒトは、土のようにイシを持っていない。
ヒトは、土のように意思を交わすことができない。
ヒトは、土のように意志を繋いでいくことはない。
ヒトは、土のように遺志を残すことがない。
ヒトは、土ではないからだ。
ヒトは、ごく稀に、土を練った。
ヒトのこねた土は、ヒトの両手で包まれるための形をしていた。
土を練るための部分も移動するための部分もない、いびつな形をしていた。
土は知っている。
このいびつな形が、『ハート型』であることを。
このいびつな形が、ヒトが『人』であった時を思い出すものであることを。
ヒトのこねた土にはヒトの意志が練りこまれていて、ヒトの練った土だけがヒトの意思を知る事ができた。
ヒトの練った土は、ヒトの両手で包まれ、ヒトの声を聞いた。
ヒトの練った土が、ヒトの意思を知り、他の土に伝えた。
星に混じることのない、異質な存在である『ヒト』は、土と共にあったのだ。




