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悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


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「いたって、普通の王子様ね」

「ええ……本当に」

「エリカから昨日の話を聞いていなかったら、わたしも騙されていたわね。うん、すごいわ」


 クラスの男子と楽しそうに会話しているユリウスさんを見て、リザベルは嫌悪と称賛が入り混じった調子で呟いた。

 リザベルでさえ欺くことができるなんて、ユリウスさんはすごい役者なのね。

 フェリシテさんのことも、リザベルは同じクラスになって早い段階からどうやら演技しているみたいだって気付いていたらしいのに。


「まあ、王族なんてものに生まれ育ってしまうと、どうしても演技力は必要になるものね。ヴィクトル殿下でさえ……」

「何? 殿下がどうかしたの?」

「ううん。殿下は隠す気がないからか、学院ではあまり演技をされていないなって思っただけ」

「そう……。そうね、意地悪な性格は普通隠すものね」

「……エリカは、殿下のことをそう思っているの? 意地悪って、それだけ?」

「え? も、もちろん、それだけじゃないわよ。すごくしっかりしてて頼りになるし、優しいところもあるわ。でも意地悪よ」

「ふーん。なるほどね」

「何?」

「ううん、別に」


 思わせぶりなリザベルの態度は気になったけれど、先生が入ってきたのでそこで会話は終了。

 いったい何が言いたかったのかしら。それに殿下は今日もお休みだなんて。

 授業中も気になって、数学の公式が全然頭に入ってこなかった。


 それにユリウスさんは昨日のことが嘘みたいに、今日は話しかけてくるどころか目だって合わなくて、逆に落ち着かない。

 お昼休みになる頃には自分が大げさに反応してしまっただけだったのかと思えてきた。


 あれは冗談だったとか?

 それなのに予想外にわたしが怯えてしまったから、なかったことにしたとか?


 そう思うとリザベル以外の誰かに相談することもためらわれて、ラウンジではジェレミーともいつも通りおしゃべりをしただけだった。

 そしてリザベルと一緒に教室に戻る。

 すると、教室の前の廊下がいつもと違った雰囲気なのに気付いた。


「何かしら?」


 人垣と言うほどではないけれど、多くの人が廊下に出ていて、いったい何があるのかと少し背伸びしてその先を覗く。


「あら、あれは――」

「ギデオン様!」


 リザベルを置いて走り出してしまったのは、驚きと嬉しさから。

 だって、まさかギデオン様が高等科の教室までいらっしゃるなんて。

 廊下に立っていらっしゃるのは、わたしを待っていてくださっているのよね?

 こんなに注目を浴びているのに。

 研究科生が珍しいというよりも、ギデオン様がかっこ良くて目立つから、みんな遠巻きに様子を窺っているみたい。


「ああ、エリカちゃん。ごめんね、お昼休みに」

「い、いえ……。あの、どうかなされたのですか? わたしに何か……?」

「うん。余計なお世話かとは思ったんだけど、これ。僕が実行委員をしていたときの資料なんだ。なぜかアルドが張り切っていてね。これをさっそく屋敷から持ち出して来たんだよ」


 ギデオン様が差し出したのは綺麗に綴じられたプリントの束。

 所々に見える達筆な文字はギデオン様のもの。


「まあ……ありがとうございます。お借りできるなんて、すごく助かります。どんな企画にするか、いくつか案が必要なのにまだ決めてなくて。アルドさんにも、どうかお礼をお伝えして頂けますか?」

「もちろんだよ。エリカちゃんの役に立てるとわかったら、アルドも喜ぶよ。そもそもこの資料を纏めて保管していたのはアルドなんだ。本当に几帳面でね。僕はいつも助けられてばかりだよ」

「では、アルドさんは――」

「エリカさんのお兄さんですか?」


 ギデオン様にお会いして、すっかり油断していたものだから、突然ユリウスさんに声をかけられて、また大きくびくりとしてしまった。

 つい縋るようにして見上げたギデオン様の表情は昨日とは違って穏やかなままだけれど、どこかぴりぴりした気配が伝わってくる。

 

「いいえ、違います」

「そうなんですね? それは失礼しました。昨日もずいぶん親しげだったからてっきりお兄さんかと思ってしまいました。婚約者、というわけでもないようですから」


 にこやかに言うユリウスさんにはまったく悪意がないように見える。

 応えて、ギデオン様もにっこり笑い返した。


「失礼ですが、どちら様ですか?」


 同じくまったく悪意のない質問。

 だけどユリウスさんが加わったことによって増えた見物人がはっと息を飲んだ。

 一瞬、ほんの一瞬だけれど、ユリウスさんの顔が昨日と同じ冷たいものに変わって、すぐににこやかな表情に戻る。


「ああ、すみません。まだ名乗っていませんでしたね。僕はユリウス・バルエイセン。バルエイセンから遊学のために、この学院に在籍させて頂くことになったんです」

「なるほど。あなたがバルエイセンの王子殿下でいらっしゃいましたか。お噂は伺っておりますよ。色々と」

「へえ? どんな噂なのか気になりますね」

「お知りになるのはおやめになったほうがよろしいでしょう。噂というものは、たいてい良いものではないのですから」

「そうか。残念ですね。ところで、あなたのお名前は?」

「これは大変失礼致しました。私はヴェイユ子爵、ギデオン・レルミットと申します」


 和やかに続く会話の中で、ギデオン様はユリウスさんに対して正式に名乗りながらも一切の礼をとらなかった。

 軽く頭を下げることさえしない。

 その意味に気付いている人はほとんどいないみたいだけれど、少し離れたところで見ているリザベルは満足げに微笑んでいる。

 そしてユリウスさんは小さく笑った。


「ご丁寧にどうもありがとうございます。実は僕が無作法にも割り込んだのは実行委員と聞こえたからなんです。委員に関係あるのなら、できれば僕も混ぜてほしくて」

「――あの、ユリウスさんは男子の実行委員なんです」

「ああ、そうなんですね。今、エリカさんに私が実行委員だった時の資料を渡したんですよ。参考になればと思いまして。ですが、個人的なことも書いてあるかもしれませんので、申し訳ございませんが、殿下がご覧になる時には私も同席させてください。校内配達で知らせてくだされば、指定の時間と場所に私も参りますから」


 わたしが実行委員になったことをご存知だったのだから、ユリウスさんが実行委員なのもアルドさんからお耳に入っているはず。

 それなのにギデオン様は初めて知ったような態度で、驚くべきことを資料閲覧の条件にあげた。

 それは間違いなく、わたしとユリウスさんが教室ででも二人きりにならないような配慮。


「そこまで大切なものなら、わざわざ持ち出さなくてもいいのではありませんか?」

「これはエリカさんに渡したものなのですが……混ぜてほしいとおっしゃったのは殿下ですから」


 うん。ギデオン様のおっしゃる通りよね。

 割り込んできたのはユリウスさんだもの。この件に関してはあれこれ言ってほしくないわ。

 何も返さないユリウスさんから視線を外して、ギデオン様はわたしにいつもの優しい笑みを向けてくれた。


「さて、もう授業が始まるだろうから戻ったほうがいいな。引き止めて悪かったね、エリカちゃん」

「いいえ。ギデオン様、貴重な資料をわざわざお持ち頂いて、ありがとうございました」

「いや、気にしないで。――では、失礼します」


 ギデオン様はユリウスさんに形だけの挨拶をすると、教室の入り口までのわずかな距離を送ってくれた。

 すると、すぐにリザベルが合流。


「ギデオン様、お久しぶりです」

「やあ、リザベルさん。元気そうだね。僕はこれで失礼するけど、またよかったらエリカちゃんと研究室に遊びにおいで」

「ええ、ありがとうございます。あの、よろしくお願いします」

「もちろんだよ。じゃあ、エリカちゃん、リザベルさん、またね」

「はい。本当にありがとうございました」

「ありがとうございます、ギデオン様」


 ちょうど予鈴が鳴ってギデオン様は手を振りながら去って行った。

 他の生徒の邪魔にならないように見送って、リザベルと教室に入る。


「あいかわらず優しいわよね、ギデオン様って」

「ええ。本当に」

「エリカを安心させるためと、ユリウス殿下への牽制にいらっしゃったのね」


 リザベルは席へと向かいながらちらりとユリウスさんを振り返った。

 つられてわたしも振り返る。

 ユリウスさんは何事もなかったように、席に着いて男子たちと楽しそうに話していた。

 その姿はやっぱり普通の王子様で、なんだか拍子抜け。

 昨日はとても怖かったけれど、ギデオン様と並ぶとずいぶん子供っぽく思えたものね。


 ほっと息を吐いて今度は授業に集中。

 安心したからって、眠くなんてないわ。

 うん、全然……大丈夫……なんだか、ら。


 授業に集中していたお陰か、気が付けば終業の鐘が鳴っていた。

 今日はお兄様と約束していて、すごく楽しみ。

 研究室まではリザベルが送ってくれるから、早く帰り仕度をしないと。


「ごめんね、リザベル。部活があるのに、わざわざ研究室まで送ってくれるなんて」

「気にしないでよ、エリカ。困った時はお互い様なんだから」

「うーん。お互い様にしたいけれど、わたしばかり迷惑かけているわよね。だから、今度絶対にお礼するから。すごいことを」

「すごいこと? それって、楽しみなような怖いような気がするわ」


 リザベルとくすくす笑いながら教室を出ようとすると、誰かがわたしたちの前に立ちはだかった。

 何かと目を向ければデボラさん。と、そのお仲間。


「エリカさん、少しよろしいかしら?」

「いいえ。ごめんなさい。時間がないの」


 悪いけれど付き合ってはいられないわ。お兄様と約束しているんだから。

 にっこり笑って通り過ぎようとしたけれど、デボラさんががっちりわたしの腕を掴んだ。

 何なの? 昨日に続き、今日までも。

 どうしてみんな、わたしの腕を掴むの?


「少しくらいかまわないでしょう?」

「……じゃあ、今ここで言ってくださる? さあ、どうぞ」


 ふんっと顎を上げて、高飛車に言う。

 これくらいの態度は許されると思うわ。無理に引き止められているんだもの。

 後ろではリザベルが黙ったまま見てる。

 まあ、リザベルがいるのに堂々と声をかけてきたのは、以前より進歩しているわよね。

 何の進歩かわからないけれど。


「あの、だから……」

「だから何?」

「その、エリカさんはヴィクトル殿下に対して、不誠実だとは思わないのですか?」

「……不誠実? 何のことかしら?」

「ヴィクトル殿下と婚約なさっているのに、他の男性と仲良くなさることです」

「他の男性?」


 デボラさんの話し方がもどかしくて苛々してしまう。

 今ごろはきっとルイが美味しいお茶を用意してくれているはずなのに。

 その気持ちが大きなため息となって出てしまった。

 するとデボラさんはちょっと怯んで、それでも意を決したようにまっすぐにわたしを見つめた。


「今日のお昼休みです。ラウンジでは隣のクラスの男子と。それに教室前では研究科生とまで。しかも、ユリウス殿下に色目までつかうなんて!」

「――は? ……はあああ!?」


 色目って、何言ってるの? 

 気分が悪くて、めまいがしてきたわ。




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