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悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


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コレットの後悔(後編)

 

 心配した通り、翌日は大騒ぎになっていた。

 フェリシテが告白したとか、殿下が断り切れなかったとか、二人は付き合い始めたとか。

 誰もが憶測ばかりで直接フェリシテに訊ねもしない。

 かといって、わたしにはこっそり本当かどうか訊いてくるんだけど、残念ながらちゃんと答えることができなかった。

 何を話したのかわたしが訊くと、フェリシテからは「それは言えないの」って答えしか返ってこないんだもの。

 魔法光学のことじゃないの? 付き合ったりなんてしていないわよね?

 そうは思ったけれど、それ以上は深く訊けなかった。

 なんだかもやもやするのは、わたしの心が狭いからかな。


「ねえ、フェリシテ。このままで本当にいいの? 心配にならない?」

「そうねえ。確かに女子の視線は怖いわね。でも気にしないわ。殿下とお話するのはとても楽しかったし……まさかコレットまで何か言われているの? 巻き込まないために、コレットは誘わなかったのに」

「え? ううん。わたしは大丈夫よ。ただちょっと周囲が騒がしいから心配になっただけ」

「そう。なら良かった」


 ほっとした様子で笑うフェリシテからつい目を逸らしてしまったのは罪悪感のせい。

 フェリシテはわたしのために部活に行くよう言ってくれていたのに、わたしは僻んでいたなんて。

 お詫びにもならないけれど、これからはわたしもフェリシテのためにできることをしよう。

 なんとかみんなに誤解されないようにしないと。

 そう決意したばかりだったのに――。


「フェリシテさん、少しいいかしら?」


 放課後、デボラさんから声をかけられたときには、ついにきたと思った。

 デボラさんと一緒にいるのは、いつもロレーヌさんといる女子たち。

 これは非常にまずい。


 伯爵令嬢のロレーヌさんはつねにデボラさんたち取り巻きを連れていてどこに行くのも一緒。

 悪女だって噂のエリカさんよりも、わたしにとってはよっぽど怖い相手。

 エリカさんは普段はおとなしいくらい静かにお友達のリザベルさんと過ごしているけれど、ロレーヌさんたちは少しうるさい。

 女子が話に盛り上がるのは仕方ないけれど、自分たちの存在をアピールしているみたいでちょっとね。

 教室移動なんかで廊下を歩くときも、デボラさんたちはまるでロレーヌさんの露払い状態でみんなが脇へと寄っている。

 だけど今はロレーヌさんの姿はなくて、それが却って怖く感じられた。


「コレット、部活に遅れるわよ?」

「え? ええ、じゃあ……」


 わたしを巻き込まないようにまたフェリシテが促してくれる。

 だからわたしは教室を出て走った。

 誰か先生を呼んでこないと。絶対にあの状況はまずいもの。


 それなのに教務室にはルイザ先生しかいなかった。

 こんなときにどうして? ルイザ先生はちょっと……。

 そう思ったけれど仕方ない。先生に事情を説明して一緒に来てもらう。


 そして教室に戻ってエリカさんがいることに驚いた。

 ルイザ先生は状況を見てとるや、いきなりエリカさんを怒鳴りつける。

 違うのに。エリカさんはそんな人じゃない。

 何かの間違いだとわかっているのに上手く言えない。

 情けないことにおろおろしているうちに、エリカさん自身がしっかりとルイザ先生に間違いを正して事を治めてしまった。


 その後、エリカさんに謝りたくて、でも声をかけることもできなくて、胸が痛い。

 まさかエリカさんがフェリシテを苛めていたなんて噂が流れるなんて。

 いったい誰が?

 フェリシテに訊いてもわからないとの返事。当然よね。

 誰かがあのとき見ていて誤解したのかも……。


 それからしばらくしてエリカさんとロレーヌさんの間でちょっとしたトラブルがあった。

 原因はフェリシテとデボラさんに関すること。

 でもどうにかフェリシテが頑張ったおかげで、エリカさんがいじめに関わっていないと、みんなにはっきり言えたのはよかったと思う。


 ただ、次に殿下とフェリシテが魔法学について話すときにはエリカさんが同席するようになっていた。

 それが一番問題なくて安心だけど、フェリシテにはちょっと気の毒。

 たぶんフェリシテは本気で殿下のことが好きなんだと思うから。

 直接聞いたわけじゃないけど、これは女の勘。

 だけど殿下はエリカさんのことが好きなのよね。

 これは勘でも何でもなくて、ちょっと観察すればわかること。

 不思議とみんな気付いていないみたいだけど。


 これでよかったのよね?

 身分違いの恋はロマンチックだけど、最後はたいてい悲劇だもの。

 そしてフェリシテの恋の終わりは悲惨なものだった。


 まさかエリカさんに関する悪意ある噂のほとんどがフェリシテの仕業だったなんて。

 どうして? あんなにエリカさんに憧れていたのに?

 リザベルさんが問い詰めたときに現れたフェリシテは、わたしの知らないフェリシテだった。

 殿下がフェリシテをきっぱり無視したのをきっかけに、誰もが背を向ける。

 わたしはどうすればいいのかわからなくて、おそるおそる声をかけた。


「フェリシテ……あの……大丈夫?」

「さわらないで!」


 そっと差し出した手は勢いよく振り払われてしまった。

 びっくりしてぽかんと口を開けてしまったわたしを、フェリシテは歪んだ笑みを浮かべて睨む。


「あなたのような田舎者と友達のふりをするのも、もううんざりよ。じゃ、さよなら」


 わたしが何も返せないうちに、フェリシテは背筋を真っ直ぐに伸ばして去っていった。

 周囲からの軽蔑に満ちた視線もものともしないで。


 だけど次の日、フェリシテは登校しなかった。

 それから姿を見せないまま、退学したと知ったのは二日後のこと。

 申し訳なさそうに教えてくれたのはエリカさん。

 エリカさんは一人になってしまったわたしを庇ってくれ、何かと気遣ってくれる。

 わたしにはエリカさんに優しくされる資格なんてないのに、どうしても甘えてしまう。


 強くなりたい。

 周囲に何を言われても自分を見失わず、前を向いて生きていけるようになりたい。

 エリカさんのように強くて優しい人になれるよう頑張ろう。

 そう新たに決意すると、エリカさんと一緒にいることにもそれほど罪悪感を覚えなくなった。

 なんて変わり身が早いんだって噂する人はいるけれど気にしない。


 そして仲良くなってから知ったエリカさんは、噂とはかなり違った。

 リザベルさんが常に一緒にいる理由もわかった気がする。

 ちょっと危なっかしくて、守ってあげなければと思ってしまうから。


 何より驚いたのは、殿下からのあの熱烈アプローチに気付いていないらしいこと。

 殿下には同情してしまうけれど、とりあえず黙って見守ることにした。


 こうして付き合ってみると、身分なんて関係なく、みんな色々な悩みを抱えた同級生なんだなって親しみが持てる。

 フェリシテが何を考えていたのかは結局わからないけれど、もっと何かわたしにできたことがあったのかもしれない。

 だから今度こそ後悔しないように、みんなのためにできることをできるだけ頑張りたいと思う。




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