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悪役令嬢、時々本気、のち聖女。  作者: もり


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 驚くべきリザベルの言葉に、教室内はまた静まり返ってしまった。

 意味がわからないって顔をしている子もいれば、信じられないって顔をしている子もいる。

 その中で、フェリシテさんは泣きながら首を振った。


「何を言うの、リザベルさん。そんな、あまりにも酷い……」


 涙まじりに震える声で訴えるフェリシテさんは、やっぱり儚げに見える。

 すごい。そんなに涙を流しているのに、どうして綺麗なままなのかしら。本物の女優だわ。

 つい感心してしまったけれど、その涙が演技だと同じように気付いているリザベルの大きなため息を聞いて、はっと我に返った。


「そうね、全てというのは言い過ぎたわね。少なくとも一番初めに流れた噂、エリカが悪女だとかどうとかって話を広めたのは別の人だもの」


 そう言ってリザベルがちらりと視線を向けると、ロレーヌさんはシュゼットさんと共に数歩後退。

 ちょっとわかりやす過ぎるわよ。

 なんだか滑稽で、思わず笑いそうになったけれど我慢。今は笑う場面じゃないわ。


「だけど、エリカがフェリシテさんを苛めていたっていう噂。あれ、発端はフェリシテさん自身よね? 隣のクラスのルナさんに、誰にも言わないでって前置きして相談したんですって? エリカに罵られてしまったけれど、どうしたらいいのかわからないって」

「そっ……た、確かに、相談はしたけれど、エリカさんに苛められただなんて言っていないわ。そんなわけないでしょう?」

「普通はね。だって、エリカはデボラさん達からあなたを庇ったんですもの。ねえ、デボラさん?」

「っえ?……え、ええ。その……恥ずかしいけれど、その通りよ」


 突如話を振られて、観客に混じっていたデボラさんは真っ青になった。それでもちゃんと肯定してくれるなんて。

 やったことは最低だけれど、今度は逃げずにこの場で認めてくれたことには感謝したいわ。


「わたしは、……エリカさんが庇ってくれたって言ったわ。でも、ルナが聞き間違えてしまったのよ」

「違うわ! はっきり言ったじゃない! エリカさんに酷く罵られたって! デボラさん達をけしかけていたんだって!」


 リザベルとフェリシテさんのやり取りに勢いよく割り込んだ声は観客の後ろから。

 みんなの視線が一斉に集まって、はっと口を押さえた子。あの子がルナさんなのね。


「ルナ……あなたが聞き間違えたのよ。それに誰にも言わないでって約束したのに……酷い……」

「わ、わたしはたった一人にしか言っていないわ!」


 ああ、そうね。きっとそうなんでしょうね。

 仕方ないわよ。「誰にも言わないで」も「ここだけの話」も噂話を盛り上げるための効果でしかないんだから。


「あら……不思議ね。じゃあ、フェリシテさんは誰にも言わないでってお願いしながら、いったい何人に相談したのかしら? ねえ、モニクさん。あなたもフェリシテさんから相談されたのよね?」


 リザベルが振り向いて問いかけると、おずおずと進み出てきた子がいた。

 付き添うように一緒にいる子は、さっきリザベルに話しかけてきたダンス部の子だわ。


「エリカさん、ごめんなさい。わたし……フェリシテさんからエリカさんに苛められたって聞いて……わたしじゃどうにもできなくて、部活の先輩に相談してしまったの」

「――いいえ、いいのよ」


 これもよくあることだから。

 正等科でも、よく女の子達が大きな声で内緒話をしていたもの。

 相談を相談してどうするのか、最初はわたしもわからなかったけれど、そのうち噂したいだけなんだって悟ったわ。


「あの! その……エリカさんと研究科生との噂は……わたしが……」


 二人からの告白にざわつく中、新たに声を上げたのはコレットさん。

 教室内が途端にしんとして、コレットさんは少し怯んだけれど、それでも真っ直ぐにわたしを見つめた。


「正等科の校舎から見えたんです。研究科の廊下を歩くエリカさんが。それで……」


 そこで言うべき言葉が見つからないのか、コレットさんは真っ赤になって下を向いてしまった。

 確かにあの日、わたしはお兄様の研究室を探して廊下をうろうろしていたもの。その姿が向かいの校舎からはよく見えたのね。

 この状況で打ち明けてくれたコレットさんの勇気はすごいわ。

 そんなことで怒ってはいないと伝えようと、コレットさんに笑いかける。

 だけど、隣のリザベルはまた大きくため息を吐いた。


「でもコレットさんはその時、一人ではなかったのよね? フェリシテさんも一緒だったんでしょう? それでフェリシテさんが『さすがエリカさん。研究科生ともお付き合いなさっているのね』って言ったのよね?」

「そ、そんなこと言っていないわ! そもそも、その頃はまだエリカさんのことはよく知らなかったもの! リザベルさん、いい加減なことを言わないで!」

「あら、でもそう聞いたわ。もう一人一緒にいた子から。ねえ、ルナさん?」

「え、ええ……」


 リザベルににっこり笑いかけられて、ルナさんは気まずそうに頷いた。

 つまり、ルナさんも噂を広めたのね。まあ、嫌いじゃないわ、こういうタイプ。わたしでさえ、決して信用はしないけど。

 そんなルナさんを睨みつけるフェリシテさんの顔からは涙が消え、怒りが浮かんでいる。


 そして、その怒りの矛先がリザベルに向いた。

 つんと顎を上げてリザベルを見据えるフェリシテさんは、今までの儚げな姿からは想像できないほど堂々としていて怖い。

 でも、リザベルはわたしが守るわ!

 鼻息荒く意気込んで前に出ようとしたわたしを、リザベル自身が腕を掴んで引き止める。


「リザベルさん、あなた、先ほどからいったい何なの? 何の権利があって、わたしに訳のわからない言いがかりをつけるの?」

「あら、そんなの決まっているじゃない。わたしはエリカの友達よ。友達の名誉のために訳のわからない噂について調べただけ」

「リザベル……」


 どうしよう。嬉しくて泣きたくて、今すぐ抱きつきたい。

 この場面でそれはまだ相応しくないから我慢するけど。


「何が名誉よ。エリカさんにそんな大それたものがあるのかしら? だってエリカさんって、スナネズミみたいにカラカラ無駄に回っているだけのお馬鹿さんじゃない」

「え?」

「失礼なことを言わないでくれる? エリカはね、優しくて純粋で、とっても心が綺麗なんだから。そりゃ、確かにちょっと単純で鈍感で、本を読みながらにやにやしていたり、独り言をぶつぶつ言っていることもあるけれど、わたしにとって最高の友達よ!」

「あ、ありがとう……」


 まさかにやにや笑いや独り言を言っていたなんて。気を付けないと。

 この最高の褒め言葉に相応しくなりたいもの。

 感謝を込めてリザベルを見ると、まだフェリシテさんと睨み合ったまま。

 クラスのみんなはフェリシテさんの変わり様に唖然としている。


「フェリシテさんこそ、いったい何の権利があってエリカを貶めるの? ノエル先輩との噂、あれもあなたよね?」

「あら、そんな証拠がどこにあるの?」

「――証拠はなくても証言ならできるよ」


 新たに割り込んで来た声にみんながはっと息をのんでドアへと目を向けた。

 そこには気だるげな笑みを浮かべたノエル先輩が立っている。

 いつからいたのか、わたしにはわからなかったけど、隣でリザベルが「遅いわよ」と呟いたからそんなに前からではなさそう。


「あの日、僕が初めてエリカさんに馬車寄せで話しかけた時、それを見ていたのは君だけだってね。……えっと、フェリシテ・ベッソンさんだっけ? ベッソン商会の?」


 そう言いながらゆっくりと教室に入ってきた先輩はフェリシテさんの前で立ち止まった。

 なんて言うのかしら、この状況。真打登場?

 遅れてくるなんて憎いわ。

 相変わらずかっこいい先輩の登場に、女の子達の小さな悲鳴が聞こえる。


「おっしゃっている意味がわかりませんわ。シェフェール先輩」

「そう? では、わかりやすく言うよ。僕とエリカさんの噂が流れる前日、僕は初めてエリカさんに話しかけた。その時、それを見ていたのは図書室の窓際に立っていた君だけなんだよ。もちろん、図書室に君がいたことは先生が証明してくれる」

「たとえそうだとしても、目撃者が本当にわたし一人とは限りませんわ」

「まあ、確かに。でも僕は幼い頃から自分の立ち位置は常に把握するようにしているんだ。晒されるのは視線からだけじゃないからね。だから、馬車寄せが限られた窓からしか見えないことも把握しているんだよ。もちろん、僕の言葉が信じられないというのなら仕方ないけどね」


 周囲に目を向けながら話す先輩の言葉に、みんな引き込まれている。

 これは演技なんかじゃない。持って生まれた才能――魅力だわ。


「それと、エリカ君の名前を騙った手紙――僕と第一図書室で会いたいっていう内容の――あれ、君からのものだよね?」

「さあ、何のことか――」

「残念ながら、手紙には消失魔法がかけられていて確かな証拠はないけれどね。だが君が消失魔法を扱えることと、僕のクラスメイトに僕のロッカーの場所を聞いたこと、ロッカーに手紙が入れられた日に君が三年の校舎をうろついていたこと、そして指定日当日、君が図書室にいたことだけでも状況証拠的には十分じゃないかな?」

「ですが消失魔法なんて、わたしには難し過ぎますわ」

「そう? でも、サムエル先生は楽しみにしていたよ。正等科からの推薦書には消失魔法どころか、光魔法も扱えると書いてあるんだとね」


 話の展開についていけないのは、わたしもクラスのみんなと同じ。

 とにかく整理してみると、あの謎の手紙の差出人はフェリシテさんだったということ?

 ロッカーは名前表記されていないし、新学期に早い者勝ちで場所を決めるから、クラスの子以外は個人の場所はわからないものね。まあ、わたしは自分とリザベル以外の誰の場所も知らないけれど。

 それにフェリシテさんが消失魔法を扱えるというのも納得。魔法技は殿下達と同じくらいに優れているもの。

 でもわからないのは、どうしてそこまでしてわたしを?


「あら、わたしの悪戯はちょっと行き過ぎていたかもしれませんけれど、感謝して頂きたいほどですわ。お二人が出会うきっかけになったのですから。それで先日、エリカさんはわたしと別れた後、シェフェール先輩と二人きりでお会いになっていたのでしょう?」

「――え?」


 急に話があの日のことに戻って、わたしはすぐには答えられなかった。

 フェリシテさんはうろたえるわたしを見て、勝ち誇った笑みを浮かべる。


「わたし、エリカさんを見失ってしまってから、必死で捜したのよ? それで、ようやくエリカさんを見つけたと思って近づいたら、男性ととても仲良さそうに寄り添って歩いていらっしゃって……。安全なルルシエヌ通りへと出て行かれたから、声をかけるのをやめてしまったの。お邪魔しては申し訳ないものね。それほどに親密な様子でしたから」

「だから、それは――」

「いやだわ、エリカさん。従兄弟だなんて馬鹿馬鹿しい嘘をおっしゃらなくても。あの男性、本当はシェフェール先輩でしょう? ねえ、ロレーヌさん。あなたも見たのなら、おわかりになるでしょう? あれはシェフェール先輩だったと」


 先輩は当然、あの日のことを知らないから、ありがたいことに余裕の笑みを浮かべたまま沈黙を守ってくれている。

 リザベルが何か言おうとしたけれど今度はわたしがそれを止めて、たくさんいる従兄弟の中から決めていた名前を口にしようとした。先ほど、フェリシテさんが知りたがっていた名前を。

 それなのに、まさかロレーヌさんへ話を振るなんて。


「……そういえば、確かに……。お顔はあまりよく見えなかったけれど、髪色も背格好も先輩と……」


 そうよね。そう答えるに決まっているわよね。

 ロレーヌさんがわたしを庇うなんてしないもの。ただ正直に答えただけよ。

 だけどわたしも決めていたことを答えるまでだわ。


「だから、それは――」

「僕だよ」

「は?」

「あの日、エリカさんと一緒にいたのは兄のノエルではなく、僕だよ」


 いったいいつから、どこにいたのかまったくわからなかったけれど、すっと進み出てきてわたしの隣に並んだのはヴィクトル殿下。

 ノエル先輩はおやっといった様子で片眉を上げ、殿下と反対側にいたリザベルはさりげなく数歩下がった。

 何て言うか、もう台本はめちゃくちゃ。

 お願いだから、せっかく用意していた従兄弟の名前を言わせてよ!






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