久坂大和と中岡悠里は藤堂エルザを励ます。
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「ふああ……お兄、おはよ」
「おう、おはよう」
次の日の朝、いつもよりも早く起きている俺は、既に五人分の弁当を詰めていつでも家を出られる準備を終え、眠そうに目をこする文香に挨拶する。
「文香、朝メシはテーブルの上に置いてあるから、食い終わったら食洗器に入れて回しておいてくれよ。んで、これが今日の弁当な」
「了解……しっかし、あの晴斗キュンが悠里さんのストーカーだったなんて……幻滅だよう……」
そう言うと、テーブルに座った文香が突っ伏した。
というのも、昨日ユーリと藤堂さんが晩メシを食っている最中、芹沢についてどうするか、その対応なんかについて話をしていたんだけど、それは当然、同席していた文香も聞いていたわけで。
そして、“沖田晴斗”のファンだった文香は、殊の外ショックを受けているのだ。
「……結局、ストーカーのグッズとか整理するのに、夜中の二時までかかったよ……」
「何してんだよ……」
俺は文香をジト目で観ながら溜息を吐いた。
「つーわけで、俺はもう行くから」
「はいはい、いってら~」
突っ伏したまま手をヒラヒラさせる文香を尻目に、俺は家を出てユーリの家に向かう。
や、ストーカー対策とはいえ、ユーリの家に直接迎えに行くのは、ちょっと新鮮。
今回の一件が解決しても、ユーリの家に迎えに行くようにしようかな……。
などと考えていると。
――ピリリリリ。
スマホが鳴り、俺はポケットから取り出す。
「ユーリ? もしもし?」
『あ! ヤマト! ニュ、ニュース見た!?』
「へ? ニュースって?」
『と、とにかく! いったん切るから、RINEの芸能ニュース見てみて!』
――プツ、ツー、ツー。
「な、何なんだ一体……」
俺はユーリに言われた通り、RINEニュースの芸能欄を見ると。
「……へえ」
そこには、『“ペール・ガーディアン”の絶対的センター、無期限活動休止』と書かれていた。
俺はすぐにRINEを掛け直す。
『ヤマト! 見た?』
「おう。つか、思った通り姑息な真似しやがったな」
『ホントだよ! 私、頭にきたからお母様に言いつけてやったんだ!』
な、何ですと!?
まさか……初手から最高戦力をぶつけてくるとは……!
「そ、それでお母さんはなんて言ってるんだ!?」
『そりゃあもちろん、『うちの人に変な入れ知恵つけたり、悠里に対してストーカー行為までしたり、オマケに悠里のお友達に非道いことをするなんて!』って言いながら、拳を振り回してた』
お、おおう……クズストーカーの未来は終わった……。
「そ、そうか……とにかく、今急いでユーリの家に向かってるから」
『うん、待ってるね』
「おう、じゃな」
俺はスマホの通話停止ボタンをタップし、ポケットにしまう。
さて、急がねーと。
◇
「ご心配おかけしました……」
俺とユーリが藤堂さんを迎えに行くと、彼女は今朝のニュースの件で申し訳なさそうに頭を下げる。
「ちょ、ちょっと! 悪いのはあのクズで、エルザは悪くないんだから!」
「そうだぜ。アイツがクソみてーな真似するからじゃねーか」
「ですが……」
俺とユーリは悪いのはクズだって何度言っても、藤堂さんの表情はさえない。
つか、自分が一番つらい目に遭ってるのに……。
「まあ、すぐに復帰できるから、心配しなくても大丈夫だよ! ね? ヤマト!」
「お、おう! そうだぞ! 何つっても、最強のお人が俺達のバックについたからな!」
ユーリを迎えに行った際、俺もユーリのお母さんに会って話を聞いた。
何でも、今日中に藤堂さんの芸能事務所に話をするってことと、芹沢んとこの芸能事務所のタレントについて、中岡グループとその傘下、果ては仲の良い企業ひっくるめて番組や映画、その他諸々のスポンサーから全て降りるらしい。
つまり、芹沢んとこのタレント、全員干されるって訳だ。
そのことを話していた時のお母さん、すごく悪い顔してたな……と、とりあえず、敵じゃなくて良かった……。
ま、お母さんにはそれ以外にもありがたいご提案をいただいたんだけど。
「本当にお二人には何て言っていいか……」
「ホントやめてよ、私達、友達でしょ! ね、ヤマト!」
なおも頭を下げる藤堂さんにユーリが励ましながら俺に相槌を求める。
「そうそう、ユーリの言う通りだよ」
もちろん俺も、ユーリにしっかり相槌を打った。
「ま、後はあのクズストーカーが“ざまぁ”となる瞬間を待つだけって感じだな」
「そうだねー」
俺とユーリはちょっとだけ悪い笑みを浮かべながら頷き合う。
うん、アイツ等は本当に二度と浮上できないくらい痛い目に遭えばいい。
「ふ、ふふ」
「お、やっと笑った」
「だねー」
俺達のやり取りが、どうやら藤堂さんのツボに入ったみたいだ。
「ええ……お二人が友達で、本当によかった……」
そう言うと、藤堂さんは涙を一滴零して微笑んだ。
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