芹沢悠馬は破滅への道を歩み始める。
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■芹沢悠馬視点
「そうなんだ! 悠里にまとわりつく、本当にクズのような存在なんだ!」
芸能事務所、“オフィス・セリザワ”。
その社長室で、僕は社長であり父である“芹沢春馬”に訴えている。
あの男……久坂大和というクズのような存在について。
「しかもあろうことか、あの男は悠里に対し、キ、キ、キスまで!」
僕はあの時のことを思い出し、思わず胸を掻きむしった。
悠里を……僕の悠里を、キズモノにしやがって!
「大体、悠里も悠里だよ! 僕という“運命の男”がいながら、一時の気まぐれで男遊びなんて! 僕と一緒になった暁には、常に監視させるんだからな!」
そうだよ! もうこんな馬鹿な真似をしないように、しっかりと管理してあげなきゃ!
「ふう……とりあえず、話は分かった」
僕の話を聞いたお父さんは、深く息を吐くと、静かに目を瞑った。
「全く……“貴彦”の奴はあの“女帝”に三行半を突きつけられ、肝心の息子は、意中の女一人もままならないとは、な……」
「ち、違うんだ、お父さん! これは、あの久坂って「黙れ」」
誤解しないように久坂の悪事を訴えようとしても、お父さんが鋭く睨んでそれを遮る。
全部あのクズが悪いのに……!
「悠馬」
「は、はい!」
「何度も言うが、お前と中岡の娘が一緒になるのは、貴彦との約束でお前が生まれる前から決まっていたんだ。そして、私と貴彦、それにお前とで手中に収めた中岡グループを世界一とするために」
「う、うん!」
僕はお父さんの言葉に、力強く頷く。
そう……これは運命。
容姿、頭脳、財力、いずれも誰よりも優れている僕が、悠里と一緒に中岡グループを発展させ、そして、この世に名を刻む……。
これは、僕が生まれる前から決まっていたこと。
「それを……貴彦もお前も台無しにした」
「っ!?」
今まで見たこともないような表情で、お父さんが僕を睨む。
「だ、だけどそ「お前にチャンスをやる。どんな手を使ってもいい、中岡の娘を自分の“女”にしろ」」
お父さんは人差し指を立てて僕を見据え、そう告げる。
「も、もちろん! どんなことをしても、あのクズから悠里を引き剥がさないと!」
「話は以上だ」
そう言うと、お父さんはソファーから立ち上がって自分のデスクへと戻る。
僕も一刻も早く悠里を救わないと……!
「ああ、そうそう」
席を立ち、部屋を出ようとした僕に、お父さんが背中越しに声を掛ける。
「お前の知り合いの“ペール・ガーディアン”のセンター……確か、藤堂エルザ、とか言ったな?」
「ああうん……あのクソ女がどうかしたの?」
「向こうの事務所とも話をつけて、今後一切、芸能活動をできなくしておいた。もう煩わされることもないだろう」
「っ!」
さすがは僕のお父さん! 仕事が早い!
ふふ……明日、あの女はどんな顔をするかなあ?
僕をコケにした報いを受ければいいんだ!
「それじゃ……僕はやるよ!」
「ああ」
僕は部屋を出ると、すぐにRINEを打つ。
僕の一番の“犬”、斎藤一哉に。
◇
「急に呼び出して、どうした?」
プライベート用のマンションの一室にRINEで呼び出すと、“犬”は嬉しそうに三十分もしないうちにやってきた。
「決まってるだろ! あのクズを悠里から引き離すんだよ!」
「あ、ああ……それは分かっているが……」
僕が怒鳴ると、“犬”はしどろもどろになる。
全く……こういうところは小学生の時から全然成長してないな。
「……とにかく、お父さんからはどんな手段でも構わないとのお墨付きももらった。だから……分かるだろ?」
「っ!?」
僕が“犬”を下から睨みつけながらそう告げると、“犬”のくせに人並みに息を飲んだ。
「そうだな……場所はココでいいよ。後は、分かるよな?」
「だ、だが……中岡は武道の「だーかーらー、手段は選ばないって言っただろ!」」
もう! 本当に物分かりが悪いな!
「……必要な金は僕が手配するから、君はただ、悠里を連れてくればいいんだよ」
「…………………………」
「僕が信頼できるのは、“君”だけなんだ……頼む! 僕を助けてくれ!」
「っ! ……分かった」
フフフ……本当に扱いやすいバカ“犬”だよ。
小学生の時の一件だって、僕がけしかけてイジメただけなのに。
なのに、こうやってチョット弱みを見せたら、まるで自分こそが僕の理解者だとばかりにホイホイと手を貸してくれるんだから。
「じゃあ……悠里をここに連れてくることができたら、すぐに連絡して? あ、モチロン、一週間後とか悠長なこと言わずに、そうだな……三日以内でよろしくね?」
「……ああ」
「それじゃ……って、大事なことを言うのを忘れていたよ」
「?」
踵を返そうとする“犬”を呼び止めると、彼は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「あのクソ女……藤堂エルザだけど、悠里のついでに君が好きにしていいよ」
「っ!? だ、だが彼女は“ペール・ガーディアン”の……!」
「ああ、もう彼女はアイドルじゃなくなるし。それに、君にはいつも苦労をかけてるからね。僕からの“お礼”だよ」
そう告げると、“犬”の瞳が困惑の色から期待と興奮の色に変わる。
フン……下衆だなあ。
「わ、分かった! 任せてくれ!」
「よろしくね。もちろんあのクソ女と致す時も、ココを使ってくれて構わないからね?」
「何から何まで……すまない……」
“犬”は深々と頭を下げた後、嬉しそうに部屋を飛び出して行った。
「アハハハハ! これであのクズも、クソ女も僕の前から消える! そして悠里……君には僕がちゃあんと教えてあげる。君には誰が一番相応しいのか、ね?」
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次話は明日の夜更新予定です!
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