久坂大和は中岡悠里の黒歴史を知る。
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「それで、あの質問の意味は何だったのかな?」
学校が終わってスーパーで今日の食材を物色している中、ユーリが真剣な表情で尋ねてきた。
いや……これは少し怒ってるかも。
「ああ、何で藤堂さんがあんなに芹沢の奴と仲がいいのか、ちょっと気になってな」
「ふーん……」
俺がそう答えると、ユーリは納得いかないものの、とりあえずはこれで矛を収めてくれるらしい。本当に感謝。
ということで。
「ユーリ、今日の晩メシは何がいい?」
「ふあ? 私が選んでいいの?」
俺はそんなユーリへのお礼として、今日は彼女のオーダーでメシを作ることにした。
でも、それが意外だったみたいで、ユーリは少しだけキョトンとする。
「うーん……せっかくヤマトが私のリクエストに応えてくれるっていうんだから、何か御馳走が食べたいなあ」
そう呟くと、ユーリが舌をチロ、と出しながら少し悪戯っぽく微笑んだ。
ほほう……俺がちゃんと答えないことへの意趣返しって訳か。
よろしい、ならばそれに応えてやろうじゃないか。
「分かった。だったら手巻き寿司なんてどうだ? もちろん、ユーリの好きな具でオッケーだぞ」
「ホントに! やったー!」
俺の提案に、ユーリが嬉しそうにはしゃいだ。
うんうん、やっぱりユーリは可愛い。
「じゃあさ! じゃあさ! エビアボカドとかでもいいの?」
「おう、もちろんだ」
瞳をキラキラさせながら、そんな可愛いおねだりをするユーリ……本当に可愛いなあ。
「ふああああ……よーし! いっぱい具材を買うぞー!」
「はは! おー!」
俺とユーリはガットポーズをしながら、今日の手巻き寿司の具材を物色していった。
◇
「「「いただきまーす!」」」
俺達は手を合わせると、早速手巻き海苔を手に取る。
「えへへー! 私はやっぱりエビアボカド!」
「私はもちろんイクラ!」
「んじゃ、俺はシンプルに穴子ときゅうりにするか」
俺達は各々、酢飯と具材を海苔にのせ、器用に巻くとガブリ、とかぶりついた。
「はむ! もぐもぐ……ふああああ! すごく美味しい!」
「うんうん、やっぱりイクラだねー!」
「穴子もなかなか……良き!」
うーん、今日は手巻き寿司にして正解だったな。
だって。
「「美味しいー!」」
大切な彼女と妹が、こんなにも喜ぶんだから。
そして、俺達三人はものすごい勢いで巻いては食べ、巻いては食べを繰り返し……。
「「ごちそうさまでしたー!」」
あれだけあった酢飯と具材は、瞬く間になくなってしまった。
「よーし、もうちょっとしたらデザート出してやるからなー」
「「わあい!」」
二人が嬉しそうにバンザイをする。
これも、最近の我が家の光景だ。
ということで。
「さて、じゃあ一緒に片づけよ?」
「そうだな」
俺とユーリは二人で食べた後の食器類を運ぶと、流し台の前に二人並んでその食器を洗う。
これも、いつもの我が家の光景だ。
「うん、後は私がしておくから、ヤマトはデザートの用意、よろしくね」
「任せとけ」
俺は流し台から離れて皿を三枚用意する。
で、冷蔵庫からはカステラを、冷凍庫からはバニラアイスのカップを取り出して、と。
後は、カステラとバニラアイスをそれぞれの皿に盛りつけたら完成だ。
おっと、お湯を沸かしておかないと。
てことで。
「ふああああ……美味しいー!」
「ホント、美味しい!」
二人とも、カステラとバニラアイスを頬張ってホクホクしている。
どれ、それじゃあ俺も……って。
「じー」
「どうしたユーリ、俺の顔なんか覗き込んで?」
「ニシシ……何でもない!」
「?」
? 変な奴……。
◇
「うふふ! 悠里もちゃんと教えてあげたらいいのに!」
「えー、だってそのほうが面白いから!」
「…………………………」
ユーリを家に送り届けた時、ちょうどユーリのお母さんも帰ってきたところだったので、お茶でもどうかと誘われて応接間にいるんだけど。
まさか、俺のほっぺたにバニラアイスがついたままだったなんて……。
ユーリさんや、気づいてたんなら、もっと早く言って欲しかった……つか、電車の中でジロジロ見られてたのも、そういうことか……。
「もう……ねえねえ大和くん、せっかくだから、悠里にリベンジしない?」
「へ? リベンジ?」
「ちょっと待っててね!」
そう言うと、ユーリのお母さんは席を立ってどこかへ行ってしまった。
「「?」」
首を傾げる俺とユーリ。
つか、ユーリへのリベンジって一体……。
「うふふ! お待たせ!」
ユーリのお母さんが、腕に何かを抱えて戻ってきた。
すると。
「ふああああああああ!? お母様ダメ! それは絶対にダメ!」
ユーリはお母さんからその腕に抱える代物を取り上げようと必死で手を伸ばすけど、お母さんは笑いながらユーリから逃げ、そして。
「はい、大和くん」
「あ、はあ……って、中学の卒業アルバム……?」
「ダメー!」
ああ、成程……この中に、ユーリの黒歴史があるって訳だな?
お母さん、ナイス!
「フッフッフ……どれどれ?」
俺はユーリに背中を向けるようにしながら、中学のアルバムを開くと……おお!
「ユーリって、中学の時は今と髪型違うんだな」
「ふあああああああ!?」
顔を真っ赤にしてアルバムを取り返そうとするユーリ。
だけど、俺はもっとユーリの中学時代を知りたいぞ?
お母さんがユーリを押さえていてくれることもあり、俺はさらにアルバムをめくって……ん?
これは……。
アルバムに収録されている卒業文集の中から、アイツのモノを見つけた。
……ふうん、やっぱりなあ。
ま、それより。
「へえ……ユーリの右腕には“血塗られた漆黒の獣”が宿っているのかあ」
「ふあああああああああああああああ!?」
この日の夜は、ユーリの新たな一面……もとい、黒歴史を知ることとなった。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜更新予定です!
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