久坂大和は粘着ストーカーを退ける。
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「き、貴様あ! 僕の悠里から離れろおおおおお!」
突然、怒りの形相をしながら芹沢悠馬が目の前に現れた。
つか……なんでコイツがここにいるんだよ!?
「悠馬……!」
そして、ユーリが芹沢以上に怒りの表情でアイツを睨みつける。
「悠里! 今すぐソイツから離れるんだ! 君は騙されてるんだよ!」
「ウルサイ」
怒りが限界突破したユーリが、ただ静かにそう呟く。
それより。
「なあ……オマエ、ひょっとして俺達の後、つけてたのか?」
「っ!?」
俺の言葉に、芹沢の奴がたじろぐ。
あ、やっぱり。つか、これってストーカーじゃね?
「あ、当たり前だ! オマエみたいな身の程を弁えないような輩と悠里が一緒にいていいわけがないんだ! それに、悠里を護るのは僕の役目だ!」
「悠馬……アンタ……!」
オイオイ! とうとうストーカーしたって認めちゃったよ!?
そしてその事実を知ったユーリは……うん、昨日のユーリのお母さんよりも怖いかもしれん。
つ、つか。
「な、なあ……念のため聞くんだが、その、いつから……?」
「いつから、だって……?」
俺が恐る恐る尋ねると、芹沢の表情がますます険しくなる。
「そんなの……そんなの!」
顔を真っ赤にして顔を歪め、唇を噛む芹沢。
身体を震わせ、拳を握る芹沢。
……うん。コイツ、最初から後をつけてたな。
「うわ……キモチワルイ」
とうとうユーリも、そんな芹沢に怒りを通り越して汚物でも見るかのような表情で、ポツリ、とそう呟いた。うん、俺もそう思う。
「……まあいい……悠里、さ、僕と一緒に帰ろう?」
そう言うと、芹沢は怒りの表情からテレビで観るような、俳優“沖田晴斗”のさわやかな表情でユーリに手を伸ばした。
だけど芹沢よ、その手、プルプルしてるぞ? 上手く感情を隠せてねーぞ?
あ、ユーリさんや、そんな顔を引きつらせて逃げなくても……いや、逃げたくもなるわな。
「お、お願い、キモチワルイから近づかないでよ……」
あー……さすがにユーリのそんな顔見たら、これ以上はマズイか。
「芹沢、俺達は今、デート中なんだ。邪魔するなんざ野暮だぞ? ストーカーしてたのは見逃してやるから、サッサと消えろよ」
俺はシッシッ、と犬を追い払うような仕草をする。
俺にヘイトを集めるて、ユーリから注目を外すために。
「うるさい! 本当に忌々しい奴だよ! 大体、オマエみたいな輩が、悠里に触れるだなんて……! 汚らわしい!」
「や、ストーカーには言われたくない」
芹沢の罵倒に、俺は冷静に返す。
つか、別に俺は怒ってないし。というより、今はむしろ哀れですらある。
だって……これがあの若手俳優の注目株で、女子共がワーキャー言って褒めそやす、あの“沖田晴斗”なんだぜ?
それが、唯一粘着するユーリには怒りを通り越して気持ち悪がられ、一介のモブでしかない俺に白い目で見られながら袖にされるっつー……うん、シュールだ。
「とにかく、これ以上つきまとうならケーサツ呼ぶぞ? そうなったら、さすがにオマエも困るんじゃね? 週刊誌に『若手人気俳優の沖田晴斗、ストーカー行為で御用』なんでデカデカと載るハメになっちまうもんな?」
「っ!?」
俺がスマホを取り出しながらそう言うと、さすがの芹沢もマズイと思ったのか、一歩後ずさった。
あ、モチロン週刊誌へは、この俺がリークする気満々ですが何か?
「…………………………クソ」
とうとう諦めたのか、芹沢は踵を返……さないの!?
「悠里……一つ教えて? 君のその左手薬指のソレは……?」
芹沢は憂いを帯びた表情でユーリに問い掛ける。
つか、いつまで自分に酔ってるんだよ、このストーカー。
「私とヤマトの、“絆の証”」
ユーリが凛とした表情で、力強く答える。
俺はその姿に、胸がかあ、と熱くなった。
「そうか……その絆、続くといいね……」
そう静かに呟くと、芹沢はフラフラと、今度こそ去って行った。
「ふう……」
完全に芹沢の姿が消えたのを見て、ユーリがホッと息を吐く。
俺は。
「ふあ……」
「ユーリ……」
思わずユーリを抱きしめた。
ユーリが、その左手にはめるその指輪を“絆の証”と、そう言ってくれたことが嬉しくて。
「ヤマト……ちゅ……」
すると、ユーリは俺の唇に軽くキスをした。
「えへへ……さあ、早くスーパーに寄って帰ろ?」
「ん……そうだな」
俺達は互いの手を握り合うと、近所のスーパーを目指して歩き出した。
だけど……俺の中で不安がくすぶる。
最後の芹沢の言葉……。
『その絆、続くといいね……』
だけど。
「ま、なら俺は、全力で阻止するだけなんだけど」
「? ヤマト?」
俺の呟きを聞き、ユーリがキョトンとする。
おっと、ユーリを不安にさせる訳にはいかねーな。
俺はさっきの呟きをごまかすかのように、ユーリの髪をくしゃ、と撫でると、ユーリは嬉しそうに目を細めた。
ユーリ……何があっても、絶対に俺が何とかしてみせるからな。
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