久坂大和は中岡悠里の父親と相対する。
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「あらあら! ユーリじゃない!」
高そうなスポーツカーの運転席から、綺麗な女性がにこやかに声を掛けてきた。
「お母様!」
へ? “お母様”?
俺はユーリから放たれた言葉に、思わず呆然とする。
「ふふ、今日はいつもより早く仕事が終わったから、急いで帰ってきたんだけど……あらあら、彼が?」
そう言うと、ユーリのお母さんは俺を見ながらニヨニヨしている……って、なにボーッとしてんだ俺!?
「あ、は、初めまして! お……いや、僕は“久坂大和”っていいます!」
俺は慌てて自己紹介をすると、勢いよく頭を下げた。
「うふふ、悠里の母親の“明里”です。いつも悠里がお世話になってるわね」
ユーリのお母さんが、優しい声で話しかけてくれた。
や、緊張して顔が見れない……。
「あらあら……顔を上げてくれないと、話ができないわ?」
「ははは、はい!」
困ったようにそう言われてしまっては、俺も顔を上げるしかない。
俺は覚悟を決めて勢いよく顔を上げると……。
――ニコリ。
あ、この笑顔……ユーリにそっくりだ。
「えへへー、お母様! ヤマトってカッコイイでしょ!」
「ユ、ユーリ!?」
満面の笑みを浮かべながらユーリが俺の腕に抱きつく……つか、お母さんの前なんですけど!?
「うふふ、ええ! さすが悠里が見初めただけのことはあるわね!」
ユーリのお母さんは頬に手を当て、嬉しそうに微笑む。
うん、ユーリのお母さんはいい人そう。
「ところで、二人はこんなところで何してるの?」
「「あ」」
ユーリのお母さんに尋ねられ、俺達はさっきのことを思い出した。
「そ、そうだった。ユーリ、もうお母さんも帰ってこられたんだし、今日は「そうだわ!」」
今日はこれで、と切り出そうとした俺の言葉を遮り、ユーリのお母さんはパン、と両手を叩くと、まるで妙案が浮かんだとばかりの表情を浮かべた。
「ねえ大和くん、せっかくだから家に寄っていきなさい。色々とお話しも伺いたいし、ね?」
お、おおう……やっぱりそうなるか。
ま、まあ、元々ユーリのお父さんに相対しようとしてたわけだし、別にお邪魔すること自体は構わないんだけど……な、何というか、ユーリのお母さんのほうが手強そう……。
「え、ええと……」
俺はチラリ、とユーリを窺うと。
「う、うん! 私もお母様にヤマトのこと、もっともっと知ってほしかったから、ちょうどいいよ! ね! ヤマト!」
「そそ、そうだな……」
うん、ユーリにそう言われたら、そうするしかないよね……。
「じゃあ私は車をガレージに入れてくるから、あなた達は先に中に入ってなさい」
「うん! ヤマト、行こ!」
そう言うと、ユーリのお母さんは車を家の裏へと走らせてゆき、ユーリは俺の腕をグイグイと引っ張った。
え、ええと……緊張するなあ……。
◇
「……それで、どこの馬の骨とも知らないその男は……ああ、そうか。君が悠馬くんの言っていた“悪い虫”という奴か」
ユーリが玄関を開けた途端、目の前にはユーリのお父さんが仁王立ちしていて、いきなりそんなことを言われる俺。
や、そんなジロリ、と睨まないでくださいよ。
「……お父様、悠馬が何を言ったか知りませんが、ヤマトを悪し様に言うのはお止めください」
ユーリがこれでもかというほど低い声で、お父さんに凄む。
「フン……だから常日頃から言っているだろう。明里が何と言おうが、“中岡家としての自覚を持て”、と」
「自覚ってなんですか!」
お父さんの言葉にヒートアップしたユーリは、思わずお父さんに詰め寄る。
「決まっている。そんなうだつの上がらない男などと付き合うのはやめて、もっと相応しい男……そう、悠馬くんのような「それ以上言うな!」……親に向かって何だその口の利き方は! お前はこの私の言うことを聞いていればいいんだ!」
怒鳴るユーリに、怒りの形相を見せたお父さんが吠え、その右手を上げようとしたところで。
「すいません。俺のことはどう仰っていただいても構いませんが、さすがにそれはないんじゃないですか? 親として」
「ヤ、ヤマト……」
俺はユーリを庇うように二人の間に割って入ると、ユーリが背中越しに俺の服をつまんだ。
「フン! これは中岡家の問題だ。部外者は出て行きたまえ」
「嫌です」
「……何?」
俺の明確な拒否に、お父さんはジロリ、と俺を睨みつける。
つか、ユーリのお母さんのほうが、数百倍迫力があるように感じるのは気のせいだろうか……。
「そもそも俺は部外者なんかじゃないです。俺はユーリの彼氏として、ユーリが困ってるなら……悲しい思いをするってんなら、全力で阻止しますよ。それが、たとえユーリの父親だったとしても」
「ヤマト……!」
「フン! やはり悠馬くんの言う通り、貴様は悠里にとって害悪でしかないな。サッサと出て行け! 目障りだ!」
ユーリのお父さんは大仰に腕を振り、俺に家から出て行くよう催促する。
その時。
「あらあら……なら、あなたが出て行けば?」
気づけば、俺達の後ろにはユーリのお母さんがいた。
……それこそ、悪魔さえも凍え死んでしまうかのような氷の微笑を湛えて。
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次話は明日の夜更新予定です!
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