久坂大和と中岡悠里はお互いに宣言し合う。
ご覧いただき、ありがとうございます!
「あ」
突然、芹沢と藤堂エルザが駅前で口論を始める様子が見えた。
「な、なあ、あれ……」
「あ……!」
俺が二人を指差しながらユーリに声を掛けると、ユーリも驚いた表情で二人をまじまじと見る。
「な、何かあったのかな……」
「さあ……」
店の中にいるため、二人が何で言い争っているのかは分からないが、少なくともかなり険悪な状態であることは間違いない。
だけど。
「うーん……しかし、何だってこんな人の多い駅前でそんな真似するかね」
「そうだよね……それに、学校での様子からも、ケンカするような二人には思えないんだけど……」
「だよなあ」
俺はユーリの指摘に深く頷き、再度二人へと目をやる。
「お、どうやらケンカ別れすることになったみたいだぞ」
藤堂エルザが芹沢に一方的に罵るような仕草を見せた後、彼女は芹沢から足早に離れ、タクシーに乗車した。
一方の芹沢も、肩を落として大きくかぶりを振ると、そのまま駅の中へと入って行った。
「ふう……行ったな……」
「はあ……行ったね……」
俺達はお互いの顔を見合わせると、軽く溜息を吐いた。
「さあて、とりあえず二人もいなくなったし、そろそろ……」
そう切り出そうとして、ふと、ユーリを見ると、彼女は少し寂しそうな表情を浮かべた。
はあ……俺の彼女は可愛いなあ……。
「……つっても、まだ芹沢の奴が駅の中でウロウロしてるかもしれねーから、もう少しここで待機してるか」
「っ! う、うん!」
俺がそう言うと、ユーリは打って変わってパア、と笑顔になった。
うん、やっぱりユーリは可愛い。
ということで、俺達はそれからしばらくの間、カフェの中で雑談をしながら楽しく過ごした。
◇
「あ、ヤマト! おはよ!」
待ち合わせ場所の駅前で俺がユーリを見つけるより先に、ユーリがこちらへと駈け寄って元気に挨拶する。
「おう! おはようユーリ!」
俺はそれが嬉しくて、返した挨拶もいつもより声が大きくなってしまった。
「あはは! 何だかヤマト、今日は元気だね!」
「そりゃあ、朝から元気なユーリに逢えたからな」
「ふあ!? も、もう……えへへ」
はあ、可愛くはにかみやがって。
お持ち帰りするぞコノヤロウ。
そして、俺とユーリは一緒に登校するんだけど。
「そういや、今日から風紀委員会があの二人に張りつくんだよな?」
「うん」
俺はふとそんなことを思い出してユーリに尋ねると、彼女は軽く頷いた。
「だとしたら、昨日のあの様子だと今日の当番は可哀想だよなあ……ヘタすると巻き込まれかねん」
「あ、あはは……だねえ」
俺の余計なお世話的な呟きに、ユーリは思わず苦笑した。
「ま、まあ、俺達はあの二人からできる限り遠ざかっておこう。毎度毎度絡まれちゃかなわん」
「うん、そうだねー……あ、でも」
「ん? どうした?」
「あ、ううん……さすがに風紀委員が面倒なことになったら、間に入らない訳にはいかないなあ……って」
そう言うと、ユーリはあからさまに肩を落とした。
「ま、その時は俺も一緒に間に入るまでだ」
「あ、私のことを思ってそう言ってくれるのは、その、う、嬉しいけど……ヤマトはダメだよ」
「? どうしてだ?」
申し訳なさそうに上目遣いで俺を見るユーリに、俺は思わず尋ねた。
「だ、だって、その……多分、私とヤマトが一緒になってそんなことしたら、火に油を注いじゃうっていうか……」
「あー……」
確かになー……アイツ等なら変に騒ぎ出して、場をかき乱すこと請け合い。
「ま、まあ、そんなメンドクサイことにならないよう、祈っておくか……」
「そうだねー……はあ」
ユーリが相づちを打った後、深い溜息を吐く。
そして、学校に着いて教室の扉を開ける直前、俺はピタリ、と立ち止まる。
「ま、だけど」
「?」
「それでも、お前に何かあるようだったら、そんなことお構いなしに俺は割って入るからな」
「あ……うん……私も、ヤマトに何かあったなら、風紀委員とかそんなの関係なしに、割って入るんだから」
「はは、それ何の宣言だよ」
「えへへ、ヤマトこそ」
俺達はお互い微笑み合いながら、教室の中へ……って。
あー……案の定、芹沢と藤堂エルザは顔をしかめながら、背中合わせに自分の席についていた。
そして、それを心配そうに見つめるクラスメイト達と、苦笑しながら肩を竦める風紀委員の二人。
「お、思った通りだな……」
「ね、ねー……」
俺とユーリも、そんな教室内の様子に口の端をヒクヒクさせた。
だけど、そんな中……斎藤の奴だけが、そんな教室の雰囲気などお構いなしに、澄ました表情で俺達のところに近づいてきた。
「久坂、おはよう」
「あ、おう。ところで、あの二人の様子は昨日の続きだろうからそれは置いといて、なんで他の連中はここまで遠巻きに見守ってるんだ?」
「ああ……まあ、クラスメイト達も朝来たら二人がこんな険悪な状態になってるんだ。それはこんな反応になるのも頷けるだろう?」
「まーな。でも、積極的に関わろうとはしないのな」
「それはそうだろう。クラスメイト達も、自分達とは住む世界が違うと思っているだろうしな」
斎藤は、クラスメイト達を見やると、そんなことを言った。
「そういうお前は、そう思ってないみたいだな」
「俺か? まあ、そうだな」
軽く頷くと、斎藤はまた自分の席へと戻って行った。
「なあ、ユーリ」
「ん? 何?」
「ユーリと芹沢って、小中と同じ学校だったんだよな?」
「そうだよ。不本意だけど」
「そうか……じゃあ、斎藤の奴はどうだった?」
「斎藤くん? うーん……斎藤くんは同じ学校、だったかなあ?」
「そうか、サンキュー」
「? う、うん……」
首を捻るユーリに俺は軽く礼を言うと、俺の質問の意図が分からないユーリは思わずキョトンとした。
ま、でも、多分そういうことだろうな。
俺は一人納得して頷くと、HRが始まるまでの間、教室の雰囲気は無視してユーリと雑談した。
……風紀委員達のニヨニヨした視線だけがどうしても気になったけど。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜更新予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




