久坂大和と中岡悠里は芹沢悠馬と藤堂エルザの口論を目撃する。
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「そーれ、できたぞー」
俺は出来上がった鶏みぞれ鍋を、あらかじめダイニングテーブルにセットしておいたコンロに乗せると。
「「わあい!」」
ユーリと文香が瞳をキラキラさせながら鍋の中を覗き込んでいる。
うーん、何というか餌付けしている気分。
「さて、それじゃ食うか」
「「はーい!」」
うむうむ、良い返事だ。
「ではでは、いただきます」
「「いただきます!」」
俺達は手を合わせると、ユーリと文香が我先にと鍋をつつく。
「「美味しーい!」」
「はは、二人共たくさん食べてもいいけど、腹八分目にしとけよ」
「へ? なんで?」
俺が釘を刺すと、二人は不思議そうに俺を見つめる。
「そりゃ、シメに雑炊するからに決まってるだろ」
「「あ!」」
俺の言葉に納得した二人は、腹八分目を心掛け……てるのか!?
鍋の中身、あっという間になくなったぞ!?
「ねーねー! もう雑炊にしようよ!」
「そうだそうだ!」
おおう……どうやらまだまだ余力がありそうだ。
「んじゃ、雑炊にするか」
俺は鍋の中身……というか残骸を取り除くと、冷やご飯と刻んだネギ、塩少々を投入して一煮立ち。
コンロの火を止め、そこに溶き卵を入れて鍋に蓋をする。
「まだかな、まだかな」
ユーリはワクワクしながら鍋を凝視するが……全く、一挙手一投足可愛いな。
「さて、そろそろいいかな」
俺は鍋の蓋を開けると……うん、ちょうどいい固さんの半熟具合だ。
茶碗に雑炊をよそい、ユーリと文香にそれを渡す。
「はふはふ……うーん、優しい味だー!」
「美味しい美味しい!」
はは、こんなに喜んだら、本当に作り甲斐があるってもんだ。
そして。
「「ごちそうさまでしたー!」」
「おう、お粗末様でした」
綺麗に平らげた二人は、幸せそうな表情を浮かべる。
うん、今日は鍋にして正解だったな……おかげで俺の心もいっぱいだ。
◇
「お邪魔しましたー!」
玄関で靴を履くユーリが、文香に挨拶する。
「悠里さん、バイバイ!」
「文香ちゃん、バイバイ!」
「んじゃ、行くぞ」
「うん!」
俺はユーリ一緒に玄関を出ると、今日もいつものようにユーリを送っていく。
あ、そうそう。
「つか、“お邪魔しました”なんて言う必要ねーぞ?」
「へ? なんで?」
隣を歩くユーリに俺はそう告げると、ユーリは不思議そうな顔をした。
「や、だって、お前は俺達の家族の一員みたいなモンなんだから、“お邪魔しました”なんておかしいだろ?」
「ふあ……そ、そうだね……」
するとユーリは、頬を赤らめながら俺の手をギュ、と握った。
そして、手を繋いだまま駅前に辿り着くと。
「あ、あれは……」
そこには、芹沢と藤堂エルザがいた。
つーか、今時あんな怪しげなサングラスに帽子にマスク、さらにはコートで襟立てって……むしろ目立って仕方ないんだけど。見つけて欲しいのかな?
「うわあ……ツイてないというか、何というか……」
「なー……」
俺達は二人を遠巻きに眺めながら、思わず気の抜けた声を出した。
「どうする?」
俺はユーリに尋ねる。
だって、このまま駅に行くと、絶対あの二人が絡んでくるのは間違いないからな。
「そ、そうだねー……あ、ちょっとあそこで時間潰そっか」
そう言ってユーリが指差したのは、駅前のカフェスタンドを指差した。
「そうだな。だけどお前、時間は大丈夫か?」
「あ、うん。カフェでお母様とお手伝いさんにメールしておくから大丈夫」
ん、ならいいんだけど。
そして、俺達はカフェの中に入ると、俺はホットコーヒー、ユーリはホットミルクティーを注文した。
で、窓際の席に陣取って。
「なー……アイツ等って、なんでわざわざあんな恰好してまで駅前にいるんだろうな」
「ねー……」
ドリンクを口に含みながら、俺達はぼんやりとあの二人を眺める。
その時。
「む、久坂達も来ていたのか」
なんと斎藤が突然俺達の前にスッと現れ、声を掛けてきた。
つか、どこから現れたんだよ。
「ああ……」
「齋藤くん、こんばんはー」
俺は適当に相づちを打ち、ユーリはにこやかに挨拶をした。
すると斎藤の奴、俺達の隣の席にわざわざ移動してきやがった。
「オイオイ、俺達の邪魔する気かよ」
「はは、そうだな。やはり俺としても、今まであんなにいがみ合っていた二人が急に付き合い出したんだ。邪魔してでも気になるのも当然だろう?」
「あはは……」
そう言って、斎藤が肩を竦めると、ユーリが苦笑した。
「それで、どうして二人は付き合うことになったんだ?」
「ん? なーに、簡単だよ。俺はユーリが好きで、ユーリも俺のことを好きと言ってくれた、それだけだよ」
「えへへ……うん」
俺とユーリは見つめ合うと、お互い微笑み合った。
「それじゃよく分からんな。もっと詳しく」
「えー、それはイヤだ。つか、俺達の馴れ初めなんざ聞いても、別に楽しいモンでもないだろ」
「いや、そうでもないぞ? 俺は意外と、人の恋バナは嫌いじゃない」
「あっそ」
したり顔でそう語る斎藤に俺は素っ気ない返事を返すと、俺は窓の外にいるあの二人に視線を戻した。
「む、あれは芹沢達か?」
「ああ。しっかし、なんであんなすぐバレる変装なんかするかねえ?」
「確かにな」
芹沢達に気づいた齋藤に、俺は苦笑しながらそう言うと、斎藤も一緒になって苦笑した。
「さて、あまり二人の邪魔をしても悪いな。俺はそろそろ退散するよ」
「おー。つか、最初からそっとしておいてくれたほうが助かるんだけど」
「はは、そう言うな。じゃあな」
斎藤は席を立って手をヒラヒラさせると、そのまま店を出て行った。
「うーん……斎藤くんって、何だか不思議な人だよね」
「そうだなー」
「そうだなー、って、ヤマトは友達でしょ?」
「ん? 俺? や、クラスメイトではあるけど、別に友達ってわけじゃないぞ?」
「え? そうなの?」
俺の言葉が意外だったのか、ユーリが少し驚いた顔をした。
「そうだよ。高校に入ってからの二年間、たまたま同じクラスだっただけで、別にそれほど仲がいい訳じゃねーぞ?」
「ふーん。てっきり友達同士なんだと思ってたよ」
そう言うと、ユーリがミルクティーを口に含む。
すると。
「あ」
突然、芹沢と藤堂エルザが駅前で口論を始める様子が見えた。
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